学校見学 その2

凛達4人に連れられて、校舎の中をぶらぶら歩いた。

定番のお化け屋敷に入ったが、『暑い』以外の感想はなかった。


次に目に付いたのはガンシューティングのアトラクション。

繁盛しているようで、順番待ちの客が並んでいた。


「ルイ、これやりたい」


亜里沙さんが、腕を引っ張り俺と順番待ちの列に並んだ。


「これ、私が持ってるよ」


結菜さんが、俺のバッグを預かってくれた。

10分も並ぶと、俺達の順番が回って来た。


「ルイ、この手のゲームも得意?」

「苦手ではないです」


ゲーム自体は、一昔前のアーケードゲームによく似ていた。

画面上に現れた敵を撃てば良いだけだ。

時々、画面に味方が現れる事もあり、これを撃ってしまうとマイナスポイントになる。


2人1組で、5チームでの対戦だった。

最もスコアの高いチームに賞品が出るらしい。


画面にカウントダウンの数字が表示された。

カウントが0になり、画面に敵が現れる。


「亜里沙さん、真ん中の狙い易いのを確実に倒して下さい」

「分かった」


的の大きい真ん中付近の敵は亜里沙さんに任せた。

俺は画面の端の小さい敵や、遮蔽物から僅かにはみ出てる敵を撃ってスコアを稼ぐ。


「当たったよルイ、また当たった」

「亜里沙さん、その調子です」


1分後、俺達は最高スコアでゲームを終えた。


「ルイ〜、勝った!」

「勝ちましたね」


亜里沙さんは大喜びだった。


「殆どルイっちの得点だけどね」

「もう、ヒマリちゃんは水を差さないの」


陽葵さんの言う通り、殆どが俺の得点だった。

真ん中の狙い易いのは得点が低いのだから仕方ない。


賞品を受け取り、俺達はそのブースから撤収した。

亜里沙さんは早速、賞品のストラップをスマホケースに付けていた。


「亜里沙、嬉しそうだね」

「えへへ、実質ルイが取ってくれた賞品だからね」


まあ、この位で喜んでくれるなら、手間を惜しむ気はない。


「それよりルイ、凛だけタメ口で私達に敬語って、面倒じゃない?」

「あ、私もそれ思った」

「ルイちゃん、私達には「さん」付けだし」


亜里沙さんが切り出すと、陽葵さんと結菜さんも続いた。


「使い分けは、それほど面倒ではないですよ。来年から学校の先輩にもなるんですから」

「それ言ったら、ルイは直ぐに同級生になるよね」

「そうだよね、ルイっちが飛び級スキップし損ねるとは思えないよ」

「私達みんな、ルイちゃんに呼び捨てにして欲しいんだよ」


俺はチラリと凛の方を見た。


「良いんじゃない。勉強を教える方が敬語って言うのも変だし、来年の今頃はクラスメイトになってるんだから」

「おぉぉ!リン、強気だね」

「でも、リンちゃんの言う通りだよ。Aクラスに上がれなきゃ、ルイちゃんに申し訳ないよ」

「そうだね、結局ルイっちには、タダで勉強見てもらってるんだからね。私達も結果出さない訳にいかないよ」




宿題騒動直後の休日、彼女達の親が家に挨拶に来た。

泊まり込みで宿題を教わった事のお礼と、家庭教師の件を親父と話す為だった。

実際には自分達の娘が見つけた家庭教師、つまり俺の品定めの為だろう。


中学生の俺の学力や家庭教師としての力量に、疑問を持つのも当然だ。

しかし、夏休みの宿題の顛末や、凛の学力アップを知ると、親達はかなり前のめりになった。

やはり子供を桐高に入れるような親は、教育熱心だった。


当然の流れで、家庭教師の費用に話が及んだ。

しかし、親父は金銭の受取りを拒否した。


「流生は不服か?」

「いや、来年の今頃にはクラスメイトになってる筈だ。クラスメイトに勉強を教えるのに、金を取る気はないよ」

ウチの息子ルイもこう言ってます。お嬢さん達は、リンのクラスメイトでもありますし、無理にビジネスを持ち込む必要はないでしょう」


結局、家庭教師の話は、子供同士の友達付き合いの延長という事になった。

逆に無償だからこそ結果を出さなければと、彼女達のモチベーションアップにも繋がった。

基本的に3人とも、根が真面目な進学校の生徒だという事だ。

頻繁にちょいエロな悪戯を仕掛けては来るが。




「ちょっと話が逸れたけど、ルイは今から呼び捨て、タメ口に決定ね〜」

「今からですか?来年、同じクラスになってからで良いんじゃないですか?」

「往生際が悪いよ。ホントなら私達がルイちゃんに敬語使わなきゃならない立場なんだよ」

「…分かりましたよ」

「分かってないじゃん!陽葵って呼んでみてよ、ヒ・マ・リって」

「……」

「ほら、ヒ・マ・リ、さんはい♪」

「…陽葵」

「そう、それで良いんだよ」


その時、急に凛が眉を吊り上げた。

陽葵を呼び捨てにして、怒った?

そうじゃなかった。


「ちょっと、何あれ?!ふざけてる!文句言って来る!」


凛の視線の先は、eスポーツ部のブースだった。

デカデカと張られているポスターは、嘗ての俺のアバターだった。

世界大会で優勝した時に使った物だ。

その下には『世界大会優勝者【十兵衛】に挑戦!』と書いてある。

亜里沙と陽葵は、なんで急に凛が怒り出したか分かってない。


「あれ、ルイちゃんが去年、世界大会で優勝した時のアバターなんだよ!」

「マジで?」

「アイツら勝手にルイっちで商売してるって事?」


結菜達の顔も険しくなった。

俺は、怒鳴り込みそうな勢いの凛を慌てて止めた。


「凛、よく見て」

「何を?」

「ポスターの下の文字」


よく見ると【十兵衛】と「に挑戦!」の間に小さなもじで「を相手に20秒持った男」と書かれていた。

更に「相手に」と「20秒」の間に、もっと小さな文字で「2本合わせて」と書かれていた。

繋げて読むと『世界大会優勝者【十兵衛】を相手に2本合わせて20秒持った男に挑戦!』となっている。


俺が説明すると、凛は更に怒りを露にした。

顳顬こめかみに青筋が浮かんでる。


「あんた達、勝手に人のアバター使って良いと思ってるの!」


凛は俺の手を振り解いて、受付のeスポーツ部員(以下、部員A)に声を荒げて詰め寄った。


「あんた、十兵衛の関係者なの?」


部員Aは開き直り、凛の抗議に取り合わない。

凛が手を上げそうになった所で、俺が割って入った。


「そう言うあんたらは、十兵衛の許可を取ってるのか?」

「ウチの部に十兵衛の友達がいるんだよ」


完全に嘘だ。

凛の怒りも限界に達している。

今にも俺が十兵衛だと言い出しそうだ。

結菜が必死で凛を宥めている。


「あんたら、この大会で十兵衛についたスポンサーが何社あるか知ってるか?」


俺も部員Aの嘘にはカチンと来ていた。

少しお灸を据える事にした。


「そんな事関係ないだろう?」

「関係あるんだよ。このアバターは、大会用のスペシャルバージョンだって知らねぇのか?意匠登録もしてあるらしいから、勝手に使えば賠償金を請求されるぞ」

「…た、たかが文化祭だろ?!」

「そんな事、相手の弁護士か裁判官にでも言え」

「……」


部員Aは、既に真っ青になっている。


「スポンサー企業から、正式に学校に抗議が来るだろうな。賠償金の額も、一般家庭では一生かかっても払えない額になるんじゃねぇのか。十兵衛本人からも賠償請求が来るかもしれねぇぞ」


部員Aが教室に慌てて駆け込んだ。

そのあと直ぐに部長らしき生徒と出て来た。


「こ、このポスターは今すぐ剥がすから、君達も見た事は黙っていてくれないか?」


部長の顔色も真っ青だ。


「何勝手な事言ってるの!この部に十兵衛の友達がいるんでしょ?彼に取り成して貰えば良いじゃない!」

「……」


凛には、全く取り付く島がない。


「流生『ゴエモンちゃんねる』に書き込めば、十兵衛のスポンサー企業の広報が直ぐに出て来るよ。ここの写真は撮ったから、コイツらのやった事拡散しよう」

「ち、ちょっと待ってくれ。もう店も閉めるから、勘弁してくれ」


他のeスポーツ部員も全員廊下に出て来た。

いつの間にか人集りも出来ていた。


「凛、そこまでで良いよ。この人達も懲りたろ」

「勘弁してくれるのか?!」


部長が腰を抜かしたようにへたり込んだ。


「許すも何も、俺にはそんな権利ないですよ。見た事を忘れるだけです。折角の文化祭なんですから、店も続けて下さい」

「…あ、ありがとう。そうだ!お礼に遊んでいってくれないか。ウチのエースと対戦していきなよ」


(はぁあ、何言ってんだか?流生に勝てる訳ないでしょうに)


部長の言葉に凛が溜息をついた。


(でも、私もルイちゃんが戦うの見たい)

(ルイ、私も見たい)

(ルイっちお願い)


第2期βでこの3人も一緒にパーティー組むんだっけ。

今の内に見せておくか。


「それじゃあ、お言葉に甘えます」

「そうか、こっちに来てくれ。ヘッドギアは部のヤツを使ってくれ」


部長に案内されて、教室の中に入り、リクライニングチェアに座った。

廊下にもモニターがあるのか、騒がしくなっている。


「3人ともよく見て、パーティー組む時の参考にして下さいね」

「ルイちゃん、言葉使い直ってないよ」

「あ、すいませ…、ごめん」

「ルイ、ちゃんと言い直して」

「そうだよルイっち、癖は意識しないと直らないよ。1人ずつ名前も呼んで」

「…結菜、亜里沙、陽葵、よく見てろよ」

「「「は〜い」」」


ギャラリーの視線が少し気になる。

特に男子生徒に睨まれている気がする。


(気にしたら負けだ)


俺はゲームに集中する事にした。

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