学校見学 その4
「実はルイ君にお願いがあって待ってたの?」
何で俺が来るの分かってたんだ?
「君が来るの分かってたのが不思議?」
「はい。凛から聞いてた訳でもなさそうですし」
「この学校では、もう君の出願を受け付けているのよ。お姉さんの凛さんもいるし、この文化祭で見学に来ると思ってたわ。私みたいな新米は、特待生の選考には関われないけどね」
「まだ9月ですよ」
「…これ以上は、他の生徒に聞かれるとマズイわね。食事を済ませたら、場所を変えましょう」
美玖さんが話を区切ると、結菜がお茶を手渡した。
「有難う、私も何か食べる物を買ってくるわ」
俺は、立ち上がろうとした美玖さんを呼び止めた。
「食事がまだでしたら、美玖さんもどうぞ」
「えっ、良いの?」
「良いですよ、沢山ありますから」
「先生ラッキーですね、ルイの手作りですよ、これ」
俺が美玖さんに弁当を勧めると、亜里沙がお握りの入ったタッパーを差し出した。
「ルイ君て、料理までするの?」
「ルイちゃんの料理は美味しいですよ」
「リンコなんて朝昼晩、ルイっちに作って貰ってるらしいですからね」
「…君、凄いね。正直、出願者に君の名前見つけるまでは、ゲームしか出来ない子なのかと思ってたわ。あ、本当に美味しいわ」
美玖さんを交えて昼食を済ませた後、俺達は新校舎の視聴覚室に移動した。
「先生、ここって文化祭の間、使用禁止じゃなかったでしたっけ?」
「だから良いのよ。それにしても暑いわね。広いから、エアコン効くまで時間がかかりそうね」
美玖さんが、エアコンのスイッチを入れ、上着を脱ぎ出した。
シャツのボタンも幾つか外してしまった。
(デカっ!)
美玖さんの胸に目が吸い寄せられる。
「ん?気になる?Fー65よ」
「先生!流生もどこ見てるのよ?!」
「〜〜〜っイデッ!」
凛に思い切り太腿を抓られた。
「それより、何の話をするんでしたっけ?」
「なに話を逸らしてるよ?!」
「リンちゃん、今の話の方が逸れてるから」
「…流生、帰ったら覚えてなさいよ」
「……」
美玖さんは、俺達のやり取りを見てニヤニヤしている。
「もうちょっとルイ君とカリンちゃんのイチャイチャを見てたいけど、話の続きしましょうか?」
美玖さんが座ると、みんなも椅子を出して彼女の近くに座る。
凛は俺と美玖さんの間に割り込むように座った。
その様子を美玖さんが、楽しそうに見ている。
「それじゃ、頼み事するだけじゃ悪いから、みんなの喜ぶ情報を提供しようかしら」
美玖さんが凛や結菜達にニッコリ微笑む。
「心配はしてないと思うけど、ルイ君の合格は確定よ」
「もう決まったんですか?!流生も言ってたけど、まだ9月ですよ」
「優秀な生徒は、他の学校に獲られる前に確保しちゃうの。多分、今回は無試験で特待生が3人決まるわ。その中でもルイ君は別格ね」
「流石、ルイ」
「ルイっち、やったね」
合格確定を言い渡されると、4人が大喜びした。
「無試験で特待生なんてあるんですか?」
「そんな事も知らないで出願してたの?」
美玖さんに呆れ気味に言われた。
「そもそも出願した覚えがありません。学校で志望校聞かれて桐高って答えたら、特待生の選考申込んで良いかって聞かれて、はいって答えただけです」
「そうだったのね。でも学校も保護者に確認はしてる筈よ。入学の意思があるかどうか」
「あ、一昨日ママが謙介さんに、流生が桐高で良いか確認してた。多分その事だと思う」
(俺の知らない間にそんな事があったのか?)
「時期的にそうでしょうね。ルイ君の場合は、選考対象にするって言うより最終確認だったと思うわ。特待生の選考は、最初に安定した学力がある子をピックアップして、候補を絞るらしいの。その段階でルイ君の合格は確定しちゃったみたいね。何でもっとレベルの高い学校を志望しないのか、ベテランの先生方も不思議がってたけど、こんな可愛い娘達が待ってるんじゃね…」
4人を見て、美玖さんが1人で納得してる。
「この4人の成績が急に上がったのも、ルイ君の仕業?」
「…まあ、そうなりますかね」
「本当に凄いわね。凛さんと後藤さんの小テストの結果はAクラスの生徒と比べても遜色ないわ。須川さんと鈴木さんも、後一歩の所まで来てるわよ」
よし、予定通りだ。
おれの合格をリークしてくれるよりも、こっちの情報の方が有難い。
「本当にAクラスが見えてきたのね。やっぱりルイちゃんって凄い…」
「凄いのは俺じゃなくて、頑張った結菜達だよ」
俺の言葉を聞いた亜里沙が、ニヤッと笑って話に入ってきた。
「だったら、今度の中間テストで良い成績とったら、ルイからご褒美欲しいな」
「そうだよね。ルイっちのご褒美があるかないかでモチベ全然違うよね」
陽葵も亜里沙に便乗する。
「…考えとく」
(まったくこの人達は…、そんなモノなくたって真面目にやるのは分かってんだよ)
「そろそろ私のお願いして良いかしら」
亜里沙と陽葵が話を脱線させると、美玖さんが本題に引き戻した。
「ええ、どうぞ」
「二つあるんだけど、両方ゲームの事よ。1つ目は、第2期のβが始まったら、私をルイ君とカリンちゃんのパーティーに入れて欲しいの」
「「「「「……」」」」」
予想外の申し出に5人共、黙ってしまった。
「お邪魔かしら?」
「いや、そういう訳じゃなくて、前のクランのメンバーとかどうしたんですか?」
「アバターやHNネーム変えた理由分からない?あっちとは縁を切りたいのよ」
「言いたくなければ言わなくて良いですけど、何かあったんですか?」
美玖さんは、うんざりしたような表情になった。
「前のゲームのオフ会に行った後、執拗いのが何人もいてね。TGOでは別のアバターとHNにしたの。第1期はソロでやってたんだけど、ソロだと厳しくてね。オフ会なんか行かなきゃ良かった」
凛達は美玖さんの顔や胸を見て、「ああ、なるほどねぇ」と納得していた。
「先生、彼氏とかいないんですか?」
凛が突っ込んだ。
「い、いないわよ、いたら頼ってるわ」
「先生なら、いくらでも見つけられそうですけどね」
「私と同じレベルでゲームが出来る男なんて、ニートばっかりなのよ。カリンちゃん、ルイ君捕まえたからって、上から目線になってない?パーティーに入れてくれなきゃ、ルイ君誘惑するわよ」
「〜〜〜っ!」
美玖さんは、いきなり俺に近付き、頭を胸に抱え込んだ。
「ルイちゃんに何するんですか?!」
「先生、ルイだけはダメです!」
「ルイっち以外なら、好きなだけ男子持って帰って良いですから」
「流生、こっちに来なさい」
結菜達が美玖さんを俺から引き剥がし、凛が俺を美玖さんから遠ざけた。
「先生、今度ルイちゃんにエッチな事したら、学校に言いつけますよ」
(あ、結菜、マジで怒ってる?)
「じょ、冗談よ。もうしないから、パーティーにいれてよ」
美玖さんが、両手を合わせ拝むポーズを取る。
「流生、どうする?」
「う〜ん。結菜達に色々教えなきゃならないから、美玖さんがいると助かるには助かるんだよな」
「へっ?後藤さん達も一緒なの?」
「はい、TGOのプレイヤーハウスで、ルイちゃんに勉強を教わる事になってるんです」
「…貴女たち真面目ねぇ、ゲームの中で勉強するの?」
「来年、流生が2年生に
「それで急に成績が上がったのね。そういう事なら私も協力するわ。お願い、仲間に入れて」
断る理由は特にない。
俺と
4人の勉強を見てもらえるのも有難い。
試験問題とか、ポロッと漏らしそうで、危なっかしい感じもするけど。
「まあ、良いか。俺は構わないけど、皆はどう?」
「私は流生次第」
「ルイちゃんに任せる」
「「私も」」
4人は俺に判断を委ねた。
「美玖さん、聞いての通りです。歓迎しますよ」
「有難う、ルイ君!」
美玖さんが立ち上がり、椅子に座っていた俺にガバっと抱きついてきた。
再び、美玖さんの巨乳に顔が埋まった。
「「「「先生!」」」」
「あ、ごめんなさい。嬉しくて、つい」
「ったく…、ついじゃないですよ」
美玖さんは、ペロンと可愛らしく舌を出した。
「それで、2つ目のお願いなんだけど…」
そう言えば、頼みが2つあるって言ってたな。
「今度の『Mixed Battle』なんだけど、ルイ君は予選免除よね?」
「まあ、優勝者の特典でそうなってますね。でも隔年開催とは言ってましたけど、本当に来年開催されるか決まってないみたいですよ」
「そうなんだけど、準備だけはしておきたくて」
「準備って言っても、特にないんじゃないですか?」
「いやいやいや。練習が必要でしょ?それでルイ君に練習相手になって欲しいの」
「何だそんな事か。時間のある時なら、構いませんよ」
「本当に?!」
「はい」
同じパーティーのメンバーになるんだから、改まって頼むような事でもなかろうに。
そう思ってたら、美玖さんが顔を赤くしてモジモジし始めた。
「そ、それでね、む、無理だったら、諦めるけど…」
「???」
「そ、その練習の時、じ、十兵衛様のアバターで相手して欲しいの!」
(『様』って何だ『様』って?)
「去年の予選で闘って以来、大ファンになっちゃったの。『ゴエモンちゃんねる』で、本大会も予選リーグからノックアウトステージまで、全試合100回以上見たわ。まだ出来ないけど、十兵衛様のオリジナルコンボも解説を見ながら、毎日練習してるの。何でもしますから、お願いします」
深々と頭を下げる美玖さんを見て思った。
(この人ヤバくね?)
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