薬草

「この辺で良いだろ」

人気のない場所まで来ると、ゴエモンさんが地面に腰を下ろした。

俺は大きな瓦礫を幾つか重ね、ベンチもどきを作った。

ガチャで重複した皮のコートが何着もあったので、それをベンチもどきの上に敷いた。


「凛、座りなよ。アステリアさんもどうぞ」

「あ、ありがとう…」

「ルイ君は気が利くわね」


2人が座ると、俺もゴエモンさんに倣って地べたに座り込んだ。


「色々聞きたい事はあるんだが、今回はそのアバターとHNで行くのか?」

「はい、その予定です」

「その格好、動画で流して大丈夫か?」

「問題ないですよ。『十兵衛』も身バレしてますし」

「燎じゃなくて、カリンもそれで行くのか?」

「はい、流生と一緒です」


ゴエモンさんは、実況の配信に当たり、俺達のプライバシーに気を使ってくれた。


「ねぇルイ君、今までずっとソロだったのに、どう言う心境の変化かしら?」

「…あの、色々ありまして」

「ふ〜ん。カリンちゃんも今までは、クランに入って攻略に参加してたわよね?」

「わ、私も、今回は流生とペアでゲームを進めようと思いまして…」


ゴエモンさんとアステリアさんは、ニヤニヤしながら、俺達を見ている。


「そもそも、お前ら何時知り合ったんだ?何処で知り合っても不思議じゃねぇけど、他のゲームか?」

「…ゲームじゃないです。あの、凛がくだんの、あ、あ、ねでして」

「ハァア?カリンが連れ子ちゃん?」

「…は、はい。」

「お前、家に帰ったの昨日だよな。散々人に心配かけておいて、1日半で人前でイチャつく程仲良くなったのか?」


(流生、もしかしてゴエモンさんの家に泊まってたの?)

(そうだよ、他に泊まる所なんてないよ)


「おい、何コソコソやってんだ?」

「あ、何でもないです」

「ったく…、お前ら、上手く行ってるって事で良いんだな?」

『そうですよ〜。2人はラブラブなんです。手を繋いでログインしたプレイヤーなんて、カリンちゃんと彼氏さんだけです』


突然現れたウィンディが答えた。


「ウ、ウィンディ、いきなり現れて、適当なこと言うな!」

『本当のことじゃないですか。私こんな音源も持ってるんですよ「流生は大事な大事な彼氏です」』

「「……」」

「ルイ君、照れなくて良いんだよ。私の友達にも君を狙ってる娘が沢山いるから、年相応の彼女が出来て、お姉さん安心したよ」

「ア、アステリアさん、その話詳しくお願いします!」

「カリンちゃん、落ち着いて」

「私は冷静です!流生が狙われてるって、どういう事ですか?」


凛の勢いにアステリアさんが、気圧された。


「あのね、ルイ君って、ゲームの大会で高額賞金を手に入れたり、スポンサーが付いてたり、その辺の社会人より経済力があるの。ゲームから離れても、全国屈指の秀才だし、超優良物件なのよ。私達くらいの年になると結婚も考えるから、打算で彼氏を探す娘も増えて来るの。今は未だルイ君は子供だけど、3年も経てば守備範囲に入って来るわ。狙われる理由、分かるでしょ?」

「…そんな不純な理由で流生に近付く事は、あ、姉として許せません」

「そ、そうね。カリンちゃんがしっかり、ルイ君をガードして」

「はい、そうします。流生に悪い虫は、近付かせません!」

「「「……」」」


色々と話が脇道に逸れたが、事情説明は終わった。

俺と凛は予定通り、南の森に向かう事にした。


「そろそろ、行きますね」

「失礼します」


ゴエモンさんとアステリアさんに挨拶をして、俺達はアムダスの南門に向かった。


「ウィンディ、ポーションの素材を集めたいんだが、教えて貰えるか?」

『お任せ下さい。見つけ次第、お知らせします』

「助かる。先ずは、森を南東に抜けよう。海岸沿いに出たら、そこから西に向かって、何かないか探そう」

「うん、方針は流生に任せる」

「凛は、索敵スキル持ってるか?」

「持ってないよ。流生は?」

「俺の方は、索敵レベル1ってのがある。探索範囲は半径10mだな」

「じゃあ、索敵は流生に任せるね」

「ああ、なるべく俺から離れるなよ」

「うん」


凛は俺のコートをちょこんと掴んで、後ろをついて来る。

森に入ると、当たりが急に暗くなった。


「森の中って暗いね」

「陽の光が、届かないからな」

「ち、ちょっと気味が悪いわ。て、手繋いで良い?」

「ああ、逸れると困るし、そうしよう」


凛が指を絡めて手を繋いでくる。


『ラブラブですね。彼氏さんが優しくて、良かったですね』

「ウィンディ、変な事言わないで、手は逸れない為に繋いでるだけよ」

『そ〜なんですかぁ?でも、それって恋人繋ぎですよね』

「……」


凛とウィンディが戯れていると、索敵スキルが反応した。


「凛、来るぞ。俺の背後に隠れろ」

「分かった」


敵は3体。

俺の索敵スキルでは、種類も強さも分からない。

慎重に木を盾にしながら、敵に近付く。


パキッ


凛が落ちている木の枝を踏んだ。

音に反応して、魔物が飛び出して来た。

ボロ切れを腰に巻いた、身長1m位の2足歩行の姿が確認できた。

ファンタジーでは、テンプレの魔物だ。


「ゴブリンだ。俺が突っ込むから援護を頼む」

「了解。気を付けてね」


ゴブリンに向かって、ダッシュをかけると、風のアンクレットのAGI補正が掛かる。

俺は一気にゴブリンとの距離を詰める。

凛の放った火の玉が俺を追い越し、ゴブリンに命中する。

吹き飛んだゴブリンは放置して、残りの2体に斬りかかる。

派手なダメージエフェクトを散らして、1体が消滅した。


「流生、伏せて」


しゃがみ込んだ俺の頭上を凛の火の玉が掠める。

またしても凛の魔法が命中し、ゴブリンが吹き飛んだ。

最初に吹き飛んだゴブリンは既に消滅しており、最後の1体も直ぐに煙となり消えた。


「凄いな、ゴブリンくらいなら一撃か?」

「流生だって、瞬殺だったじゃない」

「多分この辺はまだ、サービスフィールドなんだろう。当面はヌルゲーだな」

「そうみたいね。でも、油断しないでね」

「分かってる」


ゴブリンが消えた付近には、光る石が落ちていた。

恐らく、テンプレの魔石ってヤツだろう。

魔石を回収して、森の中を更に進んだ。


『彼氏さん、あの草、薬草です』


ウィンディが指差す薬草を回収した。

ヨモギによく似ていた。


『それは、全てのポーションの素材になるヨギボです』


どっかで聞いたような名前だが、気にするのはやめよう。

その後も俺たちの道中は順調だった。


出て来る魔物は、ゴブリンとコボルト(犬ヅラの魔物)がメインだった。

時々、ユニコーンのような角の生えた、一角牛と言う魔物が出たが、苦戦はしなかった。

一角牛は一撃で倒せないが、食材をドロップするメリットがあった。

ドロップする食材は、タンだのハラミだのカルビだの、焼肉が食べたくなったてくる。


薬草集めも順調で、スズシロに似たスズクロ、ジシバリに似たジハナシ等、6種類の素材が集まった。

残すは、後2種類だ。


「ウィンディ、そろそろ海岸に抜けるけど、この森には無いのか?」

『有りますよ。ショウアサとケシシという薬草です。この2種類は『スジモノ』と言う人型の魔物が守ってます。スジモノの主要武器メインアーム段平ダンビラ短刀ドスです』

「それって、絶対にヤバいクスリの原料だろ!大麻とケシじゃねぇのか?!」

『いいえ、ショウアサとケシシです。貴重な薬草です』

「分かったよ。人が行かない場所にありそうだな。森の中央に向かおう」


森の中央に向かうと、索敵スキルに引っ掛かる魔物も増えて来る。

って言うか探索範囲が広がっている。

いつの間にか索敵スキルのレベルが2になっていた。


「また、いるぞ」

「流生、連戦だけど、大丈夫なの?」

「まだ行けるけど、ちょっと厄介だ」

「どうしたの?」

「多分、一角牛が2体いる」

「1体ずつ倒す?」

「いや、考えがある。凛、土魔法も行けるな?」

「うん、火よりは威力が落ちるけど」

「威力は要らない。俺が囮になるから、奴らの進路に壁を作ってくれ」

「分かった」

「タイミングは俺が、合図する。行くぞ」


ゆっくりと一角牛に近付き、木の陰から小石を投げる。


「ンモォォオオオ」


俺に気付いた一角牛が、突っ込んで来た。

AGI極振りの俺が追い付かれる心配はない。

離れ過ぎないようにスピードを調整し、2体が並ぶように誘導する。


「凛、今だ!」


一角牛の前に高さ50cm程度の壁が出来る。

強度も高さも要らない。

一角牛が転ぶだけで十分だ。


「凛、雷撃だ!」


転がった一角牛に凛の雷系の魔法が撃ち込まれる。

俺も反転し、牛に攻撃を仕掛ける。

雷撃によるスタンと斬撃によるノックバックを繰り返す。

ハメ技でノーダメージで倒し切った。

ドロップしたアイテムは、直接ストレージに入るので、落ちている魔石を回収して先に進む。


魔物を倒しながら先に進むと、辺りが明るくなって来た。

前方に木を切り倒して、切り拓いたと思われる畑が見えた。


『あれが、ショウアサとケシシの畑です』


探していた最後の素材が見つかった。

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