218 水面に立つ漣
「なんて爆発だ……我が軍は問題ないのだろうか……?」
トゥールインの城から外の様子を見ていた少年、ヴィタリ・ラプラスは不安そうな顔でその爆発を見ている。眩い白光と振動がこの町まで伝わってきており、只事ではない何かが起きていると全ての人が確信している。
これまで補佐役として彼を支えてくれていたアルピナも戦場へ出てしまっており、彼と数人の供回りだけが城にいる状況だ。
「閣下……危のうございます、こちらへお戻りください」
「そうだね……
「アルピナは死んだ、クラウディオは逃げた……ネヴァンはレヴァリア戦士団と共に退却中だ」
いきなりそう声をかけられて、ヴィタリは声の下入り口付近を見るが……そこへまるで闇から染み出すかのように長身の黒いローブに身を包み、顔には鳥を模した仮面をつけた男が姿を現す。その雰囲気はあまりに不気味で、ヴィタリの供回りは恐怖のあまり身動きひとつ取れなくなっている。
「……あなたは?」
「名乗りもせずに失礼した……私は
その上で、彼は再び自らの座へと座り直し
「
「その通り……アルピナを倒したのは荒野の魔法使い、貴方も会ったことのあるクリフ・ネヴィル」
その彼の表情を見て、
「アルピナはクリフのことがお気に入りだったから……倒されたと言っても満足はしているんだよね?」
「……あの者の心境までは理解しかねる、だが……最後まで勇敢に戦ったことは事実」
思っているよりもはるかに落ち着いたヴィタリの様子を見て、
ああ、この子供は責任を負わされてもそれを自らで取るだけの気概があるのか……周りの大人にはそんなものは無いのが残念だが。
「閣下、カマラと脱出用の
「……そうか、僕らは負けたのですね。元々勝つ見込みはなかった戦いとは思ってましたが、想像よりもはるかに早いですね……」
ヴィタリが悲しそうな顔で何かを想ってなのか少し目を閉じて黙り込む……周りの配下たちは慌てふためき、急足でこの場所から逃げ出していく。
恥という言葉を理解しているのであれば、まだ幼い主君を守るために言葉を待つだろう、だがしかし今逃げ出した恥知らずは己が命が重要らしい。
「……言葉を隠さずに伝えればそうなる、それ故に捲土重来を信じて落ち延びるという選択肢を、あなたに与えたい。それと、少しお耳汚しを失礼する」
その様子を見て
「……私の求める調和とは、混沌。それは水面に立つ漣のように常に揺れ動くものだ。あなたには生きていただきたい。それが混沌を生み出す」
まるで
その笑顔を見て
「申し訳ない、私は死んでいった者達のために逃げるわけにはいかない。責任を取るものが一人は必要なのだとわかっている……これ以上の戦火、そして混乱は帝国を愛する者の一人として看過できない」
「帝国を愛する? 何を今更……既に水面に石は投げ込まれた、帝国は更なる混乱に巻き込まれる。その投げ込まれた石は閣下自身、貴方が元凶だぞ?」
「わかっています、だからこそ今ここで石を取り除く必要があるのです……トゥールインの民を僕の我儘に付き合わせた責任を僕自身が取らねばならない」
ヴィタリははっきりとした意思を持って、
この子供は……高潔なのだ、アルピナも随分と厄介な石を用意したものだ……と内心歯噛みをする。
既に覚悟の決まっているものを無理に逃したところで、物の役には立たないだろう……頭を振ると
「……承知した、私の記憶にも閣下の名は永遠に刻まれるだろう、再び会う事ができるのであれば、その時まで壮健なれ」
「気にしなくていい、次会うときは地獄ですよ。そのときはゆっくりと語らいましょう
ヴィタリはそのまま椅子に深く掛け直し、
まあいい、帝国の未来を一部脅かしただけでも十分なことかもしれないから……
そんな
「クリフ・ネヴィル……もう一度だけ話をしたい……きてくれ……」
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