ホームでお勉強
約束の10分前にホームに戻ると、既に先生が来ていた。
ウィンディに頼んで、十兵衛の特大ポスターを何枚もプリントアウトしている。
「ルイ君、カリンちゃん、おかえりなさい。勝手にTV置いちゃったけど、ダメだったら言ってね」
運営からの通知を受ける為に必要だから構わないのだけど、大画面には世界大会での十兵衛の試合が流れていた。
「家にいる時は、エンドレスで再生してるのよ」
「「……」」
ニッコリ笑う先生に、私も流生もドン引きだ。
「ルイ君にお願いが有るんだけど、良いかな?」
「何ですか?」
「ほら、言葉遣い気を付けて」
先生も、そこに結構拘るんだ?
「…頼みって何?」
「錬金術師のギルドを知らないかしら?」
「まだ、他のプレイヤーと殆ど接触してないから分からないな。ポーションなら、凛も作れるよ」
「…そ、そうじゃなくて、…あのね、」
「どうした?」
『ノナちゃんはフィギュアを作る素材が欲しんですよ』
「…あ、うぁ、」
言い淀む先生に変わって、ウィンディが答えた。
そう言えば、自宅の寝室には十兵衛の等身大フィギュアがあるって言ってたっけ?
「先生、作って良いのは十兵衛だけですよ。ルイちゃんの等身大フィギュアはダメですからね」
「そうですよ。ルイの等身大フィギュアなんて寝室に置いたら、パーティーから除名しますよ」
ユナとリサも戻って来た。
「…い、いやぁね、そ、そんな事しないわよ」
「何ですか、今の間は?しかも吃ってるし。ルイっちのフィギュアを抱き枕にでもする気だったんですか?」
「ヒィッ!」
最後にレイが、先生の真後ろにポップした。
これで全員揃った。
「流生、どうする?部屋割り決めようか」
「そうだな、基本的にどの部屋も一緒だろうけど」
「ねぇ、相部屋ってあり?」
レイが相部屋を提案してきた。
「私も1人より誰かと一緒が良いわ」
「先生も?」
「だって、1人部屋じゃ家にいるのと同じだもの」
「確かに1人で寝るなら、ここで寝る必要もないわね」
レイに続いて、先生とリサも相部屋を希望した。
「そ、そうなると、15歳以上とは言え、中高生の男女が相部屋はよろしくないわね。お、大人として、わ、私がルイ君と、…」
「「「「先生!」」」」
先生がとんでもない事を言い出した。
当然、私達が認める訳はない。
「油断も隙も無いですね。ルイちゃんはリンちゃんと相部屋です」
「「えっ?!」」
結菜の言葉に私も流生も驚いた。
「それが妥当ね。ルイとリンは普段から一緒なんだろうし」
「…あぅ…、あ、」
「もう、リンコは今更照れなくても」
ユナ達3人は私と流生の同室で話を進めようとした。
だけど、それこそ家に帰れば済む話だ。
家ならエッチも出来るし。
「俺が1人部屋でどうだ?この家の部屋はかなり広い。ベッド3つくらい置けるだろ。ノナと凛達は流動的に、2人部屋と3人部屋を行ったり来たりすれば良いだろう。休みの前の日なら、全員集まって遅くまで女子会をしたって良い。勿論、遊ぶのは勉強が終わってからだ」
流石、流生だ。
誰からも不満が出ないどころか、私達が最大限楽しめる案を出してくれた。
「ルイちゃんが一番大人ね」
「ホント。変な理屈で、ルイと同室になろうとした自称大人とは大違いよ」
「…あぅ、…」
「先生と2人だとお互い気を使いそうなので、先生は基本3人部屋でお願いします」
「…うん。私も大勢の方が嬉しいし」
先生が少しシュンとしてしまったが、3つの部屋の用途が決まり、早速家具を設置した。
3人部屋は、先生が中心となって進めた。
みんなが1枚だけならOKと言うと、先生は一番お気に入りらしい十兵衛のポスターを壁に張った。
2人部屋はユナとリサに任せた。
チェストを設置すると第1期のように、ルームウェアなどが入っていた。
全員が学校ジャージのようなルームウェアに着替えると、本当に修学旅行みたいだ。
寝室が出来上がると、皆がリビングに集まった。
3人掛けのソファを2つ、大きなローテーブルを挟んで、向かい合わせで配置した。
片側のソファの中央には流生が座り、左側に私が座った。
ユナが流生の右側に腰を下ろす。
「ユナっち、ルイっちの右側は3人で交代だよ」
「分かってる」
ユナ、リサ、レイが交代で流生の隣に座るらしい。
改めて流生が好きだと私に打ち明けた日から、彼女達の行動は一貫している。
私の居場所には侵出しない。
空いてる場所を3人で分け合う。
言葉で言われなくても、彼女達の言いたい事は分かる。
複数人での恋愛関係に発展した場合の、自分達の立ち位置をアピールしているのだろう。
恋愛観には大きな隔たりが有るが、彼女達の想いが真剣である事だけは伝わって来る。
「わ、私もそのローテーションに参加したいな」
「「「……」」」
先生もか?
元々、ヤンと言って良いレベルで、十兵衛に執着していたのだ。
歳の差以上に立場的にどうかと思うが、中の人の流生に好意を持ってない筈がない。
「ゲームの中でなら良いんじゃない?」
「…リンコがそう言うなら」
「先生、文化祭の時みたいにルイちゃんにエッチな事しちゃダメですよ」
((
「じゃあ、そろそろ残りの部屋の使い道を決めるか?」
この話は流生が打ち切った。
「第1期の時みたいに勉強部屋がいるよね?」
「そうだな。ウィンディ、部屋って一部屋にぶち抜いたり出来るのか?」
『出来ますよ〜。有料ですけど、八岐大蛇を倒して沢山お金がドロップしてますから、十分足ります』
このシステムも第1期から修正された。
魔物を倒すと、ゲーム内通貨が手に入る。
第2期からは、非戦闘系のプレイヤーも参加しているので、買い物が出来る店とかが増えるという事だろう。
「それじゃ取り敢えず、一部屋は個別指導室に残して、二部屋を繋げて大部屋にしよう」
「それ良いね。確かに問題を解いてる横で、ルイっちが誰かに解説してると、気が散る事があるもんね」
「ルイは全教科見れるし教え方も上手いし、ここまで環境も整えて貰って、これもう完全に商売で塾が開けるレベルだよ」
「ルイちゃんに応える為にも、今度の中間テストは結果出さないとね」
流生の提案に、3人も勉強するスイッチが入ったようだ。
「…本当にゲームの中で、ガチに勉強するんだ?」
先生は、また驚いていた。
「中間試験まで10日もない。さっさと準備して始めるぞ」
「「「「うん!」」」」
この日も、流生は容赦なかった。
勉強を終えた私達は、クタクタになった。
「本当に驚いたわ。ルイ君って何処まで勉強進めてるの?」
私達の勉強に付き合ってくれた先生は、初めて流生の学力の高さを目の当たりにした。
「高校の範囲は一通り終わってますよ」
「…急いでルイ君を確保した先生方の判断は正しかったのね。君には授業料免除の他に学校から奨学金が出るらしいわよ。既に親御さんには連絡が行ってると思うわ」
「「「「ほえぇ〜…」」」」
私達は間抜けな声を漏らした。
「貴方達も他人事じゃないのよ。このままルイ君について行ったら、カリンちゃんとユナさんは、年度末には特待生を喰ってしまうんじゃないかしら」
「…なんか自分の事じゃないみたいです」
ユナの言っている事は良く分かる。
流生に会わなければ、特待生どころかAクラスさえ遠い存在だったんだから。
「ほら、そんな先の話より中間試験に集中しろ。良い成績取って、ご褒美貰うんだろ?」
「えっ?!あれ、冗談だったのに。ルイ、本気で考えてくれてたの?」
「全員30位以内に入ったら、何か用意する。出来るか?」
一瞬驚いた3人が、力強く答える。
「「「やる!絶対に30位以内に入る!」」」
結菜達に更に気合が入った。
『全員30位以内』の条件では、誰かが脱落する訳にはいかない。
呆れる程、煽るのが上手い。
私も頑張らなきゃ。
「そろそろ、お開きにしよう。明日も学校だ」
流生の言葉に皆がコクンと頷き、寝室に散って行く。
「おやすみ」
「「「「「おやすみ〜」」」」」
特に示し合わせた訳ではないが、今夜は私とユナが2人部屋になった。
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