216 これでもくらえ!(テイクザットユーフィーンド)

「……本気を、出してみるか」


「ディ……ヴァー! バルクエル! ディバージァ!」

 空中へと浮遊していく俺を見つけたのか、風に乗りて歩むものウェンディゴは怒り狂った表情でゆっくりと俺の方へと叫びながら歩いてくる。

 まるで雷鳴だな……あたり一体が響くような大音量の咆哮に体がビリビリと振動する、少し前ならこの咆哮だけでも動けなくなりそうなレベルだとは思うが、今の俺にはこれすらも心地よいものだと感じる。


「さて……こうかな?」

 ずるりと俺の背から魔力の腕……黒の拳ブラックフィストによく似た二本の腕が作り出される。前世、日本でゲームプランナーを目指すきっかけになった企画書……四本腕フォーアームというキャラクターとは似ても似つかないような、少しおどろおどろしい印象の二本の腕だが、それが形成される。

 うーん、この辺りイメージは変えられるものだろうか? 転生して思ってるけど、ちょっと親切じゃないよね!


 ま、そんなこと思っても仕方がないので俺は軽く準備運動がてら、顕現させた黒の腕ブラックアームを使ってポーズを決めてみる……うん、思ったように動くな。

 右の黒の腕ブラックアームでチョキ出して、左でパー出して……どうやら自分の腕と同じような感じで動かせるようだ。それならば……!

黒い槍ブラックジャベリン……」


 頭の中で思い描いたイメージ……左右の黒の腕ブラックアームに別々の黒い槍ブラックジャベリンを出現させる……とそれまで必死に魔力とその実現にイメージを裂いていたはずの魔法がまるで息をするかのように複数再現されていく。

 それどころか、さらに俺の周りへと黒い槍ブラックジャベリンが複数出現していく……これは、アルピナが戦闘時に使っていたような黒色槍撃ブラックランスのようにも見える、だが……これならば……!

「……穿て」


 その言葉と同時に、風に乗りて歩むものウェンディゴへと黒い槍ブラックジャベリンがミサイルのように超高速で射出されていく。

 まるで前世で見たアニメの光景のようだな……黒い槍ブラックジャベリンは巨人の肉体へと衝突すると、爆発四散しその肉体を傷つけていく。

 大きな悲鳴のような、悲しげな咆哮をあげて腕を使って防御をする風に乗りて歩むものウェンディゴだが、その皮膚を食い破るように爆発のたびに大量の血液が地面へと落ちていく。


「ん? あの血……まずいな」

 地面に落ちた風に乗りて歩むものウェンディゴの血液は真っ黒な煙をあげて、その周囲にある木々や土を溶解していく……凄まじく嫌な匂いがあたりに立ち込め、俺は黒い槍ブラックジャベリンを撃つのを止めて口を抑えて咳き込む。俺ですらこうなんだから、他の生き物はもっとまずいかもしれない……。一撃でどうにかしろって話なのか、これは。


 そうね、だけど俺にはそれを成し遂げる力があるでしょ? 俺の頭の中で考えている語尾がやはり変化する……なんか複雑怪奇な思考になってきている気がするけど、俺のいう通り……俺は黒の腕ブラックアームを大きく広げると、魔力を集中していく。

 イメージはできてるんだ、でも人間であった時は全然コントロールができなくて実現どころかとっかかりすらなかった感じだけど。


「やってみるもんだなあ……んじゃま、さよならだ」

 左右の黒の腕ブラックアームに魔力が一気に収縮していく……それはゲルト村の防衛で使用した……九頭大蛇ヒュドラのごと周囲を吹き飛ばした核撃エクスプロージョン

 それを同時に四発作り出して、その魔力をさらに純化させていく……俺の目の前で核撃エクスプロージョンを凝縮した魔力が黒の腕ブラックアームによって一気に同化し、凄まじい魔力の本流を生み出していく。その魔力の圧縮が限界点に近づくと眩い閃光を放っていく。俺は即興で始めたこの試みが成功したことに強い高揚感を覚えながら、その魔法を撃ち出す。


Take Thatこれでも You Fiendくらえ!!」


 ふわり、と黒の腕ブラックアームをから放たれた眩い閃光は真っ直ぐに風に乗りて歩むものウェンディゴへと向かっていく。

 その閃光を見て、驚いたように口を開けて固まっている風に乗りて歩むものウェンディゴだが、まずいと感じたのか防御体勢を取る。でも、残念……そんなのじゃこれは避けられないよ。

 閃光が風に乗りて歩むものウェンディゴへと衝突した瞬間、巨大な魔神の体を包み込むように光が爆発的に広がっていく。あたり一帯を光が包み込み、一瞬の静寂の後、辺りを揺るがすような大音響と爆炎、そして衝撃波が当たりの木々を薙ぎ倒していく。


 爆発は前に俺が放った核撃エクスプロージョンの数倍の規模で、天空高く爆炎と粉塵を吹き上げていく……まるでこの世の終わりかのような光景だけど、爆発の中心で崩壊していく風に乗りて歩むものウェンディゴの肉体を見ながら、心なしか強い高揚感を覚えている。

 それは魔王ハイロードとしての本能なのか、それともカルマなのか強い満足感、征服欲のような心を揺さぶる感情を掻き立てられている。

 自分でも気がつかないうちに、俺はまるで混沌の戦士ケイオスウォリアーが浮かべたような少し歪んだ笑みを浮かべて笑い出す。


「くふふふっ……あはは……なんだよ、ゴミじゃねえか……あはは……っ!」

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