214 力を得ている
「な、なんだ急に動きがおかしくなってないか? あの巨人」
コントロール下から外れた? むしろ誰がコントロールしていたのかを想像して、二人はある一つの答えに辿り着く。
「「クリフが
そうとしか考えられない……あんな化け物を使役できるような存在は、この戦場には
だとすると……召喚した巨人はどこへいくのか、そして何を狙うのか。巨人の無機質な黄金の目が先ほどから小賢しい攻撃を繰り返している二人を捉える。
大きく口を開けて、地面が振動するレベルの咆哮を上げると、巨人はそれまでよりもはるかに素早く、拳を振り上げて二人の方向へと突進する。
「ま、まずい……いきなり俊敏な動きになったぞ」
「ジャジャースルンド殿! この方向はまずい、味方がいます」
全力で走って逃げる二人の行先には、アドリアたちと
このまま巨人を引き連れてそこへと到達してしまったら……一挙に殲滅されることは目に見えている。アドリアたちもジャジャースルンドとロスティラフが巨人に追いかけられているのに気がつき、慌てて治療の手を止めて武器を構えている。
「な、なんですかあれ?!」
アドリアが驚いたような声を響かせる……一〇メートル近い巨体が迫ってくるのを見て、恐怖を感じないものはいないだろう。さらに
二人はセプティムたちと合流すると、武器を構えて巨人へと向き直る……複数の人間がいることに気がついた
「……ヴァ……ドーア……ガブリア……ヘネル」
何語かすらわからない不気味な言語を語った後、
だが、その場にいた冒険者たちは普通の人物たちではない、歴戦の勇士であり何度も死線をくぐり抜けてきた猛者ばかりだ。それでも身が震える……絶望というなの恐怖、心から感じる生命の危機、そして死にたくないと思う心からの願いが彼らの体を硬直させる。
生き延びるためには動かなければいけない……でも動けない、生命という根幹を脅かすレベルの強い恐怖がその場にいる全員の体を硬直させている。
恐怖で身を硬直させている冒険者たちを見て、ニヤリと笑うと
「クリフ……助け……て……死にたくない……」
「ふざっけんなぁ! このクソ巨人があああっ!」
いきなり
まるで呪縛が解かれたかのように、アドリアたちの体が動くようになる……空を見上げると、そこにはアドリアが愛した男性の姿が……クリフ・ネヴィルの姿が、空中に浮かんでいるのが見えた。
「あ、あぶねえ……もう少しでアドリアやセプティムさんが死ぬところだった……」
俺は
はっきりいえば、この魔法は魔力の消費量が半端ではない、当たり前の話だがコスパの悪さでいえば段違いであるといえる。
だが……いま俺自身の体が作り替えられたかのように、呼吸をするたびに膨大な魔力を体内に入れることができている……そしてこのクソみたいにコスパの悪い魔法でも初級魔術かのような簡単さで扱うことができている。
「……
自分が広義的な意味で人間じゃなくなった、という実感があまり湧いていない。五感を研ぎ澄ましても自分の体はそれほど変わったように感じないからだ。軽くズボンの中を覗いてみるが、うん……ついてるよね俺の息子も。
馬鹿なことをやってないで、まずは皆を助けないとな……ふわりとアドリアの前へと降り立つ。
ロランも、ヒルダも、セプティムさんもジャジャースルンドも、ロスティラフも傷ついたベッテガに肩を貸すカレンも空中から降り立った俺に驚いたような表情で見ている。アドリアが俺を見てボロボロと涙を流したのを見て、俺はそっと彼女を抱き寄せる。
「クリフゥッ! ……私、怖かった……怖かったよ……」
「アドリア、お待たせ……ごめんな怖い思いをさせて……」
「く、クリフ……アルピナはどうしたんだ? それに普通に空中を舞えるのか?」
セプティムさんが驚いたような顔で俺に話しかけるが、俺は黙って頷くと、先ほどの浮遊は魔法で行なっていること、アルピナは復活できないように魂ごと破壊した……流石に吸収したと話すと色々語弊が出そうなため、そこだけはぼかしているが、一応倒したことは伝えた。
そしてあの巨人はアルピナが召喚した
「あいつを倒して……一気にこの無駄な戦争を終わらせよう、それだけの力は……得ている」
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