193 共に来るべき

「フハハ! さあ使徒よ、殺し合おうでは無いかぁッ!」


 クラウディオは笑いながら、槌矛メイスを振りかざして突進してくる……とても板金鎧プレートメイルを着ているとは思えないくらいの俊敏な動きだ。

「くっ……炎の壁ファイアーピラー!」


 俺はクラウディオの突進に合わせて炎の壁ファイアーピラーを出現させる、それと同時にベッテガとカレンが左右に分かれて迎撃体制をとる。

「無駄だあぁっ!」

 叫ぶや否や、クラウディオは手に持った凧盾カイトシールドを前に掲げるように突進し、炎の壁ファイアーピラーへと突っ込む……普通の生物であれば、魔法の炎による高熱で意識を飛ばされるか、全身を包む痛みに耐えられずにいるのだが……クラウディオは意に介せずそのまま炎の壁ファイアーピラーを突破して槌矛メイスを俺に向かって振るう。


 流石に業火の中を突っ切ってきたクラウディオの振るう槌矛メイスの速度は遅く、俺は余裕を持って後退してその攻撃を避ける。

「くっ……思ったよりも魔力が強いな!?」

 クラウディオがそのまま突進し、凧盾カイトシールドを叩きつけるように俺に突き出してくる。まさかそんな強引な攻撃が来ると思っていなかった俺は、無様にもその盾攻撃シールドバッシュをモロに喰らって、衝撃と共に蹈鞴を踏んで後退する。

「ぐぁっ……騎士らしくねえぞ!」

 俺の悪態にクラウディオは笑顔を浮かべて笑いながら再び槌矛メイスを振り上げる。

「盾も武器として使う……それが我が戦闘方法だ!」


「やらせねえよ! ……ってうわぁっ!」

 ベッテガがクラウディオの死角から一気に小剣ショートソードを構えて突進する……その攻撃を身を翻して避けると、体当たりのような体術を使ってベッテガを弾き飛ばすクラウディオ。

「良い攻撃だが……私の予想の範囲内である」


 体勢を崩したベッテガに向かって、槌矛メイスを変則的な軌道で、対象を変えて振るおうとするが、それを妨害するかのように、カレンが体ごと鎧通しエストックを構えて突進する。

「ベッテガをやらせないっ!」

 カレンの渾身の一撃をギリギリで避けて……クラウディオは崩れた体勢を整えるために大きく後方へと跳躍する。重量があるはずの板金鎧プレートメイルを着ながら恐ろしく身が軽い。


「逃すかぁっ! 火球ファイアーボール!」

 俺はその着地の瞬間を狙って、複数の火球ファイアーボールを無詠唱で連続詠唱して叩き込む……火球ファイアーボールはクラウディオの体を巻き込んで連鎖しながら爆発を起こして炎上していく。

「やった……のか? いや……」


 爆炎の向こうより人影が……クラウディオの姿が現れたのを見て、俺たちは再び武器を構え直す。

 ズシリ、と音を立てて前に進むクラウディオは不敵な笑みを浮かべるが、鎧のあちこちに焼けた後などがあり俺の魔法がノーダメージではなかったことがわかる。

「思っていたよりも……お前は素晴らしい……アルピナが執心するのもわかる」


 クラウディオはぐにゃり、と不気味な笑顔を浮かべて……顔の刺青のせいで余計に恐怖心を煽る笑顔に見えるが……俺に語りかける。

「やはりお前は私たちと共に来るべきだ……ネヴァンも、アルピナも勿体ぶってなかなか言わなかったようだが……俺は違う。お前は俺たちにより近い……混沌ケイオスの力を受け入れよ、使徒よ」

 俺たちより近い……つまりは神性への道クエストを歩んでいることと、混沌ケイオスへと堕ちていることにあまり差異は無いと言うことなのだろうか?


「クリフ……こいつは何を言っているんだ?」

「なんなんだよ、あんたは!」

 ベッテガとカレンが訳がわからないという顔でクラウディオに食ってかかるものの……当のクラウディオはそんな二人はハナから視界にも入っていないかのように、俺を見つめ続けている。

「……何も……」


「なんだ?」

 クラウディオが俺の呟きに気がつき、聞き返そうとする。俺が何かを喋ろうとしているのを見て、ベッテガとカレンは訝しげるような視線で俺を見ている。

「何も知らない……わからないままここにいたら、あんたの誘いに乗ったかもしれない……」

 その言葉にクラウディオが大きく歪んだ笑みを浮かべ……その様子を見ている二人は思わず息を呑む。混沌ケイオスの誘いを受ける……それは人としての理から外れ、化け物へと堕ちるということだからだ。この世界に生まれ落ちたものがその言葉を口に出すことは、禁忌に近い。


<<対象……混沌の戦士ケイオスウォリアー……危険……危険度『高』>>

<<企画プランニング、パッシブスキル『仕様高速展開』を発動します……>>

<<企画プランニング、魔力ブーストを発動します>>


「でも俺には愛する人たちがいて……俺を信じてくれる仲間がいる。だからどこまで行ってもお前ら混沌の戦士ケイオスウォリアーは俺の敵だ!」

 俺は魔力を集中して、黒い槍ブラックジャベリンを出現させる……俺のチート能力で無詠唱……仕様の高速展開が可能になっている? 突然出現したドス黒い色をした魔法の槍に驚いて、ベッテガとカレンは驚愕の表情を浮かべている。

 俺の前に出現した黒い槍ブラックジャベリンは以前のものよりも不気味なノイズを発生させている……その魔法を見て、クラウディオが凧盾カイトシールドを地面へと突き立て……暗褐色の結界を張り巡らせる。

「受けてやろう! 盾の壁シールドウォール!」


「敵を貫け! 黒い槍ブラックジャベリン!」

 俺の意思に従って、黒い槍ブラックジャベリンがクラウディオへ向かって轟音と共に突き進んでいく……あれ? この魔法ってこんなに派手な音立てたんだっけ? と、ふと疑問を感じるが、まあ今は目の前の敵を倒してから考えればいい。

 黒い槍ブラックジャベリンはクラウディオが展開している暗褐色の結界へと衝突するが、先ほどの戰乙女の槍ヴァルキリースピアのように結界に触れても消滅せず、突き立つとそのまま回転して結界をこじ開けていく。


「な、なんだと……?! 盾の壁シールドウォールに穴を開けるのか?」

 驚愕の表情を浮かべたクラウディオの結界が、威力に耐えきれなかったのかまるでガラスが砕けるかのような甲高い音を立てて、崩壊し突き抜けた黒い槍ブラックジャベリンがクラウディオが構える凧盾カイトシールドにぶち当たると漆黒の爆発が巻き起こり、もうもうと煙を巻き上げる。


「あ、あれ? こんな威力のある魔法だったっけ……?」

 俺はその様子を見ながら、呆然と黒い煙を見ている……ベッテガとカレンは驚いていたものの、目の前で煙に包まれている混沌の戦士ケイオスウォリアーが倒されたかもしれない、という期待感から笑顔を浮かべている。

 しかし……そんな喜びも一瞬だった。巻き起こる煙の向こうから、声が響く。


「クハハ……なんてことだ……これはもう導く者ドゥクス紅の大帝クリムゾンエンペラーと同じレベルではないか……」

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