246 神聖介入(インターベンション)
「神話の再現? ……それってなんですか?」
俺の隣でお茶と甘味を食べていたヒルダが、俺と向かい合って座っている難しい顔をしているラゴラスへと尋ねる……彼はその言葉に頷くと簡単に説明を始める。
その話を聞いていて思い出したが魔法大学以前、サーティナ王国でベアトリクスさんが話をしていた魔法の研究に没頭しすぎて自ら
この伝説、聖王国の魔法大学に入学して歴史書を紐解いていくとそれが単なる噂レベルのものではなく、神話として実際に起きた出来事なのだと知った。
西方に位置するとある王国、その国でも天才と呼ばれる魔法使いがいた。彼は人の生死に興味を持っており、宮廷魔術師としての地位にありながら、さまざまな実験を行なっていた。
実験は多岐におよび、命なき者に仮初の命を吹き込む
<<ああ、なんだそのことか……あいつ、つまらないやつだったのよね……>>
突然俺の心の中にアルピナの声が響くが、それは無視して俺は昔の記憶を紐解いていく……その魔法使いは、研究に没頭するあまり宮廷魔術師の地位を辞し、自らの邸宅に篭って研究を続けた。
時間が足りない、あまりに人の身で生命を探求するには時間がない……そこで彼は禁忌なる力を求めて、死の神へと嘆願する。
『どうか私に時間を与えてください、研究を完成させる時間を、人の身では私に残された時間はあまりに短い……』
死の神は気まぐれにその嘆願を受け入れた……
決して朽ちることがないように、すでに朽ちた体を……決して死ぬことがないように、すでに死んだ命を……決して人前に出れないように、醜い姿を。
「怖い神話なんですね……」
ヒルダが眉を顰めているが、これ割とメジャーな神話なんだけどな……彼女は怖い話などを嫌がる傾向があるから今まで聞いたことがなかったのかもしれない。
で、神話の再現というのはその伝説や神話、故事に倣ってその物語を再現することにある……言い伝えられる神話、伝説には力が宿る。
その神話と同じ物語を再現することで、その物語自体が持つ
「……モーガンはその伝説を再現しようとしています……元々ブランソフ王国においては
随分と乱暴な形での再現だな……とは思うが、全てを伝説通りに再現することではなく、伝説におけるポイントを絞って再現することで、一定の
「すでに沼地が存在して
「……そうなのですか?」
俺の言葉にラゴラスは驚く……ヒルダもついでに驚いている、なんでお前がそんなこと知ってんだよって顔だが、それは誰にも言ってない俺の中にいるアルピナの知識だろうな。
<<そうね……私の知識があなたの知識となって、今まで知らなかったものも理解できるようになっている……>>
<<
アルピナの声が響く……その伝説を再現した際に、モーガンと名乗るブランソフ王国の魔女がどこまでの力を手に入れるのか、それはわからないが少なくともここで止めておかないと俺たちの旅に影響が出ることは間違い無いだろうな。
「……仕事は受けますよ、俺も困っている人がいるのに見過ごすことはできない」
「よろしいんですか? 謝礼などお話ししておりませんが……」
ラゴラスの言葉に俺は黙って頷くと笑顔を見せる……個人的には精一杯の笑顔で、尚且つ爽やかな笑顔を浮かべたつもりで彼に応える。
少しラゴラスの顔が引き攣っている気もするが俺は構わずに会話を続ける……なぜか横でヒルダがくすくす笑っていたが、まあ気のせいだろう。
「大丈夫です、俺は人の役に立ちたいので……でもまあ謝礼はちゃんとご用意いただけると嬉しいですね」
「……クリフは強いのに善人だよね、割と人が良いっていうか、ちょっと可愛い感じ」
「え? まあ俺は無理には悪い人にはなろうとはしてないけど、可愛い感じ?」
宿への帰り道に前を歩くヒルダがニコニコ笑いながら俺に微笑むのを見て、俺は尋ねるが彼女は笑顔のまま頷く……その仕草は愛らしく可憐だ……まあ元々美少女であることは理解してたが、柔らかさが出てきて余計に魅力的に見えるようになってきた。
もう夕方……ラゴラスとの話も長くちょっと疲れたのはあるけど、これから仲間に色々話をしなきゃいけないし、それもまた面倒だなと思いつつ人通りの少なくなった道を二人で歩いている。
笑顔で俺と歩いているヒルダは本当に絵に描いたような美少女なんだよな……時折通り過ぎていく男性の目が彼女に注がれているのを感じる。
帝国への反抗を仲間と共に行なっていた時には、もう少し表情が硬く張り詰めたような印象があったが、ここ最近の彼女は柔らかく自然な笑みを見せるようになっている。
「うん、ちょいワルで可愛いの。仲間に入れてもらった時は私一杯一杯で全然気が付かなかったけど、ずっとクリフはみんなに優しいよね」
ヒルダが笑顔のまま俺に近づく……そんなもんかなあ、俺は彼女の言葉に少しだけ気恥ずかしさを感じて苦笑いを浮かべる。
なんだ? と思ってヒルダを見ると彼女はほんの少しだけ頬を桜色に染めて俺を見つめている……そして俺の頬にそっと手を添えるといきなり彼女の顔が一気に近づいてきて……俺の唇にそっと彼女の細くて柔らかい唇が重ねられ、少し野間をおいて、そして離れていく。
「……へ? え? あれ?」
驚いて固まる俺の顔を見て、ヒルダは人差し指を自分の唇にそっと当てると、悪戯っぽく笑う。
まるで子供向けのお話に出てくる悪戯好きな
「私感謝してるの、クリフに……だからあそこから連れ出してくれたクリフへのお礼ね……みんなには内緒だけど……私ずっとクリフのこと大好きなの」
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