251 雷の雨(サンダーレイン)

「なんだ、これ……話が違いすぎないか?」


「よそ見しない! 次くるよ!」

 俺たちは今、凄まじい数の不死者アンデットの襲撃を何とか押し返しているところだが、内心困惑が隠せない……話が違いすぎる。

 というのもモーガンが籠っていると言われる命失われし沼地の不死者アンデットは基本的に人間を襲うものが少なく、特に外縁部に存在しているものはぼおっと立っているだけの不死者アンデットが大半だ、と冒険者組合ギルドからは説明を受けていたからだ。

 しかし今目の前で武器や腕を振り回して殺到してくる不死者アンデットは、明らかに俺たちへと突進を繰り返している……というかなんなのこの数!

「くそっ……何が大人しい不死者アンデットばっかりですよ、だ! 全然違うじゃねえかクリフ!」


「騙されたって思ってるよ! <<火炎の嵐ファイアストーム>>ッ!」

 俺の魔法が襲いかかってくる屍人ゾンビ骸骨戦士スケルトンを業火の海に沈めていくが、魔法に反応したのか、屍を乗り越えて次の不死者アンデットが襲いかかってくる。

 その攻撃をアイヴィーやロランが必死に受け止め、攻撃を繰り出していくがどういうことなんだ? よく見ると俺たちへ向かってくる不死者アンデットは明確な殺意、敵意を持って俺たちへと襲いかかってきているようにも思える。

「クリフ、壁を立ててください! 敵を纏めるんです!」


「そうか! 石壁ストーンウォールッ!」

 ロスティラフの声に反応して俺が石壁ストーンウォールを無詠唱で打ち立てる……魔力に反応したのか、前方に展開された石壁に勢いよく走ってきていた骸骨戦士スケルトンが衝突して砕け、屍人ゾンビが衝突する度にぐしゃり、という音を立てている。

 だが不死者アンデットの勢いが止まらない……魔法の石壁に体当たりをし続ける不死者アンデットの集団の前に、次第にヒビが入っていく。


「だけど……時間は稼げたッ! 雷の雨サンダーレイン

 俺の魔力の集中と共に、辺りが一瞬暗くそして渦巻く黒雲が空へと展開していく、集団を一気に殲滅する魔法としてはこれが最適だろう。

 轟く稲妻があたり構わず地面へと叩きつけられる……轟音と共に、不死者アンデットごと高電流の稲妻が肉体を焼き尽くし、地面へと落下した複数の稲妻が敵ごと地面を抉り取っていく。だけど……それは味方も一緒だった。

「ちょ、ちょ……こらああああっ!」


「バカああああああっ!」


「な、何やってんですかあああああああ!」


「……あ、あれ? なんで俺たちにまで……」

 まずアイヴィーに比較的近い距離に雷の雨サンダーレインによる落雷が着弾し、彼女が大きくステップして回避するが、次の落雷が不死者アンデットごと地面を吹き飛ばし、その土を思い切りロランが被ってひっくり返った。

 そうだった、覚えたててすっかり忘れていたが、この雷の雨サンダーレインは指定した範囲に無差別な落雷を降り注ぐ魔法で、術者の意思による細かい対象の指定は難しく、繊細なコントロールができる術者はそう多くない。

 そういった意味でも範囲内にいれば誰でも攻撃対象になり得る……という魔法ではあるが、予想以上に暴れ回る魔力は俺のコントロールを外れてしまい雷の雨サンダーレインは無差別に天から降り注ぐ。


「ちょ、おま……なんでコントロールが……」

 これでは俺を中心とした半径一〇メートル程度の範囲内に無差別に雷の雨サンダーレインをぶっ放しているようなものだ。

 おかしい、こんなにコントロールが効かないなんて……必死に魔力をコントロールしようとするが、まるで制御の効かない雷の雨サンダーレインは次々と当たりの木々を粉砕し、焼き払い絨毯爆撃のように当たりを破壊し尽くしていく。

 雷の雨サンダーレインによる落雷と、吹き飛んでいく不死者アンデット、そして仲間たち……泥、土、悲鳴、そして爆音……阿鼻叫喚となった中、必死に魔法を止めるまで俺たちは必死に逃げ惑うことになったのだ。




「……わかってますよね?」


「はい……すびばせん……」

 一五分ほどして不死者アンデットが壊滅した沼地の縁で泥だらけになったアドリアが頬をひくつかせて俺の前に仁王立ちをしている。

 その後ろにもかなりムッとした顔のアイヴィーと、呆れ顔のロラン、少し尻尾が焦げたことで悲しそうな顔をしているロスティラフ、疲れ切って座り込んでいるヒルダがいる。

 当の俺は正座をさせられ、必死にみんなに謝っているところだった……いや本当にこの魔法の特性をすっかり忘れていたのは確かなのだが、あれほど威力が出ちゃうとはねえ。ロランが苦笑いを浮かべながら俺に話しかけてくる。

「ったく……お前の魔法は規格外に強いのは認めるけど、場所を考えて使わないとな」


「面目ない……この間獣魔族ビーストマンに使ったのが初めてで……範囲内に無差別に降り注ぐのを忘れてた」


「ま、まあ……急かした私も悪いですし……」


「ロスティラフはクリフに甘すぎます!」

 見かねたロスティラフが俺とアドリアの間に入ってとりなそうとするが、アドリアは相当怒ってるらしく、両手を腰に当てて怒りを表現している……ってこの格好も割と可愛いですねアドリアさん。

 この所集団殲滅用の範囲魔法を使用するケースが多かったので、細かいコントロールがちゃんとできていないのかもしれないが……それにしてもあんなにコントロールが効かなくなったのは初めてかもしれない。

 体の奥底で、熱く脈動するような何かを感じるも、その感覚はほんの一瞬で消えていく……。


「なんだったんだ? あの魔力の強さは……」

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