229 逸脱した魔法使いと知恵者
「ふんふーん、この書物はここで……こいつはこっち……もう少し人手が欲しいのう……」
「まあ、自分しかおりませぬしな……」
彼は元々洞窟に住んでいたが、現在はデルファイを離れている
「書物の整理が進むのは良いのだが……人は雇ったほうがいいのだろうか……だが我の見た目だしな……」
「随分と片付いたんだな」
「……久しいな、クリフ……しばらく見ないうちに変わったか?」
いきなり声をかけられて、
以前会った時よりも少し表情が引き締まっただろうか? だがその雰囲気は以前とは別物のように見える……そのまとっている雰囲気がすでに
人間では違和感のようなものでしか感じないかもしれないが、竜に連なる一族である
「……わかる……よね? 詳しい話は後だけど、頼みごとがあるんだ。
「……ん? もう一回言ってくれ」
「
「なぜだ? お前に利益があるのか? お前の
クリフは黙って首を横に振る……
彼には恩義がある……竜の末裔としての矜持が、恩人の願いを断ることに躊躇いを生じさせている……
「……お前の願いは聞きたい、だが
「……人は、変われると信じている。俺自身がそうだったように、環境で存在意義が変わることだってあり得る……俺はそれを信じたい」
クリフの顔はまるで自分がそうであったかのように、何かを思い出すかのような、とてもそれまでの彼からは見れないような、とても後悔を感じさせるような不思議な表情が浮かんでいる。
それがなんなのかは
懐かしい存在のことを思い出し、
「お前は
「会ったことあるのかい?」
クリフの問いかけに黙って頷くと、
今はすでに姿が変わっているのだろう、
人の理から逸脱した者、この世界の異物であり超越者、そんな異物に近い雰囲気を目の前の魔法使いから感じ、本能的に危険と恐怖を感じて軽く身を震わせる。
「かの国に伝わらん、大きな火種。火種に見えるのは、仮面の王、剣持つ男、竜の末裔、道征く者、赤き衣の賢人そして、さ迷える魂。行く末は見えぬ。ただ破壊と混沌の中にこそ再生の道が示される……」
突然朗々とした詩を歌い出した
そうか、彼はこの詩を知らないということか……
「お前の願いを聞き入れよう友よ、だが
「それでいいよ、俺も慈悲を無制限に与えられるわけじゃない……きっかけは作った、それを生かすのは人の選択だからね」
クリフは少しだけ寂しそうな顔で笑うと、
人としての何かを捨て去り始めている恩人の行く末を案じて
不安そうな顔を浮かべている助手の男性を見て、クスッと笑うような息を吐くと、顔の動きで作業を続けるように示唆する。
「あれは人間から逸脱しつつあるが信頼できる、大丈夫だ。それよりも集落を作るのであれば材料などが必要だろうな……
助手の男性は一度深く礼をすると扉を開けて外へと出ていく……
これから忙しくなるな……
「……全く……逸脱者と言うのはまるでこちらの都合を考えないものだな……それ故に異物であるから仕方がないのかもしれんが」
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