204 第二ラウンドの開始

「クリフゥ! 私と一緒になりましょぉうよ! 私はあなたの愛人でいいのよ?!」


 歪んだ笑みを浮かべたアルピナが大鎌サイズを振り回しながら突進してくる、しかもこの台詞だ……実に不愉快。俺は高速で接近してくる彼女を見て、咄嗟に黒の拳ブラックフィストをイメージすると俺の背中から黒い霧が噴き出すと、一気に拳の形へと変化していく。

 これまでは詠唱が必要だったこの魔法も、今の俺ならイメージをするだけで顕現できるということか。

「断るね……俺にはもう大事な女性ひとが二人もいる……お前の入る余地はないよ」


「クハハハッ! 無詠唱で魔法を! なんて素晴らしい……」

 黒の拳ブラックフィストでアルピナの大鎌サイズによる攻撃を殴りつけて止めると、俺は同時に手の中で火球ファイアーボールを作り出すと一気に叩き込む。

 連鎖する爆発と共に黒の拳ブラックフィストを使って地面を殴り飛ばして一気に距離をとる……。

「クリフ……! 大丈夫?」


「ああ、大丈夫……効いてねえなこれは……」

 爆炎の中から歪んだ笑みを浮かべているアルピナがほぼ無傷で現れる。あの鎧だろうか? 俺の火球ファイアーボールはそれなりに威力もあるし、普通の人間ならあの一撃でほぼ即死する。それくらいの威力があるにもかかわらず、アルピナはダメージを受けているようには見えないのだ。

「いいわぁ……子供の頃の貴方は驚きに満ちていた……今は大人になって知識も、経験も……女の体も知って男としてとても魅力的になったわ……だから私と溶け合う資格がある」


「何を馬鹿な! 溶け合うとか下らないこと言っているんじゃないわよ!」

 アイヴィーが俺を庇うように一歩前に出て、混沌の戦士ケイオスウォリアーに向かって刺突剣レイピアを構える。

 そんな彼女を見てアルピナは武器を持っていない手で、馬鹿にしたかのように口を押さえてくすくす笑って……再び俺を指差して歪み切った笑みで口を開く。

「貴方は信じないかもだけど、クリフはね……もう半分人間じゃないのよ? 貴方を愛するその手も愛を囁く口も……本当かどうかすら解らないのよ? それでも貴方は愛していると言えるのかしら?」


「……信じてる。私を愛してくれていると言ってくれる彼を、私の全てを愛してくれる彼を、私は信じている!」

 アイヴィーは全く動じずに、一気にアルピナとの距離を詰めると刺突剣レイピアで凄まじい速度の月を連続で繰り出す……チッ! と舌打ちをしながらその突きを交わして、後方へと大きく飛びすさり距離をとるアルピナ。

 うう、アイヴィーさん僕も愛してますよぉ……俺は少しだけ涙目になりそうな気分で彼女を見ている……しかし、ってのは俺の希少性レアリティのことを言っているのだろうな。


「なんて……なんて小賢しい小娘……私はお前より前にクリフを見染めていたというのに」

 アルピナは距離をとったことで少し余裕を感じているのか、再び笑みを浮かべて黒色槍撃ブラックランスを再び召喚していく。

 やらせない! 俺は一気に距離を詰めるために全力で前に走る……黒の拳ブラックフィストを振りかぶりつつ、歪みの亀裂ディストーションを両手で構成していく。

「魔力の収縮……これは……古代魔法か!」


 アルピナが召喚した黒色槍撃ブラックランスを一気に射出していく。その全てが凄まじい速度で飛翔し、爆発していくが俺はなんとかその攻撃を避け、黒の拳ブラックフィストで弾きながら接近していく。

 混沌の戦士ケイオスウォリアーに十分接近した、と判断して一気に準備していた魔法を解放し叩き込む。

歪みの亀裂ディストーション!」


 反応が遅れたアルピナの左腕付近が、メリメリと音を立てて歪んでいく。歪みは再び正常へと戻っていくが、その反動で一気にアルピナの左腕を空間ごと引きちぎっていく。

 もがれた左腕の付け根から血を吹き出しながらも、アルピナはもう一度距離をとってなんとか俺との距離をとる。

 しかし、その背後にいつの間にか接近していたアイヴィーが刺突剣レイピアの突きを背中から胸にかけて一気に貫き通すことに成功した。

「グギャアアッ!」


 だがしかし、アルピナはそれでも倒れずに右手一本で大鎌サイズを体の回転で振り回して、アイヴィーを後退させる……これでも死なないのか?! 

 流石に驚きを隠せなくなるアイヴィーと俺……血をぼたぼたと流しながらもアルピナは笑顔を浮かべている。その笑顔に狂気を感じて俺は背筋が寒くなる。

「素晴らしい……素晴らしい……やはり私は貴方の子供を孕みたぁぁぁい! 愛の結晶を孕むまで私は貴方の精を毎日受け止めるわぁ……だから毎日クリフが血を出すまで頂戴ィィィィ!」


「ゲスが……」

 アイヴィーが刺突剣レイピアを構え直すが、流石にあの攻撃でも死なないアルピナを見てこめかみに汗が流れている……少しだけても震えているように見える。

 俺も変わらない……そして俺はあることを思い出した。そうだ、アルピナはこの姿以外にもうひとつ、別の姿を持っているのだ。

 その答えに辿り着いたのを悟ったのか、アルピナは大きく表情を崩す……それと同時に彼女の足元に汚泥のような黒い液体が一気に湧き上がるとアルピナを包み込む。

「し、しまった……」


 汚泥はアルピナを包み込み、全身を覆い尽くすように隠していく……その直後、汚泥はまるで力を失ったかのように動きを止め、地面へとこぼれ落ちていくが……その中から子供の時にも見たアルピナの真の姿が現れる。

 その姿はまさに冒涜的な姿だった……下半身が巨大な黒い蜘蛛の姿をしており、上半身はアルピナそのままだが、四本の腕を生やし、全身を隈なく黒い紋様が蠢いている。

 大鎌サイズはそのままだが、四本の腕のうち一本だけで持っており全身の筋肉もそれまで以上に盛り上がり、まさにパワーアップした、というのが正しい姿になっている。

 アルピナは再び歪んだ笑顔を浮かべ、俺たちを見て口を開いた。


「一〇年前と同じく私は宣言するわ……ここからは第二ラウンドの開始よ」

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