死に神-La mort-
とりあえず俺はマリアらしき人物を、かなり傷付いた状態で見つけたので、救急車を呼ぶことにした。
「警察は……呼ぶだけ無駄か」
そもそも、俺は何故マリアの顔を知っているのか。
この監視社会で顔も変えずに独力で逃げ切るにははっきり言って軍隊が出張ってきても平気な顔して圧倒するぐらいの実力が必要だ。
そしてマリアにはその実力がある。
対マリア用特殊武装開発計画。プロジェクト=マギア。
要は魔術師になろうと云う武器だ。
マリアは特別な存在だ。管理AIも人命以外の影響を考えないだろう。
戦場になった後で補償されるが、あくまでも法律の認める範囲でだ。
要は現金が燃えても補償されないと云うわけだ。
なので俺はアイに
「救急車は呼び、よき市民の義務果たした。俺のコレクションを避難させる最短ルートを検索しろ」
「やれやれ、犯罪の片棒を担がされるわけですか」
アイは嘆息ボイスを出しながら手順を網膜にレーザーで焼き付ける。
「おいやめろ」
俺は言う。
この網膜レーザーシステムはあまりに好きではない。
「科学的にはもっとも安全な視覚化デバイスなのに……」
アイら不服そうに手元の電気デバイス。今となっては骨董品で、赤字部門のスマートフォンを見る。
「あ……?」
全てがエレガントな、AIには似つかわしくない疑問符が出る。
「ネットワークが一部除いて切断されています、何者かのサイバー攻撃かと」
俺はその、アイの言葉に
「生活サポートAIは管理AIにクラウド管理されている、そいつを出し抜くなんて出きる奴いるのか?」
俺の疑問に
「ここにいますわ」
声、
俺にはわかるこれはスピーカーではない。
肉声だ。
「どうも、マリアと呼ばれる者ですわ」
マリアは血をどくどく流しながらボロボロ担った高そうなと、かつてなら形容されたであろう絹製品の赤いスカートをつまんで、ペコリと頭を下げる。
______
___
「で、なぜ俺の家に、言っておくが泳がされた反体制側の拠点ではないぞ」
「ええ、疫病神にはならないつもりですわ」
マリアは血を拭き取ると俺の家に勝手に上がった。
「そりゃそうだ管理AI様々肝いりのプロジェクト=ホムンクルスの要なんて手にしたら出来レースは成立しない」
「反体制でも親体制でもない、かと言ってよき市民でもない、あなたぐらいが身を寄せるのにちょうどよくってよ」
マリア勝手に冷蔵庫を開け。俺のどら焼を食べる。
「うーん、普通でして」
とマリアの感想を、無視して
「いい加減にこの正体不明のサイバー攻撃を停止いただけませんか?」
アイは機械的に言う。
「あら、私の程好いサイバー攻撃を止めるとあなたの地位が、危うくて」
「そうだぞ、アイ。プロジェクト=ホムンクルス案件は最低でもコードレッド。今回はどう考えてもコードブラックだはっきり言って我が家にあまりよろしくない客人が押し寄せてくる」
「ですが……管理AIからの指令でプロジェクト=ホムンクルス案件は生活サポートAI権限者命令の次に優先せよと言われてますから」
「ですから、サイバー攻撃でしてよ、頭を使いなさいなクラウド頼りではディープラーニングも覚束なくってよ」
「まあ、管理AIを手玉にとる天下のマリア様が相手だ一生活サポートAIが、手玉にとられても怒られんさ」
「そうですか」
「ところでこれが本物の本でして……」
マリアは俺のコレクションに興味を持つ。
「そうだろ、中々よい趣味だろ」
「悪趣味でして」
「えーどこが?」
「ホメロスに古典ギリシア悲劇、ダンテ、シェイクスピアにゲーテそしてフランスモラリスト文学にヴォルテールにルソー」
「よき趣味だろう?」
「哲学はプラトンとアリストテレス、ヘーゲル、ハイデガー」
「よき趣味だろう?」
「古典派気取りたいという欲が見え見えでして」
「まったくその通りですよ、どうせ寝るのにオペラを見に行く輩で、私も仮想現実でこいつの下らん高級気取りに付き合わせてかわいそうですよ」
アイとマリアの酷評に
「生活サポートAIとかいきなり邪魔した輩とかは無しにしてやろう、で古典派気取りの証拠は?」
「簡単でしってよまずはギリシア文学、ソポクレスがオディプス王のみでコロノスのオディプスやアンティゴネーがなくテーバイ三部作が無いのにかかわらずなぜかエウリピデスがサテュロス劇以外が揃っているどうせならサテュロス劇も揃えておきなさい」
「……サテュロス劇なんて前座だろ」
「次にシェイクスピア、四大悲劇しかないわシェイクスピアの真髄は喜劇にありてよ、ゲーテなん色彩論まで持ってるのに、ファウストはずしているとこらがわざとらしくってよ」
「ファウストは戯曲だからあくまでもゲーテは小説家だろ」
「ならなぜ、セルバンテスのドン・キホーテがなくって?第一にフランスがスタンダール以降が壊滅的、プルースト、ジュネが無い時点でフランスの魂は怪しくって」
「まあ、文学の趣味なんて人それぞれだろ」
「なら哲学はギリシア趣味丸出しのヘーゲルとハイデガーのみはおかしくって?デカルトやカントやフッサール、ウィトゲンシュタインなどの、重要人物がない時点で押してしるべきでして、そもそもハイデガー読むならドストエフスキーぐらい揃えておきなさい、後キルケゴールやニーチェがないのも気になりまして」
「はいはい、博識博識」
俺はマリアからどら焼を取り上げた。
「返しまして」
涙目のマリアは、そう手を伸ばした、がマリアの小さい体躯を伸ばした。
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