244 破滅級魔法(カタストロフ)

「……アルピナ……お前何してくれてんだよ……」


 仮眠から覚めた俺は、周りに誰もいないことを確認してから思わず両手で頭を抱えて悪態をつく……彼女の記憶から想定するに、破滅級魔法カタストロフである変異混成大魔法陣は一つの国を一撃で崩壊させるレベルの魔法なのだろう。

 そんな魔法、魔法大学や過去の文献にすら出ていなかったぞ……完全にヤバすぎて歴史の闇に葬られた失われた技術ロストテクノロジーの一つなのだろう。


 俺が使う戦術魔法タクティカルは確かに戦局を大きく変化させる効果や破壊力を持つが、破滅級魔法カタストロフはそれを超えるものだというのだから……。

 純粋に魔力をぶつけるだけのこれでもくらえ T T Y F 戦術魔法タクティカルの範囲だな……地形を変えるくらいの威力では破滅級魔法カタストロフとは言えないのだろう。


<<そうねえ……あれは確かに強いけど、一国を崩壊させるようなものではなかったわね。神話時代ミソロジーを経て超破壊力を持った戦術魔法タクティカル破滅級魔法カタストロフは封印されていったのよ、神を知る者ラーナーの滅亡とともにね>>


 神を知る者ラーナーがいた時代はそんな超破壊力の魔法を撃ちまくってたってことか……それはそれで想像したくない恐ろしい世界だ。

 核撃エクスプロージョンですらあれだけの破壊力を有しているのだから……それを超える破滅級魔法カタストロフはどうなってしまうのだろうか。


<<……まあ少しだけ助言してあげるわぁ……破滅級魔法カタストロフは確かに超破壊力を持っているけど、発動までの準備や条件が存在しているの。だから……あとはわかるわね?>>


 ああ、破滅級魔法カタストロフを発動させないために準備をさせない、もしくは条件を叩き潰す……それが絶対に必要ってことだな。しかし……少し前まで敵だったはずのアルピナがこうやって助言をしてくれる……というのも奇妙な気分だ。

 とはいえ彼女はそれ以上のことはしようとしないし、できないのだろう……生命体としてのアルピナはすでに死んでいる、という状態だから。

 さて……揺れる荷台の中で体を起こし、音を立てないように周りに目を配る……アイヴィーとヒルダ、そしてロランが仮眠をとっており、御者台ではロスティラフとアドリアが何かを話しているが……まああの二人はいつも仲良いしな。


 仮眠中の仲間を起こさないように、荷台から軽く外を眺める……揺れる荷台からゆっくりと街道の景色が流れていくのを見つめているが……のどかな国だ。

 平和というのはいいことだ……前世が日本人である故なのか、平和という言葉には強い魅力を感じてしまうのだ……異世界で暮らしているとはいえ、やはり戦争とか辛いことなんか体験したくはないもんな。

「なんとかして……この国で起きていることを解決したい……けどな……」




「……トニー、この国では私から絶対に離れるな。近辺で恐ろしいまでの魔力の収縮と拡散を感じた、ただ者ではないものが近くにいるようだ」

 針葉樹の槍コニファーの言葉に、向かいの席に座るトニーはその意図を感じて頷く、彼自身も魔法を使う能力があり、魔法大学へと留学をしている。

 ここ数日の魔力の動き、特にトニーが得意とする筋肉魔道マッスルソーサリー炎の精霊サラマンダーなどの精霊からの魔力を中心に使用しているため、ピリピリとした空気をずっと感じているのだ。

針葉樹の槍コニファー殿も感じますか……私は正直言ってずっと気分が悪い状態です……」


「木々が恐ろしくざわついている……それと混沌ケイオスの植物も多いようだ。人に対しての木々の怒りを感じる」

 針葉樹の槍コニファーも少し苦しそうな表情を浮かべている……伝説的な人物の意外な表情にトニーが驚いていると、彼は大きく何度か深い呼吸を繰り返して心を落ち着けようとする。

 森人族エルフの強い感受性が災いしているのか、木々の怒りに当てられているのか少しの間体を震わせていたが、次第に落ち着いてきたのか針葉樹の槍コニファーは何度か深い深呼吸をすると、深くため息をついた。

「……魔王ハイロードが存在しているらしい……その存在が混沌ケイオスごと木々を消滅させたことに、木の精霊ドライアドが恐怖を覚えているらしい」


魔王ハイロード? なんですかそれは……」


魔王ハイロードとは神に至る道の一つ……善悪ではなく己の目的のために道を歩むもの、私や神権皇帝ファラオのように誓約に縛られる者ではない」

 トニーは全くわからん、と言いたけな顔をしているが……針葉樹の槍コニファーはそんなことはお構いなく話を続けていく。


 針葉樹の槍コニファー神権皇帝ファラオは誓約……神話の時代ミソロジーより定められたルールを守ることを強制されている。

 勇者ヒーローは終末の日における神の尖兵であり、世界を維持するために戦う戦士でもある……その目的のためには異物を排除することを厭わない。

 終末の日、がいつ来るのかはわかっていない……近いとは理解はしているのだが、それでもここ数十年の混沌ケイオスの活発な行動を考えるとこの周期において、その日が来るのかもしれないと思っている。

「……私は森に戻った際に少しだけ話を聞いている、君の友人であるクリフ・ネヴィルが神性の道を歩むものであったと……黒い神は笑ってそう伝えてきたよ、それ故に私は君の友人にとても興味がある」


「……黒い神……ですか?」

 トニーの不安そうな顔を見てもなお、針葉樹の槍コニファーは表情を変えずに頷く……黒い神、それはこの世界を遊び場にしている不気味すぎる神柱の一人。

 姿を視認することはできず、黒い影の中に赤い目と口を広げた不気味な姿で目の前に現れる……誰もがその姿を知らず、名前を知らず、その目的すら知ることはない。

 あの姿を思い出すたびに不快感と不安を覚える不気味な存在……だが、それでもなおは世界のために動こうとする神の一人であるのだ。


「あれは不気味で邪悪な思考の持ち主だが……それでも世界を守ろうとする存在ではあるのだ……私も神権皇帝ファラオもあれには逆らわない、いや逆らうことがどれだけ愚かなことなのか……それを知っているからだ」

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