252 沼地の魔女(ウイッチ)

「おーっほっほっほ……よくここまできたな冒険者!」


「えー……ここまできてそう言うキャラかよ……」

 不死者アンデットの大群を退けた俺たちは、泥だらけになりながらも沼地を進むこと二時間以上……ようやく沼地の中心部に当たる場所まで到着した俺たちを待っていたのは、小さな小屋とその前に立っている白髪に赤い眼をした俺たちとそれほど年齢が変わらなさそうな女性だった、だが体型は恐ろしくグラマラスで妖艶な印象が漂っている。

 彼女の傍には二本の黒い刀身を煌めかせた大剣グレートソードを地面へと突き刺したまま動かない白骨の巨人が膝をついており、その前に立って腰に手を当てて沼地の魔女……モーガンが仁王立ちしている。

「随分汚い格好ではあるが……それでもまあ、お前らがこの王国の冒険者であることには変わりないな?」


「俺の名前はクリフ・ネヴィル……冒険者夢見る竜ドリームドラゴンのリーダーだ、お前がモーガンか?」


「いかにも……私が沼地の魔女ウイッチモーガンだ。待っていたぞ強い魔力を持つものよ」


「待っていた? 俺を?」


「いかにも……貴方、私と手を組む気はない?」

 モーガンは手招きするような仕草で俺に向かって手を伸ばすが、どう言うことだ? 俺は訳がわからないと言う表情で彼女をみるが……急に俺の周囲に一瞬不可視の魔力がたちのぼるが、俺の体に絡みつくといきなりバシッ! と弾き飛ばすような音が巻き起こり、俺は慌てて防御姿勢をとる。

 こいつは……混沌ケイオスの魔獣鬼火熊ジャカベアが使う相手を無力化する調和ハーモニーか? 先制攻撃に近いこの能力が無力化されたことで、軽く舌打ちをするモーガン。

「……調和ハーモニーが効かない? どう言うことだ?」


「……話し合いって雰囲気じゃないよな? これは」

 俺の言葉にアイヴィーやロラン、仲間たちが一斉に武器を構える……能力が無効化されたことを認識したモーガンは、舌打ちをしながら何か不思議な言葉をつぶやく。

 それに呼応して、彼女の背後に控えていた白骨の巨人……いやこの場合は巨人ジャイアントを白骨化させたようにも見えるその怪物がゆっくりと立ち上がっていく。

 その姿は大荒野で戦った単眼巨人サイクロプスに匹敵するほど巨大で威圧感のある姿をしており、どう言う原理かわからないがまるで操り人形のように不可思議な関節の動きを見せながら俺たちへと向かってくる。


「ハハハハッ! 外縁部にいた不死者アンデットは私の用意した駒の中でも最弱っ! 私の護衛を任せているのは西方で倒された森巨人フォレストジャイアントを蘇らせた最高傑作である巨人兵士スパルタンに滅ぼされるがいいわ!」

 雄叫びと共に巨人兵士スパルタンと呼ばれた巨大な不死者アンデットが、地面に突き刺さっていた二本の大剣グレートソードを振り上げ薙ぎ払おうとするが、その攻撃を前衛として出ていたアイヴィーか身を翻して回避し、ロランは大盾タワーシールドを使って受け流すと俺に向かって叫んだ。

「クリフ! モーガンを止めろ!」


「え? って逃げてるぅ?!」

 モーガンの方を見ると、魔女は身を翻して走り出しており、小屋へと逃げ込もうとしているところだった……なんて逃げ足が早いんだ……だが、どうやら巨人兵士スパルタンは自律的に動かせるようで、彼女が逃げている間もアイヴィーとロランに向かってギクシャクとした動きで大剣グレートソードを振るっており、その援護にアドリアは支援魔法をかけ、ロスティラフは複合弓コンポジットボウを相手に射掛けているが、その矢が体に突き刺さっても大したダメージにはなっていない。

「クリフ! 追いかけよう!」


「ああ、逃すわけにはいかない……!」

 ヒルダが接近戦用の小剣ショートソードを鞘から引き抜き、走り出したのを見て俺も慌てて追いかけていく。

 身軽な彼女は俺よりも数歩先を駆けていくが、モーガンは小屋の中へと走り込むと、そのまま部屋の中へと姿を消していく……これは? 何か違和感がある……なんとなく嫌な気持ちを感じて俺は一瞬戸惑うが、ヒルダが勢いのまま小屋へと飛び込んだのを見て、仕方なしに小屋の中へと飛び込む。

「ま、待て! なんかおかしい……ああ、くそっ!」




「……何?! 何か……おかしい?」

 モーガンを追いかけてクリフとヒルダが小屋の中へと飛び込むのと同時に、あたり一体に軽い振動と強い魔力の収縮を感じ、アドリアは背筋がゾッとするような感覚に見舞われる。

 目の前では巨人兵士スパルタンがアイヴィーとロランの攻撃を、大剣グレートソードを使って受け止め、人間には不可能な関節の動きを見せながら攻撃を繰り出しており、正直他に気を取られている暇もないのだが……。

「むぅ? あの小屋が……!」


「あれは……」

 ロスティラフの言葉にハッとしてクリフたちが駆け込んでいった小屋を見ると、そこにあったはずの小屋がまるでオーロラのように揺らめくのが見える……強い幻覚とも言える力で小屋だと認識させられていたが、その本当の姿を見せ始める……それはあまりに強い魔力と混沌ケイオスの力による空間の亀裂となって現れた混沌の門ゲートオブケイオスと呼ばれ、古代の魔法使いたちが研究を重ねていた異界への入り口……伝説の迷宮の入り口が広がっている。


「もしかして星幽迷宮アストラルメイズ……? まさか……モーガンは最初からそこに逃げ込むつもりで……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る