天叢雲剣

八岐大蛇を倒した後、私達は一通りイズモモ村の被害状況を確認した。

柵を壊された以外、被害はなかった。


「娘さんをお返しします」


流生がテナさんに爪櫛を手渡した。

私たちに掛かったバフは、八岐大蛇との戦闘を終えると、直ぐに解けてしまっていた。

このイベント限定だったようだ。

当たり前と言えば当たり前だ。

常にパラメータ10倍なんて唯のバランスブレーカーだ。


テナさんに返された爪櫛が、クシナダの姿に戻った。

クシナダが少し悲しそうな顔で、流生に抱きついた。


「助けてくれて有難う御座います。お兄さん、凄く格好良かった。お兄さんのお嫁さんになりたかったなぁ」

「「「「「……」」」」」


女性陣はクシナダに感情移入してしまった。


「また遊びに来るから」


流生が頭を撫でると、クシナダがヘニャリと笑った。


「えへ、まだチャンスがあるんだ?私はお妾さんでも良いよ」

「「「「「!」」」」」


クシナダの落とした爆弾に私達はフリーズした。


「お兄さん達は行かなきゃならないんだよね」


NPCがプレイヤーを束縛したら、ゲームにならない。

クシナダは、私達を笑顔で送り出してくれた。


帰りの道中、話題の中心はユナだった。


「ユナっち凄かったよね。私なんて腰抜かしてたのに」

「ホントだよ。私達と同じ初心者とは思えなかったよ」

「…本当は怖くて脚が震えてんだけど、あの怪物倒すとルイちゃんが欲しがってる刀が手に入るってリンちゃんに聞いてたから、どうしても倒したかったの」

「「「「「……」」」」」


(この娘、流生の為なら、そこまでするんだ?)


「…ユナ、なんて言って良いか分からないけど、有り難うな」

「私達の方が、ルイちゃんにはもっとお世話になってるから。でも、お礼言ってもらえて嬉しいな」

「じゃあ、今日も張り切って勉強しようか。お返しに俺も気合い入れるから」

「わぁ〜、ルイっち台無しだよ」

「あなた達、これから勉強するの?!」


先生がそこで驚いちゃダメでしょ。


「ログアウトしてから、予備校の自習室で勉強です」

「ルイ、プレイヤーハウス(以下、ホーム)って使えないの?」

「私も楽しみにしてたんだけど」


リサとレイはホームに興味津々だった。


「パーティーメンバーの誰かのログイン時間が24時間超えないとダメらしい」

『そんな事ないですよ』

「「ウィンディ?!」」


そう言えば、ウィンディは今まで何してたんだろう?


『ちょっとナビAIの機能にバグが見つかって、緊急メンテがあったんです』

「そうだったのか。それよりホームが使えるって?」

『はい。元々24時間縛りは、直ぐに辞めてしまうプレイヤーもいるので、設けられた設定なんです。第1期βに参加したプレイヤーは最初から使える事になってます。その説明をする前にメンテが始まってしまいました』

「第2期から参加したプレイヤーからクレーム来ないか?」

『βテスターがアドバンテージを持つのは、どのゲームでも同じなので、その程度は問題ありません。寧ろ、カリンちゃんの杖と彼氏さんの剣の方が、他のプレイヤーから不満が出そうです。こんなに早く入手出来る筈じゃなかったんで』

「あ、忘れてた。この刀、鑑定して貰おうと思ってたんだ」


流生がストレージから天叢雲剣(推定)を取り出した。


『彼氏さんの見立て通りレア度10のユニークアイテム、天叢雲剣です。形状が彼氏さんの知っている天叢雲剣と違うのは、カリンちゃんの杖と違って、入手したプレイヤーが使形状になるからです』

「それで、『典太』そっくりだったのか。じゃあ、俺がエクスカリバーとか手に入れたら、それもポン刀になるのか?」

『それは私からは言えません』


(見覚えがあると思ったら、十兵衛の刀と同じ形だったんだ)


流生とウィンディが話し込んでいると、リサとレイが何か聞きたそうにしていた。

ユナもか?


「ルイっち、ホームが使えるの?」

「そうみたいだな。アムダスに戻ったら、設置しよう」

「やったぁぁああ!」


いきなり、先生が子供みたいにはしゃぎ出した。

みんな少し引いている。


「えへ、えへへ、大学生の頃からリアルでもバーチャルでも、ずっと一人暮らしだったの。旅行みたいで、楽しみだなぁ」

「ノナ、一人旅以外に旅行なんて行ったこあるのか?」

「あるよ!し、修学旅行とか、…修学旅行とか、…もぉう、ルイ君、意地悪だよ」


先生が涙目で、流生をポカポカ叩いた。

女子高生みたいなアバターなので、言動から先生の方が年下に見える。

流生も年齢通りの見た目の筈なんだが…



八岐大蛇を倒し一気にレベルが上がったお陰で、帰りは行きよりも随分と楽になった。

ゴブリンやコボルトくらいなら、ユナが盾で弾き返すだけで倒せてしまう。

恐らく、現状では私達のパーティーが最強だろう。


苦もなくアムダスに戻って来ると、既に多くのホームが設置されていた。

単純計算で第1期の10倍のホームが設置される事を考えると、スペースが足りない気がする。


「流生、設置する場所が余りなさそうだよ」

「運営も何か考えてるだろう」


この疑問にはウィンディが答えてくれた。


『彼氏さんの言う通りです。ホームはインスタンスエリアなので、マップ上の全く同じ場所に何軒建っていても問題ありません。実際に皆さんの目には1軒に見えるホームも、何軒も重なっている物があります。目に見える優先順位は、自分のホーム、フレンド登録したプレイヤーのホーム、設置された順番です』


「今現在、ホームがある場所にも、俺達のホームが設置出来るって事か?」

『はい。その場合は、今皆さんに見えているホームが見えなくなります』


ちょっと不思議な感じがするが、そういうモノだと納得するしかない。

流生が、広場の北側にホームを設置しようと提案した。

特に反対意見は出なかった。


4人パーティー以上は、平屋か2階建が選べた。

どちらも床面積が同じだと分かると、満場一致で平屋に決まった。


ホームを設置し、6人で中に入って行く。

日本人の習慣か、全員が靴やブーツを装備から外した。

有難い事に、スリッパが用意してあった。

第1期にはなかったので、テスターからのリクエストがあったのかも知れない。


「広〜い!」

「ゲームって分かってても、贅沢だよねぇ」

「ルイちゃん、部屋って幾つかあるの?」

「ルイ君、カリンちゃん、早く家具置こう」


4人とも楽しそうだが、先生のはしゃぎ方が一番凄い。


「部屋は、LDKと倉庫の他にパーティーの人数分ある」

「リビングも第1期の時より広いね」

「多分、リビングもパーティーの人数で広さが変わるんだろう」

「どうする?部屋割りとか決めちゃう?」

「いや、一旦ログアウトして、各自晩飯を済ませて再集合しよう」


先生がちょっと不服そうだったが、流生の指示に従う事になった。


「ルイ君の言う通りにするから、今日ここに泊まって良い?」

「まあ、それは構わないけど、ちゃんと夕飯食べて風呂に入って来いよ。歯も磨くんだぞ」

「わ、私、子供じゃないよ!」

「ルイちゃん、先生も一応社会人なんだし…」

「そうだよルイっち、親戚の子供の面倒見てるみたいだよ」


流生は面倒見が良いからなぁ。

先生が子供っぽいから、つい言っちゃうんだろうな。


「他に泊まる人いる?」

「「「はい」」」


先生の問いかけに、結菜達3人が手を挙げた。

この流れだと、私達も泊まるしかないか。


もし昨日だったら絶対に断ったけど、今日なら良いか。

昨夜は流生が凄過ぎて立てなくなっちゃったから、今日はエッチお休みしたいし。


「流生、私達もこっちで寝ようか?」

「凛がそうしたいなら良いよ」


結局、全員がホームで寝る事になり、一旦解散となった。

2時間後集合という事で、私達はログアウトした。

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