教皇-Le Pape-

 深紅カーディナル・レッドを纏うことを許された者の教え、とは端的に言えば

 神は居る。

ということである。

 では神とはなにか?

 簡単に定義付ければ、超自然的かつ必然的に世界を基礎づける存在者である。

 では結局、居るのか?

 神とは、神という概念だけからその存在を導出できる、ある特殊な存在者、あるいはより一般的かつ本質的な存在者、あるいは存在者を越えたモノ。

 神とは思弁を寄せ付けないある種の独特の風格を備える。

 と、私は思う。

「欲望は神を予感させるのでしょうか?」

 私の疑問に

「もし、欲望が認識を越えているならば神を予感させる」

 と師匠は答える。

「ああ、そうですか」

 私はあくまで興味無さげに答えると

「些事だな」

 と師匠も興味無さげに返す。

 「私は神が居るかどうかはわからない……というよりは関心がない」

 私の言に

「もはや神は死んだ。我々人間が殺したんだ」

 師匠は文庫本を片手に答える。

「では、なにが神を生かすのですか?」

 私はあくまで興味無さげに言うと。

「純粋かつ誠実な信仰心」

 師匠の答えに。

「では神は生きていますね」

 私は笑顔になる。

「確かにその意味での神は生きている」

 師匠も笑顔になる。

 しかしその後、

 師匠は顔を暗くして。

「だがその意味での神を観れるのは病人狂人だけだな」

 と呟く。 

「そうですね」

 私は密かに自らの神の認識に対する資格を誇らしく思う。

「今の誇りを捨てた方がいいよ、それは梯子だ。単なる道具に過ぎない」

 師匠は文庫本から顔を上げる。

「どうして、わかったんです?」 

 私が素直に驚きを口にすると

「人は誰もが神に対する憧れを持っている、そして自分は神に近いと考える」

 師匠は行きを吸った後に

「それが、もっとも神に遠い場所トポスだとは知らずにね」 

と続ける。

「私は神から遠かったんでしょうか?」 

私の問いに 

「それこそがもっとも近道だ……というよりは唯一の道だ」

 師匠は答える。

「神とは難儀ですね」 

 私のため息に

「難儀でなくては、人類は発展しながった」

 師匠は曖昧に笑って答えた。

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