161 人喰い花(マンイーター)

炎の壁ファイアピラーを左右に立ててください! それで少し時間が稼げるはずです」


 アドリアが俺に指示を飛ばす……その言葉通りに俺はパーティの左右に炎の壁ファイアピラーを立てて、左右方向からの触手攻撃を避ける。

 この辺りの防御系魔法の展開については、俺たちはお手の物だ。特に相手の攻撃方向を一歩に絞らせる、という魔法の使い方については大荒野の冒険者中、俺たちがもっとも効率的な行動が取れていた、と自負している。


 人喰い花マンイーターの触手が炎の壁ファイアピラーの前まで迫るが……燃え盛る魔法の炎に触れて、みるみる枯れ果てていく。そのことに気が付いたのか人喰い花マンイーターは触手を壁の手前まで下げて、俺たちに向かって再びやたらと甲高い鳴き声で吠える。

「なんだろうなあ……昔聞いたことのあるような怪獣の鳴き声だ」


「カイ……ジュウ? 何言ってるんです?」

 俺の独り言にアドリアが反応するが、まあこれは前世の記憶に関連する話なのだけど、怪獣映画に出ていた植物の怪獣の鳴き声に似てるな、と思っただけなんだけど説明したところで理解されないだろうから、適当に誤魔化しておこう。

「いや、俺の独り言だから気にしないでくれ。アドリア、支援と全体の把握、指揮を頼む」

 俺の言葉にアドリアが頷いて……アイヴィーとロランが迫り来る触手を防御しつつアドリアの指示を待つ。


「わかりました、ロランは防御に専念してアイヴィーは攻めましょう! ロスティラフとヒルダは弓で援護を。クリフは……魔法ぶっ放して良いですよ」

 指示を飛ばしながら、アドリアはアイヴィーの持つ刺突剣レイピア鋭刃ヴォーパルブレード……武器の切れ味を増す支援魔法をかけ……アイヴィーが鋭さを増した刺突剣レイピアを振るい身構える。

「魔法ぶっ放せって言われてもなあ……核撃エクスプロージョンとか行ってみる?」


「やめなさい、あとでひどい目に遭わせますよ? 第一軽い感じで撃つ魔法じゃないですよね?」

 アドリアが俺にお前は何考えてるんだ? と言わんばかりの目で俺をみる……冗談だったのに。さて、植物ベースの魔物っぽいので炎の魔法が効果的なんではないか? と思うわけで。


「炎の王……火炎魔人イフリートよ、異界よりその力を欲する我の前に、力を顕現せしめよ。<<火炎の嵐ファイアストーム>>!!」


 俺の詠唱に応じて人喰い花マンイーターを中心に、炎の嵐が巻き起こる。激しい熱が人喰い花マンイーターを焼き尽くす……はずが、魔物は一度身を震わせると身体中から黒い霧を噴き出して、魔法でできた炎をかき消していく。

「な、なんだ……と」


 魔法の炎は術者本人の意思か、魔法による対消滅アナイアレイションなどが起きない限り普通は消えない。つまりこの人喰い花マンイーターはあの霧を噴出することで強制的に対消滅アナイアレイションを起こせるということなのかもしれない。

「こんな能力を持っているのは……混沌ケイオスの眷属の可能性が高いですね」

 アドリアも黒い霧の刺激臭に軽く咳き込みながら、対消滅アナイアレイションが起こる様を見て、少し驚いたような顔をしている。


 ロランの大盾タワーシールドに触手が伸びるが、ロランはなんなくその触手を大盾タワーシールドで振り払うとその影からアイヴィーが飛び出し……触手を切り払いながらジリジリと進んでいく。切り裂かれた触手から黒い霧が噴き出し……やはり相当な刺激臭がするのだろう。アイヴィ0が顔を顰めて咳き込み、一時的に距離を取ろうと飛び退る。


「し、しまった……ぐうっ!」

 その隙を狙ったのか触手が着地して、体制の整っていないアイヴィーの腰へ、腕へ、足へと巻きつく。ギリギリと音を立てて触手が締め上げられ……アイヴィーは必死に触手を解こうとするが思っていたよりも触手の力が強いようでなかなか振り解けなくなり、肌が露出している部分が触手の表皮についている棘で傷つき……血が流れ出していく。

「アイヴィー!」


 俺が前に出るよりも早く、ヒルダが急いで飛び出し……逆手に持った小剣ショートソードを振るい触手を切り落とす。ロランがそれに合わせて大盾タワーシールドを構えて前進し、追撃を防ぎつつ二人が下がるのを掩護していく。

 さらにロスティラフが混合弓コンポジットボウに矢を連続で番えて一気に人喰い花マンイーターの頭に当たる花弁へと射撃し、体勢を整える時間を稼いでいく。アドリアがアイヴィーに駆け寄り、治癒魔法で彼女の傷を癒していく。


「影より生まれよかいな、漆黒のかいなよ、わが意思に従い敵を討ち滅ぼせ。黒の拳ブラックフィスト!」

 俺の体から黒いモヤのようなものが立ち上がり……巨大な拳の形を構成していく。俺の指示で黒い拳が人喰い花マンイーターの頭を曲線的な軌道で殴りつける……轟音と共に人喰い花マンイーターは大きく後退して……花の中心にある口から黒い液体を吐き出して苦しむ。

「効いてる!」


「お、お主その魔法をどこで知ったんじゃ……」

 オーぺが俺の顔を見つめて驚愕の……と言っても羊の顔なので、よくわからないのだがとにかく驚いたような顔をしている。あ、そうだった……いつもの反応をされてしまうかもしれないと気がつき、俺は慌てて言い訳を考える。

「え、えーと……色々古文書とか、蛇竜ワームの学者とかに教えてもらったんだけど……」

 オーぺの表情を見ていると、他の人と反応が少し違う気がする……なぜだろう。俺はオーぺの反応を待っているが……その間も仲間たちによる人喰い花マンイーターへの攻撃は続いている。

「そうか……古文書か……。確かにお主がさっき話していた核撃エクスプロージョンのように戦術魔法タクティカルの話もそうだが、神を知る者ラーナーの魔法が復活してもおかしくないか……」


 オーぺはぶつぶつ独り言を喋りながら、考えこみ始めた。こっちはまあ、大丈夫かもしれない……俺はそう判断して、再び黒の拳ブラックフィストを奮って再び人喰い花マンイーターの頭を殴りつけていく。何度も殴りつけていくうちに、怪物の花弁がボロボロになっていく。


 俺たちの猛攻により、人喰い花マンイーターは次第に弱っていき……短い悲鳴をあげると黒い血を噴き出しつつ、地面へと崩れ落ちていく。

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