245 命失われし沼地への誘い

「えええっ?! 本当に夢見る竜ドリームドラゴンのクリフ……好色で、幼女奴隷ハーレム作ってるとか、イケメンは人体実験してると噂の……あ、いえ、高名な魔法使いのクリフ・ネヴィルさんですか?!」


「……おい、今のなんだよ」

 俺の前でとんでもない発言をした受付嬢が慌てて発言を取り繕うの前で、俺はさすがにツッコミを入れざるを得なくなり、カウンターに肘をついてまるでクレーマーのような体勢で相手を睨みつける。

 ブランソフ王国第二の都市であるシャアトモニアに到着した後、冒険者組合ギルドに顔を出して、夢見る竜ドリームドラゴンである旨を伝えたらこの扱いだよ。

「い、いえすいません! 決してそんなことはないと思っていますが……ひいいっ! 襲わないでえっ!」


「……悪名高い魔法使いになっちゃったね」

 隣でくすくす笑っているヒルダだが、さっきの幼女奴隷ハーレムの一員扱いされとるんですぞ、王女様……苦々しい表情を浮かべる俺に、まあまあといった表情で肩を叩く彼女……まあ、なんで今ヒルダがついてきているかというと、おそらくアドリアとアイヴィーはこれを予想していたのではないか、と思うのだ。

 むしろアドリアが過去交渉をしていた時に、多分似たようなことを言われてたんだろうな……と気がつく。

「あー、まあ俺は聖人君子でもないけど、その言い方は失礼すぎるぞ……ったく……で、俺たちが受けれるような仕事ってあるか? 最終的には王都に行こうと思ってるんだ」


「それであれば、良い仕事がありますよ」

 急に声をかけられ、その方向……二階に上がる階段の方向を見ると、一人の男性が降りてくるところだった。その男性は眼鏡を掛け品の良さそうな灰色のローブを着ており、おそらく魔法使いか学者であることがわかる。

 胸には金色の紋章がつけられており、おそらくこの冒険者組合ギルド支部の幹部……いや、組合長マスターか……俺に失礼なことを言いまくった受付嬢が慌てて彼に頭を下げるのを見て、俺はそう確信する。

「実入りはいいんですかね?」


「それはもう……組合長マスターとしてちゃんと胸を張れるくらいには。部屋に来ていただけますか?」

 組合長マスターはニコニコと笑いながら、再び階段を上がっていく……俺は隣にいるヒルダに目配せをすると、彼の後をついていくために歩き出す。

 周りの冒険者の目もあるが……やはり少し前に仲間達と話していた通り、そろそろ厄介ごとを大きく抱えそうな気がしてならないな。

 俺はヒルダだけに聞こえるように小声で呟く……どうもこの国に来てからというもの、何か不安のようなものが拭えずに、ずっと絡みついたような状況になっているからだ。

「……なんか違和感があるんだよな……この王国……ヒルダもおかしなことがあったら教えてくれ……」




「さて高名なる荒野の魔法使い、にお会いできるとは正直思ってもいませんでした……まずは私の方からご挨拶をさせてください、私はシェーン・ラゴラス、シャアトモニアの街に設置されている冒険者組合ギルド支部の組合長マスターです」

 ラゴラスは俺たちに頭を下げる……彼は銀色の髪に、丸い眼鏡……この世界の眼鏡はあまり精度が高いものがあるわけではないが、それでも高価な品のためそれなりに裕福な生活をしている男性なのだろう、所作も美しく教育をきちんとされている人間の印象がある。

「俺は夢見る竜ドリームドラゴンのリーダーを務めているクリフ・ネヴィル……こちらはヒルダです」


「先ほどはうちの受付嬢が申し訳ないことを……クリフさんの噂に尾鰭がついてましてね……割とすごいイメージになっているんですよ」

 ラゴラスによると大荒野での俺の活躍、帝国へ移動してからの行動……噂話に尾鰭がつきまくっており、正直クリフ・ネヴィルという個人の噂はすでに邪悪な魔王ハイロードのような扱いにすらなっているのだという。

 まあ確かに魔法で村一つ吹き飛ばしたこともあるしな……それでも比較的真面目に冒険者をやっているつもりだったのだけど、噂が流れるにあたって次第におかしなことになっているのかもしれない。

「まあ……イメージとは違うってのを広めるしかないよなあ……」


「まあ、そういうことですね。実際獣魔族ビーストマンの砦を落としたりと活動を認める冒険者も増えてはいますが……ただこの王国は元々閉鎖的なので……」

 ラゴラスは苦笑いを浮かべる……なんでも彼は元々この国の出身ではなく、派遣されてきた冒険者だったそうだ。この国で依頼をこなしていくうちに、冒険者組合ギルド支部から幹部になるように誘われ、今の地位に収まった。

 何年も仕事をしているが、夢見る竜ドリームドラゴンの活躍は他を圧倒している、と思う……と付け加えもしていた。

「ブランソフ王国出身ではないのに、そういう出世の仕方もあるんですね」


「元々この国の人は楽観主義というか……享楽主義なんですよ。仕事はあまり真面目にやる人間はいませんし、都市運営も私から見ると正直どうか……と思います。まあ部外者が文句をつけたところで変わりはしないですから……」

 ラゴラスは俺たちの前に羊皮紙を広げる……依頼の用紙? そこにはこの周辺の地図が書かれており、幾つもの注意書きのようなものがつけられている。

 その地図の中に特に重点的に印をつけられた場所があり、そこには『命失われし沼地』と書かれている……沼地? 俺とヒルダが地図を覗き込んでいると、ラゴラスが少し申し訳なさそうな表情を浮かべながら、俺たちに伝える。


「お願いというのは……この沼地に住む魔女……モーガンを退治して欲しいのです……彼女は、神話を再現しようとしています……」

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