第2期βスタート

「ルイちゃ〜ん」


男どもに囲まれた結菜が、手を振りながら俺を呼んでいる。

第2期β初日、開始と同時に俺達はログインした。


広場にポップした俺と凛は、他の4人の回収に向かった。

ソレイユ(陽葵)とリサポン(亜里沙)とは、既に合流済みで、ユナポン(結菜)とノナ(美玖)さんを迎えに行く途中である。


第1期とはプレイヤーの数が違い、広場はプレイヤーでごった返していた。

どのゲームでも同じだが、男どもは女性プレイヤーをパーティーに誘おうとスタートダッシュを掛けている。


「ごめんね、仲間が迎えに来たから」


結菜が、自分を囲む男どもに一声かけて、俺達と合流した。


「後は、先生だけね」

「ノナさんは慣れてるから大丈夫だろ。ウィンディ、ノナさんの所に向かってくれ」

『は〜い♪こっちですよ〜』


俺達が簡単に結菜達を見付けられたのは、ウィンディと各自のナビAIのお陰だ。

双方が探している場合に限り、ナビAI同士が相手の位置を教えてくれる。

ナンパ目的やPK目的では、ナビAIが探してくれる事はない。


ウィンディの先導で神殿に向かって歩いて行くと、人集りが出来ていた。

男どもが何か揉めている。


「お前ら、何したんだよ?!」

「何にもしてねぇよ!パーティーに誘っただけだよ」

「嘘つくな、この娘泣いてるだろ」

「本当だって、声掛けただけだよ」


もしやと思って人集りの中心を見ると、紫の髪の女の子がしゃがみ込んで泣いていた。


「ヒグ、ヒグ、仲間が、ヒグ、迎えに来るん、ヒグ、です、入るパーティーも、ウグ、決まってるん、です、」


ノナさんだった。

見知らぬ男どもに声を掛けられ、泣き出してしまったようだ。


「ノナさん、迎えに来ましたよ」


俺の声にノナさんが、顔を上げた。


「ルイ君!遅いよぉ、怖かったんだよぉ」

「あ、待った!今ダメ!」


俺の制止を聞かず、ノナさんが凄い勢いで走って来た。

ル○ンダイブ(服は脱がないが)で俺に抱き付こうとして…


「アババババババババ」


電気ショックを受けたように身体を硬直させ倒れ込んだ。


「まだセクハラ防止機能切ってないんだから、女の人でも異性に抱きついたり出来ませんよ」


セクハラ防止機能って、発動すると全身スタンガンみたいなるのか?

これだけVRMMOをやり込んできて、発動するのを初めて見た。

凛に手を借り、ノナさんが起き上がった。


「取り敢えず、落ち着ける場所を探しましょう」

「…そ、そんないきなり、ラ、ラブホなんて」

「あんた何考えてるんだ?!落ち着ける場所はラブホ一択か?!」

「流生、先生ってウィンディと気が合いそうだね」


確か神殿の裏に空き地があったはずだ。

俺達は神殿の裏の開けたスペースで輪になって座り、準備を始めた。

周りでも同じ様に準備をしているパーティーが、幾つもあった。


「ルイ君、ガチャ引こう、ガチャ」


今日のノナさんは、テンションが高い。

このパーティーでプレイするのが、よほど嬉しいみたいだ。


コアなプレイヤー程、初心者を排除したがる傾向にある。

ノナさんは、全くそんな素振りを見せない。

これが、この人の良い所なんだろうな。

そんな事を考えていたら、ノナさんが大声を上げた。


「キタァァァアアア!!」


ガチャが虹色の光に包まれている。

俺が第1期βで、レア度5を当てた時と同じ演出だ。


『ランツクネヒトの大剣』


長さ150cm位ありそうな両手剣だった。

ランツクネヒトは、マクシミリアン1世が編成した歩兵の傭兵部隊だ。


『うわぁ〜♪ いきなりレア度5ですよ。彼氏さんのお連れの方は引きが強いですね』


ウィンディが、はしゃいでいる。


「…そ、そんな彼氏だなんて、…ルイ君はカリンちゃんの彼氏だから」

「ち、ちょっと、先生、何赤くなってるんですか?」

「い、いやぁね、赤くにゃんてなってにゃいわよ」

「「「「しかも噛んでるし!」」」」


5人でキャッキャウフフしている姿は、とても教師と生徒には見えない。

JK5人組と言っても誰も疑わないだろう。


5人が騒ぐので、かなり周囲から注目を集めたが、準備は着々と進んだ。

6人でワイワイ騒ぎながらガチャを回す。


俺はまたレア度5の刀を引き当てた。


『菊一文字則宗』


新撰組の沖田総司の佩刀とも言われる業物だ。

フィクションという説が強いが、それはどうでも良いだろう。

前回の土方歳三の『和泉守兼定』に続き、新撰組シリーズだ。

第3期のオープンβで、近藤勇の『長曾祢虎徹ながそねこてつ』を引けば、コンプリートだ。


ユナポンが引いたのもレア度5だ。


隼人の盾はやとのたて


1960年代に平城宮跡から出土した盾だ。

随分とマニアックな物が出た。

第1期では気付かなかったけど、ガチャのカテゴリーでは盾も武器扱いだった。


後衛の武器も前回の凛より、レア度の高い物が出た。

リサポンはレア度5の『エリファス・レヴィの杖』、ソレイユはレア度4の『賢者の杖』を引いた。

エリファス・レヴィはフランスの薔薇十字団を再建した隠秘学者だ。

魔術の研究はしていただろうが、杖を持って魔法を使ってた訳ではないだろう。


凛はまたしてもレア度3の『魔道士の杖』だったが、『アスクレピオスの杖』があるので、正直どうでも良い感じだった。


結局6人中4人が、レア度5を引いた。

ウィンディが言っていた出現確率2%って本当なのだろうか?



「何だよ、この糞ゲー!」

「5人全員、レア度2が最高って有り得ねぇだろ!」

「本当にレア度5なんて出るのかよ!」

「武器も防具もアクセサリーも爆死って何なのよ!」



周囲ではガチャで爆死したプレイヤーが怒り狂っていた。

やっぱりウィンディの言う通りだった。


男女比1:5のメンバー構成だけでも、周囲の視線が痛いのに、ガチャも当たり連発だ。

そろそろ出発した方が良いかも知れない。

俺達は、アムダスの南門に向かって歩き出した。


「ユナポン、パラメーター設定は出来た?」

「「「「「プッ…」」」」」


いきなり5人が吹き出した?


「何だよ、何でみんな笑うんだよ?ノナさんまで?」

「ルイちゃんが『ユナポン』って女子校生みたいな呼び方するから、おかしくて…」


俺だって、この呼び方は恥ずかしいよ。


「ゲームではHNで呼ぶのがマナーだろ?」

「そうだけど、『ポン』は要らないよ。『ユナ』と『リサ』で良いよ」

「そうそう、私達もルイの事は現実リアルと同じ呼び方をしてるんだから」

「ユナとリサか?癖になると、リアルでもそう呼んじゃいそうだな」

「それはそれで良いよ」

「私もルイだけの愛称って、特別感があって嬉しいかも」


取り敢えず、リサポン・ユナポン呼びから解放された。


「ルイ君、私も呼び捨てで良いよ。1人だけさん付けだと変な感じ」

「それもそうですね。遠慮なくノナって呼ばせて貰います」

「うん、言葉使いもみんなと同じにしてね」

「分かりました。善処します」


各自の呼称などの話になり、本題から逸れた。

今はパラメータの確認だった。


「ユナ、パラメータの設定大丈夫?」

「うん。ルイちゃんに言われた通り、VITとSTRを多めにした」


ユナは問題なさそうだ。

後衛の2人は凛に任せた。


「流生、リサもソレイユも大丈夫だよ」


こっちも問題ない。


「ねぇ流生、ソレイユもちょっと呼びにくくない?」


凛が名前の話を蒸し返した。


「私も愛称欲しいな」


HN自体が愛称みたいなモンだと思うが。


「ソレじゃ変だしイユも変だよね、レイはどう?」

「あ、それが良い。リンコ、ナイスだよ」

「じゃあ、レイで決まりね」


なんの為にHN付けたんだか?

まあ、パーティー内だけの愛称ってのもアリか。


「みんな、呼び方には満足したか?」

「「「「「は〜い」」」」」


さて、やっと本題だ。


「それじゃ行くけど、3人は最初の戦闘には参加しないで、見学してくれ」

「どうして?私達、足手まとい?」


ユナが不安そうな顔をする。


「そうじゃない。VRゲームの戦闘は臨場感がハンパない。人によっては1回の戦闘でトラウマになって、二度とVRのRPGをやらなくなる事もあるんだ」

「「「……」」」

「特にユナは魔物との接近戦になる。最初は怖く感じるのも仕方ないけど、俺とノナの戦闘を見て、耐え切れそうになければ正直に言ってくれ」

「うん、ありがとう」

「流生は過保護ね…」

「でも、この性格だから、私もルイ君は大丈夫なのよ」


実際に初心者がパワーレベリングで、PTSDになった話は有名だ。

いきなり、自分の3倍以上の大きさの魔物や、牙を剥き出しにした魔獣に襲われたら、そうなっても不思議はない。

現在では、初心者にはパワーレベリングをやらせないのが一般的だ。


注意事項を伝えた後、いよいよ門を抜ける。


『は〜い、皆さん♪ 初回特典のアイテムですよ』


第1期同様、街を出る前にポーション一式とテントをウィンディから渡された。

ユナ達もストレージの使い方は分かっているようで、直ぐにアイテムを仕舞い込む。


「流生、最初はやっぱりイズモモ村?」


凛が行き先を聞いてくる。


「ああ、先ずは天叢雲剣を手に入れる」

「まだ2ヶ月経ってないけど、怪物は出るかな?」

「多分、ゲーム内は2ヶ月経ってるよ」

「そうだよね、ゲームとリアルの時間経過が違うのは、良くある事だよね」


今回は他のプレイヤーに絡まれる事なく、出発できた。

新パーティーの初陣だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る