165 竜人族(ドラゴニュート)
「ラヴィーナ……あの今はカマラと名乗る娘と出会ったのは、二〇〇年ほど前です」
俺たちは
すでに食事なども済んでいるし、俺たちは普段の格好も洗浄中だったため、伯爵家の使用人にお願いをして外出用の服を借りている。少し装飾なども凝ったものなので、
「私は
ロスティラフがどこから話したものか……という表情でまずは種族のことを話し始める。彼が自分のことを話すのは正直言えば初めてだ。俺も、仲間も誰も彼の過去を聞いたことがない。
「私は……その転生の前まで
その言葉に全員手に持っていた飲み物を手にしたまま言葉を失う。
ついでに言うと
「え? でもロスティラフさんは自分で
アドリアが手に持っていたエールのジョッキを手に……既に頬が赤いのは二杯目に突入しているからなのだが、質問を口にする。これは全員が思っていることだ。
「はい、私は二〇〇年以上前に
「
ロスティラフが言い淀んだ内容を、ロランが代わりに口に出す。その言葉に寂しそうにロスティラフは頷くと……話を続けていく。
「転生後に
彼は追放された、ということだろうか。俺が知っている
「私はそれまで呼ばれていた名前を捨てて……『外れ』となりました。大陸を彷徨い……次の道を探すことにしたのです。そんな中彼女に出会いました」
ロスティラフは本当に懐かしそうな顔で……ラヴィーナとの邂逅を思い出しているのだろう。優しい目で目の前のジョッキに残っていたエールを飲み干す。そのジョッキを受け取って、ヒルダがおかわりのジョッキを給仕から受け取り、ロスティラフや他のメンバーへと渡していく。
「ありがとうございます。ラヴィーナは西方諸国の小さな都市国家に済んでいる貴族の令嬢でした。あの時のまま……歳が変わっていないのは何らかの魔術か何かなのでしょう。飢えて死にかけていた私を助けて……色々あって彼女の護衛として雇われることになりました」
ロスティラフは記憶を思い出すように……ジョッキの中のエールを見つめて時折寂しそうに笑う。彼とラヴィーナにしかわからない思い出が多いのだろう。アイヴィーやアドリア、ヒルダは黙って目の前のジョッキからお酒を……いやヒルダは飲めなかったのでお茶が入っているのだが。ロランと俺はジョッキに残ったエールを飲み干して新しいジョッキを受け取る。
「護衛の仕事、とはいえ彼女は病弱でどちらかというと私は話し相手だったことが多いです。私のロスティラフという名前も彼女が付けてくれました」
そういえばカマラはラヴィーナが飼ってた犬の名前だ、と言ってたな。でも昔飼ってた犬の名前をあげたと考えれば、それは愛情や友情の裏返しなのではないか? とは思う。
「私は……見ず知らずにこんな外見の私を拾ってくれた彼女が貴族同士の抗争に巻き込まれた際に、私は彼女を暴漢の手から救い出したはずでした」
ロスティラフが語るには王家の血が入ったラヴィーナを巡ってその国の貴族同士で争いが起き、ラヴィーナを交渉の道具として暴漢に誘拐させた者がいた。ロスティラフはラヴィーナの父親から依頼され暴漢を殲滅した。そして彼女を父親の元に帰し……ロスティラフはそのまま当てのない旅に出ることになった、そうだ。
『この体の持ち主は……絶望の中にいたわ、もう消えてしまいたいというくらいね。だから私はこの子と契約したの……魂をもらう代わりにこの子を苦しめていた元凶を全て……殺した。それから私はこの体で生きている』
カマラの言葉から推測するに、ラヴィーナはロスティラフに救われてもなお、絶望の中にいた。そしてその絶望や願いをカマラが見つけて……堕としたということだろうか。ロスティラフは再びその目から大粒の涙をこぼして、そしてつぶやく。
「後生大事にもらった名前を名乗り続けて……私はラヴィーナをきちんと救えなかったのに……」
荒い息の黒い影が私を押さえつけるように覆いかぶさってくる。
本能的……生理的な嫌悪感を感じて私は影を突き飛ばして……必死に走り出す。窓を開けて、必死に飛び降りて雨でぬかるんだ地面に足を取られながら……私は走る。必死に絶望と恐怖を感じながら……私は少し前まで私の話し相手になっていたあの
「ロスティラフ! 助けて! ロスティラフ!」
私の声は夜の闇に、雨の音にかき消されていく。後ろから迫る犬の鳴き声……そして大人たちの声。捕まったら……私は何をされるかわからない。戦争は全てを変えてしまった……優しかったお父様はもういない。ロスティラフもこの国を去ってしまった。
「ぎゃあぁっ!」
風を切る音がして……私の肩に石がぶつかり、私は衝撃で前方に投げ出される。肩に感じる痛みと衝撃で気が遠くなりそうな中、必死に地面を這いずって逃げようとするが、いきなり髪を強い力で引っ張られ……痛みで悲鳴を上げた私を何度も殴りつけてくる男の顔が見える。私を殴りつけているのは……知らない男だ。
「逃げてんじゃねえぞ、この小娘が! お前は******様の持ち物になるんだよ!」
痛みと恐怖で気を失いそうになりながら、私は必死に助けを呼ぶ。乱暴に身体中に拳を蹴りを入れられて、私は暗闇の中に落ちていく。
「助けて……助けて誰でもいいから私を助けて……」
「ママ……だい……じょうぶ……?」
急速に意識が覚醒し、カマラは目を開ける。
目の前に広がっているのは空……頬に風とそして冷たい水の感触を感じて頬に手を当てる。なぜか手には目からこぼれ落ちた涙が流れていることに内心歯噛みをする。
「大丈夫よ、ウルリーカ。懐かしい顔を見て体が反応したのね。私は何ともないわ」
カマラは優しくウルリーカの首筋を撫でると、ウルリーカは満足そうに喉を鳴らすと再び前方へと顔を向ける。カマラはぎりりと歯軋りをすると、憎しみとも悲しさともつかない表情を浮かべて前方を見る。
「絶望と恐怖が私を産んだ……もうあの
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