新パーティー

「うわぁ〜、ガチだよ、これ」

「凄い、eスポーツ部にあったヤツより大きいよね」


亜里沙と陽葵が、リビングに張られたポスターを見て、驚きの声を上げた。

出来合いのポスターの他に、スクショをプリントアウトした自作のポスターもある。


「先生、このフィギュアって特注ですか?」


結菜がローボードに置かれたフィギュアを目敏く見つけた。


「あ、それ、3Dプリンターのデータを専門のショップに頼んで作って貰ったの」

「もっと大きいのも作れるって事ですか?」

「寝室には等身大のがあるのよ」


その言葉に流生がドン引きした。

部屋にあったポスターもフィギュアも全て『十兵衛』だった。


「ルイ君、何でそんな顔するの?」

「…ミクサン ミタイナ ネッシンナ ファンガイテ ウレシイデス」


(流生、棒読みどころか、片言に近いよ)




視聴覚室で話をした後、私達は先生の自宅に場所を移した。

使用禁止期間の視聴覚室に長居も出来ない。

場所を何処に移すか、流生と先生が話し合った。


いつもの予備校の自習室は先生と一緒はマズい。

有料になるのは構わないが、現役の高校教師が特定の生徒と利用するのは、後で問題になるかもしれない。


学校のVR補習室には、桐高の生徒でない流生が入れない。

仮に入れても、履歴の残る補習室で教師と生徒がゲームをしていたら、これも問題になる。


「私の家に来る?」


突然、先生が言い出した。


「リアルで集まった方が、後藤さん達初心者組の準備もやり易いわ」

「生徒を自宅に入れて良いんですか?」

「それは問題ないわ」


結局、各自ゲーム機を持参して再集合となった。

先生の自宅は、かなりハイグレードなマンションで、2LDKの部屋に1人で住んでいるらしい。


「美玖さん、全員一度に(ネットに)繋いで、大丈夫ですか?」

「平気よ。ウチは1000Tbpsテラビットの専用回線だから」

「俺ん所と同じだ」

「「「……」」」


それ、一般家庭のインフラじゃないから。

IT企業の設備だから。


流生と先生の会話に呆れながら、3人が鞄からゲーム機を取り出した。

亜里沙と陽葵は、新品のゲーム機に使用感のあるヘッドギアの組み合わせだ。


「TGOでルイに勉強見てもらう事になったからね。親が買ってくれたの」

「私もそうだよ。今までは家族共有の汎用タイプのVR機を使ってたんだ」

「最初はゲーム専用機なんてって文句言われたけど、先週の小テストの結果見せたら、これからもルイに勉強見て貰えって」

「ウチの親もそう。予備校の入学金より、全然安いって買ってくれた。またルイっちの家にお礼に行くって言ってたよ」


2人はニコニコしながら、ゲームの梱包を解いた。


結菜のゲーム機は新しいけど、既に使った形跡があった。

結菜がゲームをした話は聞いた事がない。


「結菜ってゲームやるんだ?」

「VRMMORPGっていうのやってみたくて買ったんだけど、上手く仲間に入れなくて、誘ってくれる人も男の人ばかりで、リアルの個人情報とか聞き出そうとするから、怖くなって辞めちゃった」


そう言うヤツらが多いから、女性プレイヤーが増えないんだよ。


「分かるわ、後藤さん。私も全然仲間を見付けられなくて、仕方なくクランに入ったの」

「今度は私達が一緒だから大丈夫よ。なんせ流生がいるからね」

「うん、ルイちゃんは頼りになるからね」

「それはそうよ。十兵衛様の中の人なんだから。えへ、えへへ…」


先生が、手に持った十兵衛のフィギュアを撫でながら、変な笑い方をしている。

この人、大丈夫かな。

完全にヤンだよ。


ちゃんと流生と十兵衛を切り分けられてるよね?

アニオタがオキニのキャラを『嫁』にするのと、同じ感覚だよね?

自分の生徒になる男の子に、手を出したりしないよね?




「リンコ、初期設定終わったよ」

「私も終わった、オリジナルアカウントの移植も出来た」


結菜と話してる間に、亜里沙と陽葵のゲーム機の準備が出来た。

この2人は、VRゲームをやるのは初めてなので、流用するアバターがない。

結菜は、少しだけMMOを試したようなので、その時のアバターがあるはずだ。


「結菜は、前のアバターを使う?」

「う〜ん、どうしようかなぁ、新しく作り直すよ」

「まあ、嫌な思いしたなら、その方が良いかもね」


先生が、以前流生がやっていたように、タッチパネル式のモニターを結菜のゲーム機に繋いだ。


(このやり方って、一般的なのかな?)


「後藤さん、本体の電源入れて良いわよ」


結菜がゲーム機の電源を入れると、モニターが連動してスリープモードから立ち上がる。

モニターの壁紙を見た私達はフリーズした。


ブーメランの水着を穿いた細マッチョ。

その首から上をに差し替えたアイコラが、フルスクリーンで映し出された。


「「「「「……」」」」」

「ち、違うの、間違いなのぉぉおおお」


先生が何かを取り繕うように大きな声を出した。

結菜達3人が、流生を守るように囲い込む。


「ル、ルイ君、違うの、私が作ったんじゃないの。十兵衛様の壁紙を探してた時、ダウンロードしちゃったの」


先生がフラフラと流生に近付こうとした。


「ルイちゃんに近付かないで下さい!」

「ルイ、背後うしろに下がって!」

「リンコ、撤収よ!」


3人が流生を背に庇い、ジリジリと玄関に向かって下がって行く。


「カリンちゃん、間違いなの。話を聞いて」

「先生、危ないから離して下さい」


縋り付くように、先生が私の脚を掴んだ。


「嫌、貴女達に捨てられたら、またソロボッチになっちゃう。やっと安心して参加出来るパーティーが見つかったの…」

「今度は30000人もテスターがいるんです。きっと有名どころのクランだってありますよ」

「…ム、ムリなの。本当は私、酷い人見知りなの。特に男の人が怖いの。MMOで仲間探せないから、ボッチでも出来る格ゲーやってるの。本当はMMOの方が好きなの。頑張ってクランのオフ会にも行ったんだけど、グイグイ来られて怖くなって、逃げて帰って来たの。その後はクランも辞めちゃって、全員フレンド登録外してボッチに…」


「「「「「……」」」」」


思わぬカミングアウトに、みんなが黙り込んだ。


「高校生くらいまでは、大人しい子なら平気よ。イキってる男の子は無理だけど」

「美玖さん、よく教職なんて選びましたね」

「私も桐高の卒業生なの。偏差値が高くて部活もあんなだから、昔から体育会系の子は殆ど入ってこないし、大人しい子ばかり集まるでしょ。だから桐高なら大丈夫だと思って…」


(ああ、この先生も私達と同じだ。ウェイやオラオラがダメなのね…)


3人も同じ事を思ったのか、同情を含んだ目に変わった。

流生を亜里沙と陽葵に任せ、結菜が先生の前に歩み出た。


「先生、そこに座って下さい」

「…はい」





先生は、結菜に正座させられ、尋問を受けた。


「ルイちゃんのエッチな合成写真はこれだけですか?」

「…はい、本当に出来心だったんです」

「間違ってダウンロードしたんじゃなかったんですか?」


いきなり語るに落ちた。


「…う、…あぅ、…あ」

「どっちなんですか?」

「で、出来心で、やりました。もうしません」

「十兵衛のエッチなのもありませんね?」

「……」


当然有るんだろうけど、素直に言うかな?


「あるんですか?」

「…ごめんなさい」

「……」

「……」

「…先生も生身の女性ですから、仕方ないと思いますが、隠し撮りやアイコラはダメです」

「……」

「ルイちゃんに嫌われても良いんですか?」

「えっ?!それは嫌!」

「それなら全部消せますね」

「ぜ、全部消します。消しますから、ポ、ポスターとフィギュアは勘弁して下さい」


どうやら、落とし所が纏まったようだ。

先生は結菜の前で、ルイスや十兵衛のアイコラを消去した。

実際にはデバイスから消しても、何処にデータが残ってるかは分からない。

こればかりは、先生を信じるしかない。


それにしても十兵衛はともかく、ルイスのアイコラなんてモノが、もう出回ってるなんて。

あの3000人の誰かが作ったか、スクショを流出したという事だ。

第2期βでは、警戒しよう。



この後は先ず、3人のアバターを作った。

身体は実物を投影したモノを使い、顔だけを変えた。

これは流生のアドバイスによるものだ。

初心者は、アバターの身体と現実リアルの身体に大きな差異があると、日常生活で違和感を感じる事があると説明していた。


結菜は、チャームポイントの大きな垂れ気味の目をクールな感じにした。

実物より大人っぽい印象となった。

亜里沙は、結菜の双子だと言って、同じ顔で髪の色だけを変えた。

結菜がブロンドで、亜里沙がプラチナだ。


陽葵は逆に、実物より緩い感じにした。

水色の髪が可愛らしく、少し幼くなった感じだ。


次にHNを決める。

陽葵は最初から『ソレイユ』と決めていたらしい。

フランス語で太陽を意味し、向日葵の意味も持つ。

陽葵にピッタリだ。


双子設定の亜里沙と結菜は、『リサポン』と『ユナポン』。

亜里沙の方は、陽葵の普段の呼び方をそのまま採用し、結菜はゴロを合わせただけだ。


因みに先生のHNの『ノナ』は、ギリシャ語で数字の『9』の意味。

美玖の『玖』は『九』の大字だ。


HNを決めると、次は役割ロールだ。

流生が3人にロールの説明をする。


「基本的な構成は、三位一体ホーリートリニティと言って、攻撃役アタッカー盾役タンク回復役ヒーラーに別れる。俺達は人数に余裕が有るから、ここに補助役サポーターを加える。結菜達は、やりたいロールはある?」

「私、タンクやりたい。アタッカーのルイちゃんを守る役目だよね」


結菜がタンクに名乗りをあげた。


「う〜ん、初心者にタンクは厳しいと思うよ。俺がタンクをやろうと思ってたんだけど」

「だったら、ルイ君が回避盾になれば。君ならヘイト集めながら、アタッカーも出来るでしょ?君の手数が減る分は、私がダメージ稼ぐよ」


先生の提案で、結菜がタンクに決まった。

経験不足は流生がフォローするだろう。


「後衛は凛が遠距離攻撃とフォローに回ってくれ。亜里沙と陽葵は、どっちをやりたい?」

「リサポン、私がヒーラーやって良い?」

「良いよ、私はルイや皆とパーティー組めれば、特に拘りはないから」


私達のパーティーの編成が決まった。

纏めると、こうなる。


流生 ー ルイス ー 回避盾兼アタッカー。

先生 ー ノナ ー アタッカー

結菜 ー ユナポン ー タンク

陽葵 ー ソレイユ ー ヒーラー

亜里沙 ー リサポン ー サポーター

私(凛) ー カリン ー 後衛全般


「えへ、えへ、こんなパーティー初めてだ。私にも遂に本物の仲間が出来た…、うぅ、ひぐ、ひぐ、えへ、えへ、ひぐ、グスッ」


(先生、笑うか泣くか、どっちかにして下さい)

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