205 最強対最強

「クリフとアイヴィーは今頃アルピナと戦ってますね、急いでセプティムさんの援護に行かねば」


 アドリアとロラン、ヒルダは森の中を走っている……今回の作戦は以下の通りだ。

 クリフ、アイヴィーはアルピナを直接攻撃する、これはアルピナ自身との戦闘経験を持つクリフがそれを望んでいたから。最初は一人で行くと話していたが、アイヴィーがそれを拒否した。

 当初はクリフも渋っていたが、アイヴィーが絶対に折れなかったため最終的には二人で行くことになったのだ。


 アドリア、ロラン、ヒルダはセプティムの援護を担当する……この人選になったのは治癒役であるアドリアがセプティムに必要な可能性があることと、ロランは盾役、ヒルダは遠距離で支援とバランスが良いと判断されたためだ。


 最後にジャジャースルンドとロスティラフは巨人の動きを少しでも遅らせるためにそちらへと向かっている。

 同時にいろいろなことが発生し過ぎており、分散して対応が必要になってしまった……本来であれば全員でアルピナを倒して、その後セプティムの援護が望ましいとは思うが、その余裕はないと判断した。

「私の作戦を信用してくれるけど……でも、それが絶対に正しいとは限らないから……」


『大丈夫、君が考えた作戦で失敗したことはないだろ? 俺はアドリアを信じるよ』

 アドリアは少しだけ不安を感じるものの、クリフが別れ際にそっと耳打ちした言葉を思い返して、改めて前を向いて走り続ける。

 そう思ってるなら別れ際に少しだけ甘えさせてくれたっていいのにとは思ったものの、現状の状況ではこれが最善策に近いだろう。

「アドリア、大丈夫か?」


 重装備のロランが息も切らせずに、軽装の女性二人について走りつつアドリアに声を掛ける。顔を見て、微笑むとアドリアは頷いて再び前を見て走っていく。

 大丈夫、まずは剣聖ソードマスターを援護して混沌の戦士ケイオスウォリアーとの戦闘をできるだけ引き伸ばす……アルピナとクリフの力は拮抗しているだろうが、私の愛した彼が絶対に負けるはずがない。

 アイヴィーもついている……彼女も昔と全然違う、戦士としての才能を開花させており、その実力は冒険者仲間の中でも有名だからだ。

「クリフとアイヴィー……大丈夫かな?」


「大丈夫、私の大好きな人だもの……彼が負けるわけないわ」

 ヒルダが不安そうな顔でアドリアに話しかけるが……アドリアは走りながらヒルダの頭を撫でて、微笑む。そうだ、それよりも今は早くセプティムさんの援護を。

 ジャジャースルンドが最後にセプティムを目撃した場所は近い……彼らは森を抜けて、そこで起きている光景を目の当たりにして驚く。


 戦士同士の一騎打ち……帝国が誇る最強の戦士である剣聖ソードマスターセプティム・フィネルと、トゥールインに属する混沌の戦士ケイオスウォリアーとの戦闘。

 既にお互いが満身創痍の状態で、セプティムは盾を失い身体中から血を流しながら剣を振るっている……、しかし対するクラウディオも無傷ではなく、急場凌ぎの継ぎ合わされた鎧は切り裂かれ、やはり身体中から血を流しながら槌矛メイスを振るっている。

「そろそろ諦めたらどうだ? もう結構いいの入ってるぞ」


「クハハッ……それは我の台詞よ……お前も先ほど一撃を喰らっているであろ?」

 その戦いは殺し合いというよりも、お互いが技量を確認し合うようなそんな光景にすら見える。二人は笑っている……獰猛だが、不思議と嫌悪感を感じさせない。

 アドリアたちが到着したのを見て、クラウディオが大きく後方へと跳躍し、セプティムとの間合いを離す。

「君たちか……クリフはどうした?」


「貴様らは……使徒の仲間か」

 セプティムはこめかみを流れる血を拭いながら、アドリアたちを見て問いかける。その言葉にクラウディオも一息ついたのか、少しだけ大きく息を吐いている。

「クリフはアルピナを倒しに……それよりも怪我を」


「大丈夫だ、この程度なら致命傷にはなり得ない、それはあいつも同じだ」

 セプティムは援護は必要ないと言わんばかりに手を振っって拒絶する……実際には身体中に走る痛みはかなり強く、セプティムがここまで手傷を負っているのは久しぶりの経験だ。

 それくらいクラウディオが強い……それも以前倒した時とは桁違いの強さになっている。

「クハハ……我はそこの連中まとめででも問題ないぞ……」


 クラウディオは歪んだ笑みを浮かべて、体の傷を自らの自己治癒力で癒していく……まあ、この能力は混沌の戦士ケイオスウォリアーとなった時から持っていたが、当時はうまくこの能力を生かすことができていなかった。

 だからこそ、まだ駆け出しの戦士だったセプティムにすら倒される結果となった。


『今なら既にセプティムには負けることはない……』


 クラウディオはほくそ笑みつつ、援護としてきている使徒の仲間を確認する……注意するべきはあの大盾タワーシールドを持った戦士……先日自分に盾攻撃シールドバッシュしてきた者だ。

 さらには弓を持った少女と……半森人族ハーフエルフは魔法使いだな……あの金髪の剣姫と呼ばれている女剣士はきていない……一番厄介な敵がいないことでクラウディオは十分このメンバーを蹂躙できると判断している。


「盾を破壊されたのは失策だが……我の能力を解放すれば、十分だな」

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