196 四本腕(フォーアーム)

「※※! 何書いてるんだ?」


 黒髪の……学ランを着た男性が学校の椅子に座っている俺に笑顔を向けている。ああ、そうか、彼は※※※って言って俺の幼馴染だったな。俺は笑顔を浮かべて※※※に手に持っていたタブレット端末を見せる。

「今度インディーズコンテストに応募するためのゲームの企画書だよ、見る?」


 ※※※はタブレットを俺の手から受け取ると、クラウド上に保管してあるドキュメントファイルをざっと眺めていく……俺と※※※は幼い頃からの友人同士で、一緒にアマチュアながらゲームを作る仲間同士でもあった。

「お、いいね。アクションゲームを作ろうってんだな、腕がなるぜ」

 ※※※は屈託のない笑顔で、タブレット端末を指で操作して……主人公となるキャラクターの設定を見て、ほう、とため息を漏らす。


「※※、これ主人公? なんだ……腕が四本あるのか?」

 彼が俺にタブレットの画面を見せて、その主人公キャラクターを指差す。そこには仮想の人類である、このアクションゲームの主人公キャラクターとして考えていた、『四本腕フォーアーム』の簡単な概要と、下手くそだけど俺が書いたイラストが載っている。


<<企画プランニング……個体名クリフ・ネヴィルの深層意識にあるイメージを抽出>>


「うん、アクションゲームなんだけどさ腕が四本あったら少し違ったアクションができると思うんだよね。例えば腕を伸ばして物を掴んだりさ、二本しかないと武器や道具を使わないといけないんだけど、あくまで身体能力とかで同じアクションができないかな? って」

 俺は※※※に笑いかけると、ふーん……と少し考えるような仕草で、自然に頭をガリガリと掻く。

「昔のゲームで二本腕だけどちゃんとアクションしてたゲームタイトルもあったと思うけどなあ、でもちょっと面白そうだよね」

 俺はイメージしている四本腕フォーアームの能力や行動などを軽く説明していく……このキャラクターは何年も暖めたアイデアだから、結構自信あるんだよね。


<<抽出したイメージから、再構成を行います……、四本腕フォーアーム>>


 ※※※は俺にタブレットを再び渡すと、どーやってアクション部分を作ろうかな、と独り言を呟いて考え出す。

「あ、そうそうイラストはいつものあいつに任せようと思ってるよ……この『四本腕フォーアーム』のイラスト清書してもらおう……もっと腕とかはカッコよくだな……」

 俺と※※※は主人公をどうやってカッコよく作り上げるのか? アクションはどんなものがいいのか、を議論し始める。


<<四本腕フォーアームの予想スペックを深層心理より検討、構築、仕様確認……処理開始……>>





 急速に意識が覚醒していく……この後どうなったんだっけ? 俺はふと懐かしい記憶の奔流に飲まれそうになるも、眠気が完全に吹き飛んでしまったために目を開ける。

 天井が見える……トゥールインで見ていた石造りの天井ではなく、粗末な木材を組み合わせた廃屋の天井だ。

 身じろぎをして起きようとした時に、俺の腕をしっかりと押さえる柔らかい感触に気がついて、顔だけを動かして俺は左右を見る。

 左腕にはしっかりとアドリアが、右腕にはアイヴィーが……もうあのド派手な仮面はつけていないが、幸せそうな顔で寝息を立てているのが見えた。俺は彼女たちを起こさないようにゆっくりと腕を抜いて、寝台の上で身を起こす。

「そっか……助かったんだっけ……」


 俺が起きて身を起こしたのに気がついたのか、アドリアが目を覚ます……そして少しぼうっとした感じの表情を浮かべていたが、何度か瞬きをしてから俺の顔をじっと見つめると、何も言わずに俺の胸にそっと頭を載せる。

「よかった、ちゃんといてくれた……」

 俺は急にこの半森人族ハーフエルフの少女のことが愛おしくなり、そっと彼女を抱き寄せる。身を任せて俺にしな誰かかるアドリアは、何度か身を震わせて俺の背中に手を回す。

「ありがとう、本当に君がいなかったら再びトゥールインに連れ戻されていたかもしれない……」


「感謝は行動で示してくださいね……」

 アドリアは少しだけ身を離して、俺を見上げて微笑とそっと目を閉じる。こ、これはもう口づけだけはしてほしいという彼女なりの要求なのだろう。俺はその桜色の唇を見つめつつ、そっと彼女の顔へ向けて、顔を落としていく。お互いの唇に触れ、何度か啄むように何度も軽い口づけを交わす。少しだけなら……と俺が彼女の唇を割って、舌を絡ませようとした瞬間。


「……私もして欲しいんだけど?」

 急に隣で声がして……声の方向を見るとふくれっ面のアイヴィーは俺とアドリアを見ている……、あ! という顔で固まる俺たち。

「お、おはよう……」

 アドリアが苦笑いを浮かべて、俺に絡ませていた腕を解いて寝台から降りる……。アイヴィーの肩をそっと叩くと、扉を開けて部屋から出ていく……扉を開けると既に日はのぼっていたようで、外は明るい。


「全く……気が削がれちゃったわ……」

 アイヴィーは寝台から降りると、俺の頬にそっと口づけ……にっこりと笑う。

「もう離れないわ……だから安心して甘えてちょうだい」

 彼女は俺の手をそっと握ると、俺を引っ張って立ち上がらせる。そしてそのまま俺をそっと抱きしめる。俺は彼女を片手で抱きしめて、軽く頭を撫でる。


「腹減ったな……朝を食べないとね……」

 そんな俺の緊張感のない言葉に、ふふ、と笑うとアイヴィーが俺を抱きしめていた腕を解き、俺の手を握って引っ張っていく。彼女の顔は本当に美しく……そして幸せそうな笑顔を浮かべている。


「じゃあ朝ごはん食べましょう。携帯食だけじゃないの、ロスティラフとヒルダが近くの小川で魚を釣っていたのよ」

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