ホーム

花火が終わると、プレイヤー達がゾロゾロと帰って行く。

花火会場とアムダスを繋ぐゲートが幾つも見える。

来る時は気付かなかったけど、混雑緩和の為にゲートが複数用意されているのか。

隣を歩く凛が、繋いだ手を解き、抱き着くように腕を組んできた。


「下駄に慣れてないから…」


照れているが、腕を離す様子はない。

態度では示してくれてるけど、ちゃんと返事を聞いてないな。


プレイヤーハウスに帰ったら、家具の設置とかしようか?」

「そう言うの初めてだ。楽しそう」

「前のゲームではどうしてたの?」

「クランの本部をホームにしてた」


凛が機嫌良く受け答えしていると、ヒソヒソ話す声が聞こえて来た。


(さっきイチャついてたヤツらじゃん?)

(堂々とチューしてたよね)

(見た事ねぇけど、アバター変えてんのか?)

(十兵衛と燎らしいよ)

(あの子達って、まだ中学生じゃないの?)

(十兵衛は14歳って前の大会のプロフィールで見たな。今は15歳の筈だ。燎も同じ位じゃね?)

(それで同棲ごっこかよ)


確かに同棲ごっこと言えなくもないが、実際に住んでる訳でもないからな。

凛は隠れるように、俺の腕にしがみついている。


「流生、同棲だって…」

「何意識してるんだよ、ゲーム内での話だろ」

「で、でもログアウトしても帰る家一緒だよ」

「お、親も居るんだから、同居だよ同居…」

「そうだけど、2人とも家に余りいないじゃん」

「家に帰ってから話そう。ここだと誰かに聞かれるかもしれない」

「…うん」


凛は家に着くまで腕を組んだままだった。

そう言えば、こんな時はウィンディが必ず揶揄って来るのに、何処に行ったんだろう?

玄関のセンサーに手を翳しドアを開ける。


『おかえりなさ〜い』


ウィンディがパタパタ飛んで来た。

やっぱり居るよな。

俺と凛がリビングに入ると、フォトフレームに入った写真が床に散らばっていた。


『まだ家具を設置してないから、置く場所が決まらないんです』


頼んでもいないのに、凛とのツーショットの写真が大量にあった。

浴衣姿で手を繋いで歩いている写真、綿菓子やカキ氷を『あ〜ん』している写真、腕を組んでいる写真、そして特大サイズのキス写真。


「ウィンディ!この写真飾ったら、誰も呼べないだろ!」

『え〜、あんなに人が沢山いる所で告白して、チューしちゃった彼氏さんの言葉とは思えませんね〜』

「る、流生、リビングに飾るのは恥ずかしいけど、寝室なら…」

『ほら、カリンちゃんは飾る気満々ですよ。待ち受け用にスマホにも送っておきます?』

現実リアルで、アバターの写真持ち歩くのは、不味いだろ?」

『だったら、一度本物の姿にアジャストして写真撮りましょうよ』

「そ、それは、ちょっと…」


確かに凛の浴衣姿の写真は欲しい。

だけど凛は、どうなんだろう?


「流生、折角だから撮って貰おう。流生が告白してくれた記念に、この浴衣の写真欲しいな」


凛が俯いて、俺の浴衣の袖をちょこんと掴んでいる。

多分、顔は真っ赤だろう。


『あれ?カリンちゃん、ちゃんと返事しましたっけ?』

「あ、してない。でも、流生はそんな鈍くないよ。態度で分かってくれてるよ」

『本当に、それで良いんですか?彼氏さん、あんなに頑張ったのに』

「…う、うぅ」

『彼氏さんモテそうですからね。あと半年で中学も卒業ですし、勇気を出して気持ちを打ち明ける娘が出て来るかもしれませんよ。しっかり捕まえておかないと、靡いちゃうかも知れませんよ』

「ウィンディ!変なこと言うな!凛も気にしなくて良いよ。俺、凛の事好きだから」

『キャァァァ、また言った。彼氏さん、男前ですね』

「る、流生!」


俯いてた凛が顔を上げた。

気合が入り過ぎてて、ちょっと怖い。


「ウィンディの言う通りよ。流生にばっかり言わせて、私ズルい事してたわ」


凛は何かを言おうと口を開きかけるが、何度も止まってしまう。

時々「あぅ」とか「ぅう、」とか、言葉にならない音を発する。

「無理しなくて良いよ」と言おうと思ったが、ウィンディが首を横に振って、俺を止めた。


「…わ、わ、たしも、…す、しゅき。流生が好き。りゅいの彼女になりたい」


凛は噛みまくったが、最後まで言い切った。

そんな姿が、凄く愛おしかった。

俯いてしまった凛を抱きしめると、ウィンディが手を叩くジェスチャーをしながら、俺にウィンクした。

本当にお節介で悪戯好きな妖精だ。

これがAIだなんて信じられない。


暫くすると凛も俺を抱き返して来た。

顔を上げ、恥ずかしそうに俺を見上げてくる。


「噛んじゃったけど、ちゃんと言えた」

「有難う、嬉しかったよ」

「ねぇ、写真撮って貰おう」

「そうしようか」

『は〜い♪ お任せ下さい。それじゃあ、アバターを現実リアルの姿に戻しますよ』


現実リアルの姿に戻った俺達をウィンディが記録した。

その映像から、何枚も静止画を切り出して行く。


『あ、これです。ベストショットです』


俺と目が合った凛の、はにかんで笑う顔がメチャ可愛い。

間違いなくベストショットだ。


『これを2人のスマホに転送しますね。他にも欲しい写真があったら言って下さい』


写真を受信すると、凛は直ぐに待ち受けに設定した。


「流生も〜」

「はいよ」


凛に言われて、俺も同じ写真を待ち受け画面にした。

写真の整理を終えると、家具の設置に取り掛かった。

人力で運ぶ訳ではなく、無料配布される物から選んで、置き場所を決めるだけだ。


俺達の家は、パーティーメンバーが2人なので、2SLDKの間取りになっている。

サービスルームは最初から用途が決められている。

ストレージの延長でアイテムや武器の保管庫になる。

フィールドから転送されたアイテムも自動でここに収まる。


リビングにはソファとローテーブル、TV(?)を置いた。

このTVは、運営からの通知を自動で受信する。


「ウィンディ、この家って第2期のβではリセットされるのか?」

『はい、リセットされてしまいます。但しデータは残るので、本サービスが始まっても再現は可能です』

「あ、ちょっと待って。さっきの写真はどうなっちゃうの?」

『心配いりませんよ。データは残ります』

「でも、やっぱり全部、私のスマホに送って」

『フフフ、カリンちゃんは可愛いですね。彼氏さんとの大切な思い出ですもんね。後で送っておきますね』


ちょっと物は少ないが、リビングは出来上がった。

次は個室だが、一部屋ずつ自室にするか、共用で使うか?


「ログアウトすれば、自分の部屋があるんだから、一緒に過ごすように作ろう」


俺も凛の提案に異存はない。


『それじゃあ、寝室からですね』

「寝室なんてベッドを置くだけだろ」

『そうなんですけど、ダブルにします?それともダブルにします?』

「ダブルしか選択肢がないのか?!普通、ダブルかツインだろ?」

『イズモモの村では一つの布団で仲良く寝てたじゃないですか?今もリアルの身体は、同じベッドにいるんですよね?』

「「何で知ってる?!」」


凛とハモってしまった。


『あら、冗談だったのに…、本当にそうなんですね』

「「……」」


何なんだよ、このAI?

カマかけたりもするのか?

中の人がいるんじゃないのか?


『それで、何方にします?』

「……」

「…わ、私はダ、ダブルが良い、…かな」

『ブー!彼氏さん、減点です。女の子に言わせるなんて、-10,000点です』

「…厳し過ぎないか?」

『いいえ、大甘です。ほら、カリンちゃんに聞こえるようにハッキリ言って下さい』

「俺もダブルが良い」

『フフ、良かったですね、カリンちゃん♪ 彼氏さんは、毎晩カリンちゃんを抱きしめて眠りたいそうですよ』

「「……」」


ウィンディのヤツ、暴走してないか?


寝室にはチェストも置き、その上に写真を飾った。

機能上チェストなどなくても、着衣などのアイテムはストレージに入れておける。

だけど、そんな事を言ってしまえば、プレイヤーハウスだって要らなくなってしまう。


プレイヤーの中には、こう言った仮想生活バーチャルライフが好きな者も多い。

部屋作りやガーデニングに凝る者もいる。

それもVRゲームの楽しみ方の一つだ。

現に凛は、すごく楽しそうに家具の配置などを考えている。


「流生、チェストの中にルームウェアとかナイトウェアが入ってるよ」


初期のアイテムが幾つか揃っているらしい。

俺も凛と一緒にチェストの中を確認した。

そして一番下の引出しの中を見て固まった。


「ウィンディ、これは何だ?」

『それは「勝負下着」と言うカップル限定のアイテムです』


紐なのか、布なのか分からないような下着が収まっていた。

それを手にした凛は、耳まで真っ赤になっている。


「る、流生は私がこれ着たら喜んでくれる?」

「何言ってるんだよ。これ全年齢対象だろ!」

『は〜い♪ 彼氏さん正解です。それは着る事は出来ません。ちょっとした茶目っ気ですね』


バタバタしたが、寝室も出来上がった。

最後に残った部屋は、勉強部屋になった。

2人並んで座れる長机と椅子のセット。

机の上にも写真を飾った。

本棚とペアのクッションも置いた。


「流生はゲームの中でも勉強するんだね?」

「子供の頃から、VRで過ごす事が多かったからね。基本的にはゲーム内で勉強してたよ」

「そうだったんだ」


ホームが出来上がる頃には、日付が変わっていた。


「今日は、もう休もうか?」

「そうだね。どれ着て寝る?」

「これで良いか」


2人でお揃いのパジャマに着替えた。


『それでは、おやすみなさい。ごゆっくり〜♪』


ウィンディが姿を消し、俺と凛はベッドに潜った。

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