番外編 焼け野原の魔法少女
Mixed Battleの世界大会が終わった。
激闘の末に十兵衛が堂々の優勝を飾った。
私もパブリックビューイングで、決勝戦を観ていた。
闘いは3本勝負。
『AGIオバケ』と呼ばれる十兵衛得意の戦法は、AGIにステイタスパラメータを極振りしたスピード重視。
攻撃特化の紙装甲でヤられる前にヤる。
まさに、綱渡りだ。
決勝の1本目は、VITとDEFにパラメータを振り、カウンターで相打ちを狙い、紙装甲の十兵衛のHPを先に削り切るという、十兵衛メタで相手が取った。
この世界大会で、十兵衛メタという戦法が定着する程、十兵衛は他の選手に警戒されていた。
1本目を落としても十兵衛はブレなかった。
2本目と3本目は、生身の人間に制御出来るのかも疑わしいスピードから、十兵衛のもう一つの代名詞、オリジナルコンボで連取した。
このオリジナルコンボは、本来は単発の技を自身のPSのみで、連続技として発動するものだ。
2つの技を繋げるだけでも奇跡のようなタイミングを要求される。
十兵衛は2本目を3連コンボ2発で、3本目を4連コンボ1発で、対戦相手を仕留めた。
コンボは数を重ねると、相手に与えるダメージが指数的に増えて行く。
3連コンボは2連コンボ2発分、4連コンボは3連コンボ2発分となる。
決勝の3本目、十兵衛のオリジナルコンボの4撃目が、クリティカルで決まると完全なオーバーキルで対戦相手のHPゲージが吹き飛んだ。
パブリックビューイングにいたプレイヤーが声の限り叫び、大騒ぎとなった。
そのまま大宴会に突入して2時間ほど経った時、十兵衛が滞在先のホテルから
「皆さん、応援有難う御座います。明日の便で日本に帰ります」
十兵衛の登場に、パブリックビューイングは沸きに沸いた。
『今日は、十兵衛のセクハラ防止機能は強制解除です。女性プレイヤーの皆さんも遠慮なく、祝福のハグをどうぞ』
運営の悪ノリで、十兵衛は揉みくちゃにされた。
そして、十兵衛が本当に凱旋した日、ゲーム内ではあるイベントが開催された。
『祝【十兵衛】世界一 魔法少女バトルロワイヤル』
内容はタイトル通り、魔法使いの女性キャラが魔法少女のコスプレをして、バトルロワイヤルを行うだけだ。
あのレイドバトルの後、私は直ぐにセルゲイのクランを抜けた。
抜けるまでもなく、クランそのものが潰れてしまったのだが。
その後、幾つかのクランから誘いがあり、私は女性のみで構成され、9割が魔法使いのこのクランに入った。
『秘密結社 百合十字団』
(私、また入るクラン間違ったかな?)
リーダーのキテラの呼称は『お姉様』。
(うん、やっぱり間違えた)
キテラのHNの由来は多分、アイルランドの魔女アリス・キテラだろう。
ワンチャン、本名が木寺さんか?
「燎、貴女がバトルロワイヤルに出なさい」
クランの脱退を申し出ようと思っていた矢先、イベントへの参加要請があった。
「表彰式のプレゼンテーターは、ルイルイ…、じゃなくて十兵衛よ。勝ち残って、彼に接触しなさい。そしてクランに勧誘して来なさい」
「……」
(十兵衛って、ずっとソロでしょ?何、無茶な事言ってるのよ)
困惑する私に副団長のミーズさんが耳打ちした。
因みにミーズは、アリス・キテラの召使いペトロニーラ・ディ・ミーズから取ったと思われる。
(お姉様ね、酷いショタコンなのよ。オフ会で十兵衛君に会ってから、熱あげちゃってね。いつも、ルイルイ、じゃなくて十兵衛、十兵衛って、そればっかりなの)
(十兵衛がショタって、あの人そんなに若いんですか?)
(あ、ごめん。マナー違反だったわ。今言った事は忘れて)
イベントに出るのは構わないが、十兵衛の勧誘は無理ゲーだ。
「木寺さん」
「木寺じゃなくて、キテラよキ・テ・ラ。何、本名で呼んでんのよ」
(本当に木寺さんだった)
「あの、バトルロワイヤルはなんとかしますけど、勧誘の成果は期待しないで下さい。十兵衛はソロプレイヤーで有名ですし…」
「大丈夫よ。ルイル、…十兵衛のハートを射止める、とってもキュートなコスチュームを用意するわ」
(貴女が十兵衛に熱あげてるんでしょ?私が射止めたらダメじゃん)
十兵衛は今日のフライトで帰国するって言ってた。
今は飛行機の中だろう。
時差ボケで明日のイベントにも来ないんじゃないかな。
まあ、出ろと言われれば、出る事は
何人出て来ようが、相手は2人だけだ。
このゲームの魔法使いは、契約している精霊が強ければ強いほど、魔法の威力が高くなる。
そして
契約出来るプレイヤーは、最大で4人。
水の大精霊ウンディーネの契約者、シュリ。
HNの由来は、秋の長雨を意味する
風の大精霊シルフィードの契約者、
こちらは、梅雨明けに吹く南風、夏の雲を連れて来る風という意味だ。
この2人との闘いになる事は間違いない。
向こうも、そう思っているだろう。
イベント当日、百合十字団の本部に行くと、キテラさんが私のコスチュームを用意していた。
赤を基調とした、メイド服のようなワンピース。
スカートはフィッシュテールで裾にレースがあしらってある。
長袖の袖口にも同じようにレースがあしらわれ、腰に大きなリボンが付いている。
胸には『♡かがり♡』と書かれた、特大の名札のアップリケ。
メイドのブリムのようなカチューシャにもリボンが付いている。
「さあ燎、これに着替えなさい」
「……」
「髪はツインテールにするのよ」
「……」
(ダメだ、この人)
諦めて用意されたコスチュームを装備する。
「…あの、木寺さん」
「キテラよ!」
「キテラさん、これ全く防御力がないんですけど。魔法のレジストも0です」
「可愛ければ良いのよ。ル、十兵衛だって紙装甲で闘ったのよ」
(本当にダメだ、この人)
もうどうでも良くなり、集合場所の神殿に向かった。
神殿に入ると『【十兵衛】
イベントの名前が変わっている気がしたが、気にしない事にした。
予想通り、シュリと白南風も来ている。
向こうも私を見ている。
他の参加者も、チラチラこちらを見ている。
(やっぱり来たわ)
(あの娘も来たのね)
(エレメント使いが3人…)
(最初にあの3人を潰すのよ)
(全員で一斉に仕掛けましょう)
参加者は200人位いそうだ。
最初のターゲットは私達3人らしい。
それもバトルロワイヤルの戦法だ。
参加者が揃うと、運営からルールの説明があった。
「今から、皆様にはバトルフィールドに移動して頂きます。フィールドは2Km四方となっており、HPが0になるか、勝者が決まるまで出られません。宜しいですか?」
質問も抗議も出ない。
「ルールは単純です。魔法のみで戦闘を行なって、最後まで残ったプレイヤーが優勝です。誰と結託するのも、誰を裏切るのも自由です。禁止事項は物理攻撃のみです。マジックポーションの使用は無制限とします」
これは有難い。
エレメント使いの魔法は燃費が悪い。
MP管理は必須となる。
マジックポーションの使用が無制限なら、出し惜しみする必要がなくなる。
運営も派手な魔法でイベントを盛り上げたいのだろう。
「質問がなければ、始めます。フィールドにポップしたら、バトル開始です。ポップする場所はランダムに決まります。足元の魔法陣から、はみ出さないようお願いします」
私達の足元に巨大な魔法陣が浮かんだ。
落下するような感覚の後、見覚えのない街の景色が広がった。
私は大通りにポップしたようだが、民家や店舗の中にポップしたプレイヤーもいるだろう。
彼女達の負けは確定だ。
何でって?
私が燃やすからよ。
「燃えろ!」
木寺さんに持たされたステッキの先端に取り付けられたハートが光った。
子供のオモチャのような魔法少女のステッキだ。
しかし、先端のハートには
通りに面した建物から火柱が上がった。
中にいたプレイヤーが、外に飛び出して来る。
「「「「「キャァァァアアア」」」」」
「あの娘、何て事するのよ!」
「兎に角逃げましょう」
「逃げるって何処へよ?!」
「あの放火魔から離れるのよ」
背を向けて逃げようとするプレイヤーに向けてステッキを構えた。
ゴォォォオオオ!
彼女達が逃げる方向から、風の唸るような音が聞こえてきた。
ヤバい!
私は地面に穴を掘り、身を潜めた。
次の瞬間、巨大な竜巻が、私から逃げるプレイヤーを上空に攫って行った。
「「「「ギャァァアアア」」」」
数十人のプレイヤーが、上空を旋回している。
「オーホッホッホ!見なさい、人間がゴミのようですわ」
ム○カ?!
教会の鐘の横で高笑いしているプレイヤーがいる。
白南風だ!
「燎、出てらっしゃい。キテラなんかに、ル、十兵衛は渡さないわよ」
いつの間にか争奪戦に変わっているようだが、十兵衛は承知しているのだろうか?
いや、ないない。
誰かの悪戯だ。
ザッパァァァン!
白南風に気を取られていると、高波が教会を襲った。
白南風が流される。
シュリだ!
「あんた達みたいなショタコンに十兵衛は渡さないわ。私が貰うのよ」
水で作ったイルカの上にシュリが立っていた。
トリ○ン?!
「誰がショタコンよ、この小娘!」
「あんたとキテラよ!オフ会で年甲斐もなく、ル、十兵衛にベタベタして」
「あんただって、してたでしょ!ガキのクセに色気付いて」
「私は良いの!十兵衛と同じ中学せ、…、何でもないわ!十兵衛に年増は似合わないのよ!」
2人でやり合ってる間にここを離れよう。
私は街の反対側に向かいながら、そこいら中に火をつけて回った。
隠れていたプレイヤーが、あぶり出されて来る。
「またなの?!」
「逃げないと焼け死ぬわよ」
「逃げる所なんてないわよ」
「燃えてない場所を探すのよ」
シュリと白南風がやり合ってる教会の周り以外は、全て火が回っている。
あぶり出されたプレイヤーは、教会の方に逃げて行った。
私も隠れて彼女達を追った。
教会から300mくらい離れた場所で、私は身を潜めた。
シュリと白南風は、まだ言い争っているようだ。
「エレメント使いが2人?!」
「もうヤケ糞よ、仕掛けるわよ」
残りのプレイヤーが一斉にシュリと白南風に魔法を放った。
無理だと思うが、2人を倒してくれると有難い。
雷やら焔やらが2人を襲う。
「鬱陶しい!」
「邪魔よ!」
2人は全ての魔法を跳ね返した。
ですよねぇ〜。
「溺れちゃえ!」
ゴォォオオオ
シュリの鉄砲水がプレイヤーを襲う。
「うわっぷ…」
「こんなのムリよぉ」
「誰か止めてぇ!」
鉄砲水は私にも襲いかかる。
マズい!
出し惜しみは止めだ。
ゴゴゴゴゴゴォォオオオ
地面が迫り上がり、水を堰き止める。
シュリが作り出した水を隆起させた地面で囲むと、ダムのようになった。
プレイヤー達はそこから出られない。
「燎、あんた
「そんなのチートよ!」
期せずして、生き残ったプレイヤーが一箇所に集まった。
よし、決着をつけよう。
「
隕石なんて落とせないけど、それっぽく演出する。
上空に巨大な岩を作り出し、そこに火をつける。
土魔法と火魔法を合わせた、私のオリジナル殲滅魔法。
「砕けろ!」
燃え盛る岩が弾けた。
炎に包まれた、無数の拳大の石による絨毯爆撃。
教会が燃え上がり、崩れていく。
プレイヤーが次々に消えていく。
ダムの水も蒸発して天に昇る。
フィールド全体が火の海になった時、立っているのは私だけだった。
『紅蓮の魔法少女』
運営から私に贈られたのは、十兵衛ではなく恥ずかしい称号だった。
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