PvP

私達の前に現れたのは、初期装備を整えた3人の男性プレイヤーだった。


「あんたら、何か用か?」


流生が私を庇うように前に出た。


「お前に用はねぇよ。そっちのお姉さんを俺らのパーティーに誘いに来たんだ」

「お断りします。以外とパーティーを組む気はありません」


流生の背後に隠れたまま3人に告げた。


「そう言う事だ。パーティーメンバーが欲しいなら、他を当たってくれ」


流生が突っぱねたが、3人に引き下がる様子は無い。

私と流生を取り囲むように、1人が背後に回り込み、2人が前から距離を詰めて来た。

不安になった私は、流生の背中にピタリと張り付いた。


「バカかお前ら。取り囲んだ所で、何も出来ないぞ」


流生に怯む様子は、全くない。


、大丈夫だ。ゲームの中じゃ、何も出来ないよ」


流生の言う通りだと頭では分かっていても、やはり怖さは感じる。

そんな私の気持ちを察したのか、流生が私の手を握ってくれた。


「イチャイチャしやがって。どうせリアルじゃキモオタとブサイクな喪女なんだろ?」

「そう思うんなら、これ以上俺らに構うな。どっか行け、糞ニート!」


ビックリした。

ルイが人に向かって汚い言葉を吐くなんて、想像もしてなかった。


「調子に乗ってるんじゃねぇぞ!」


流生と3人組が言い合いになると、野次馬が集まって来た。


(アイツら、見た事ある?)

(カップルの方は知らない)

(3バカの方は見た事あるよ)

(他のゲームでも女の子に絡んでた)


「ウィンディ、デュエルって出来るのか?」


人が集まるのを待っていた様に、流生がウィンディに話しかけた。


『出来ますよ。HPが全損するまでのガチなヤツ』

「何か賭ける事は?」

『勿論出来ます。その場合は、敗者には私達が必ず、約束を履行させます』


ウィンディの言葉を聞いた流生の唇の端が僅かに上がった。


「おい、聞こえたか?この先、絡まれても面倒だ。決着をつけよう。俺が勝ったら、二度と俺らに近付くな」

「俺とやる気か?こっちが勝ったら、リアルでその女とヤラせてもらうぞ」


バシュッ!


いきなり、アバターが一つ消滅した。

何が起きたのか分からない。

騒めきが起きる中、3人組のナビAIが声を発した。


『只今、明らかな倫理規定違反によりプレイヤーを1名、強制ログアウトさせました。現実世界での性行為を強要しようとした現行犯です。私達は、ゲームを進めるナビを務めますが、不正行為の監視も行っています』


「さっきのヤツはBANされたって事か?」


『TGOではオリジナルアカウントを使用している為、アカウントそのものを抹消する事は出来ません。正確には「出禁」にしました。今後、彼がTGOにログインする事は出来ません』


「妥当な措置だな」

「ゲームで勝ったらリアルでヤラせろとか、頭おかしいだろ?!」

「連れの2人も一緒にBANでよくね?」

「初日で消えてくれて良かったよ」

「刀のボクちゃん、グッジョブ」


ナビAIから説明された今回の措置は、他のプレイヤー達にも支持された。

逆に、残された連れの2人は顔を引き攣らせた。


「おい、ちょうど2対2になったし、決着をつけるぞ」


流生が鞘に入ったままの刀を2人に突きつける。


「聞くだけ時間の無駄だけど、お前らが勝った時の要求は何だ?」


流生が更に2人を煽る。


「…調子に乗りやがって、何もいらねぇよ。さっきのヤツだって、勝負の決着がついてねぇんだから、まだ未遂だろ。AIの勝手な判断で、BANされたら堪んねぇよ。てめぇを叩きのめすだけで十分だ」


仲間がBANされた事で、2人が慎重になったようだ。


「そうか。ウィンディ、痛覚設定ってあるのか?」

『有りますよ〜、デュエル専用ですけど。何とMAXは10割増し。現実の痛みの2倍です』

「よし、それでやろう」

「…ル、ルイス、大丈夫なの?」

「心配するな。カリンには、指1本触れさせないから」


(〜〜〜っ!ベタな台詞なのに、流生が言うとメチャクチャ格好良い)


「お前らも、それで良いな」

「お、おう、上等だよ」

「ウィンディ、始めてくれ」


『承知しました。デュエルを開始します。プレイヤーはメニューに表示された「スタート」ボタンを押して下さい』


スタートボタンを押すと、私達のアバターにHPゲージが表示された。

相手は、やや遅れてスタートボタンを押したようだ。

相手のアバターにHPゲージが表示されると同時に、流生が斬りかかった。


(速ぁ!)


瞬きする間に3回、ダメージエフェクトが散った。

一際大きなダメージエフェクトはクリティカルだろう。


「ギャァァアアア」


「ちっ!つまんねぇ断末魔だ。『ひでぶっ!』とか『あべしっ!』とか言ってみろ!様式美ってモンを知らねぇのか!」


あっという間に、アバターが一つ消えた。


「強ぇ…」

「誰だよ、あれ?」

「絶対アバター変えてるだろ」

「誰か知ってるヤツいねぇか?」


ギャラリーが響めく中、残った1人が流生の背後から斬りかかった。

流生は当たり前の様に、相手の剣を躱す。

振り向きざまに、流生が切り上げると、再びダメージエフェクトが散った。


「ギャァァアア」


流生はノックバックした相手を足払いで転がした。

何を考えているのか、追撃をかける様子がない。


「カリン、PvPでもレベルが上がるぞ!押さえとくから、トドメ刺せ」


どうやら、1人目を倒した時にレベルが上がったらしい。

流生は刀で、相手を地面に縫い付け、私の攻撃を待った。


「ガァァアアッ!い、痛ぇぇえええ、離せよ、マジで痛ぇぇんだよ!」

「うるせぇ、黙れ!」


流生は叫び声をあげる相手を踏み付けた。


「行けカリン、汚物は消毒だぁぁああ」


相手に突き立てた刀を流生がグリグリと捏ねる。


「うわぁ、エグい」

「人でなし…」

「いい気味ではある」

「私もアイツら嫌い、ざまぁ」

「早くやっつけてぇ」


私もヤツらの言葉に、どうしても我慢出来ない事があった。

思い出すと、どんどん怒りが込み上げて来る。


「流生はキモオタじゃなぁぁあい!」


焔のチョーカーにブーストされた火の玉が、動けない相手に炸裂する。


「ガァァアアア、あぢぃぃいい、だず、げで、あぢぃぃいい」


アバターが消滅した瞬間、頭の中にファンファーレが響いた。

本当にレベルが上がった。


『おめでとうございます。お二人の勝利です』


ウィンディが私達の近くに飛んで来た。


「ウィンディ、今後も対人バトルでレベ上げが出来るのか?」


それは私も気になった。


『経験値が得られるのは、デュエルだけです。PKでは経験値は得られません。デュエルも同じ相手からは、2回以上は経験値を得られません。負ければデスペナルティを受けますので、PvPでのレベ上げは効率的とは言えません』

「だよなぁ〜」


流生がウィンディと話していると、いつの間にか私達は、ギャラリーに囲まれていた。


「あんたら強いな。俺達とパーティー組まないか?」

「そっちの刀持ったボク、カッコ良いね。お姉さん達と一緒に来ない」

「凄い魔法の威力ですね。俺達、後衛が得意な人探してるんです」


パーティーへの勧誘が、後を絶たない。

流生も対応に困っているようだ。


「おいおい、野暮な事するなよ」

「そうよ、こんな初々しいカップルの邪魔しちゃダメよ」


ギャラリーを割って、1組の男女が現れた。


「ゴエモンさん、アステリアさん」


流生の知り合いのようだ。

と言うか私も知っている。

有名な動画配信者だ。


「流生、2人と知り合いなの?」

「ああ、動画作成を時々手伝ってる」

「…流生も有名だもんね」


流生がゴエモンさんの知り合いと分かると、ギャラリーが流生の正体に探りを入れ始めた。


「ゴエモンさん、彼の正体知ってるんですか?」

「…まあ、知ってるっちゃぁ知ってるけど」

「教えて下さいよ。どうせ直ぐバレるレベルの有名人でしょ?」

「本人の許可がねぇと言えねぇよ」


ゴエモンさんが流生に目を向けると、周りの人達も流生を見る。

流生は、無言で固まっている。


「……」

「……」

「十兵衛か?」


誰かが、流生の正体に当たりを付けた。


「…正解です。十兵衛です」


流生が観念すると、ギャラリーが騒ぎ出した。


「強ぇ訳だよ」

「あのスピード尋常じゃなかったもんな」

「確かに他には、あんなのいねぇよ」

「お前、ソロ専門じゃなかったっけ?」

「その娘、誰だよ?」

「初回のβにいる時点で、俺らも知ってる娘だろ?」


私の知り合いも沢山いる。

オフ会で、会った人もいる

バレるのも時間の問題だ。

もう、自分で言って楽になろう。


「…燎です」

「「「「「えぇぇぇっ!」」」」」

「お前ら、いつの間にデキてたの?!」

「お似合いって言えば、お似合いか」

「さっきのヤツら『神速』と『紅蓮』に喧嘩売ったのか?」

「馬鹿じゃねぇの」

「知らないって怖いわね」


正体を隠すつもりはなかったが、僅か数時間でバレるとも思ってなかった。

このままギャラリーに囲まれたままだと、質問攻めに遭い身動きが取れない。

困っていると、アステリアさんが私の腕を引っ張った。


「みんなゴメン、ちょっとこの2人借りるね」


アステリアさんが、「任せて」と言うように私に向かってウィンクする。

ゴエモンさんに先導され、流生と一緒に2人について行き、何とか人集りを抜け出した。

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