243 一つは全て、全ては一つ
「ブランソフ王国王都にいく前に、街道沿いにあるシャアトモニアに立ち寄られるといいですよ、あそこは観光名所でもありますし、何より食事が素晴らしいです……少し気分を変えていただいた方がいいかな、と思います」
先日の
昨日まではアドリアも応援で治療にあたっていたそうで、今は出発するということで馬車の中で仮眠をとっているが……相当に酷い状況だったようで疲れ切ってしまっている。
「ありがとう、皆さんも気をつけて……」
このまま滞在していると何年も動けなさそうという見立てもあり、ある程度アーヴァインで物資の補充や衛兵の手伝いなどを買って出た後、俺たちは街を離れることにした。
本来であれば最後まで、というのも考えるべきだとは思うが本来治療などが本職ではないメンバーも多く、自分たちができることとできないことをはっきり分けた方がいい、というロランの助言に従った形だ。
俺が
「おい、そろそろ出ようぜ」
「ああ、なんかシャアトモニアって都市が観光名所らしくて、気分転換に行ってみたら? って話を受けたよ」
「昨日ベッテガと地図で確認したんだ、どちらにせよシャアトモニアは立ち寄らないと物資不足になるから、必ず立ち寄る」
ロランがさっさと乗れという仕草で俺に合図を送ってくる……黙って頷いて荷台に乗り込むとそこには仮眠中のアドリアと、ロスティラフ、そしてアイヴィーだけしか載っていないが、馬車はそのままゆっくりと動き出す。
あれ? カレンとベッテガはどこに行ったんだ? と周りを見ていると、アイヴィーがああ、と気がついたように俺のそばへ移動し、腰を下ろすと話しかけてきた。
「二人は先にシャアトモニアの先にあるアーロンへ出発してる。今朝早く出て行ったはずだから、半日くらい先を進んでいるはずよ。なんでもプロヴァンツーレ家ゆかりの土地だとかで」
「そっか……わかった」
俺が荷台に腰を下ろすと、彼女は俺の腕にそっと寄り添ってくる……移動や事後処理ばかりで二人きりという時間はほぼ取れていないからな……軽く彼女の肩に手を回すと荷台からアーヴァインの街を眺めていく。
この街は国境に近い場所にあるから、まだおかしなところはほとんどない……ジョンと名乗った冒険者が話していたように、昔はこんなことは起きていなかったのだという。
白昼夢で見た俺自身を見ていたあの騎士団長……彼は何をしたのだろうか?
「怖い顔してるわね……クリフも少し休んだ方がいいわよ」
「あ、ああ……少し寝るよ。俺も多少疲れたみたいだ」
アイヴィーが心配そうに俺の頬に手を沿わせるが、そっかそんなに思い詰めた顔をしていたのだろうか……彼女に視線を移して、軽く笑うと俺の頬をそっと撫でてくれている彼女の手に自分の手を重ねる。
暖かい……そして昔からずっと俺に優しく触れてくれている手だ……彼女に触れられていると本当に落ち着く気がして、俺は軽く気を張るのをやめて、軽くあくびをするとそのまま彼女の肩に頭を添えて意識を暗闇の中へと落とし込んでいく。
「……おやすみ……愛してるわ」
「……王国の各都市、とは言っても主要都市だけですが、隠匿された魔法陣を設置しました……本当にこれで王や我々貴族は助命されるのですか?」
ジャコブ・レスコーが苦しそうな顔で俺に向かって報告をしている……そんな彼の様子を見ながら、俺は笑顔を浮かべて満足そうに頷いている。
軽く首を傾げながらジャコブの顔を見るが、まるで何か悪いことをした子供のように、青ざめた顔色をしており、ずいぶんと疲れているのねえ……と人ごとのように考えている自分に気がつく。
「ジャコブ、私は嘘を言わないわ……あなたが設置した魔法陣はとても大事なカラクリ……本当に必要になった時にその力がわかるわぁ……ねえ、クラウディオ」
「……彼らの首に鈴をつける意味と理解している。都市ごと人質に……」
「バカね、そんなんじゃないわ……変異混成魔法陣、これはペットにつける鈴なんてチンケなものじゃないわ……説明が必要かしら?」
不満そうに俺……いやアルピナの言葉に頷くクラウディオ……まあ、こいつは単なる騎士上がりの
「私は以前変異混成魔法陣の実現を見たわ……素晴らしい光景だった、それは全てが混じりあい、愛し合う究極の姿……あれこそが
アルピナの表情が歪み切る……だがこの魔法の成就には大量の魔力と、怨嗟と苦しみに喘ぐ魂が必要になってくる。この王国を裏から支配し、飼い慣らし続けたことで下地は整った。
誰もが今の平和の中に緩み、油断し続けている……そして時折起きる
そしてそれこそが最終的な破滅への道を辿る死の行進であることをこの国の人は誰も気が付いていないのだ。
『……この国で何かが起きている、でもそれは別の場所で起きていることだから……わたしたちには関係のないことなのだ。それよりも毎日の生活に目を向けなければ……』
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