154 アドリアさんと街を散策する
カスバートソン伯爵家に到着した翌日……俺たちは平和な時間を過ごしていた。
ロスティラフとヒルダは伯爵家の敷地にある訓練場で動きの確認や練習に励んでおり、ロランは個人で市街地見物に向かっている。アイヴィーは母親……伯爵夫人に
で、俺とアドリアはというと、街にある
アドリアは久々の二人きりということもあって俺の腕に自分の腕を絡ませて、嬉しそうな顔で歩いている。
「なんでもアイヴィーの話によると、
アドリアが先ほど挨拶に赴いた
それと……街全体の造り替えを進めているようで、工事されている建物などが非常に多いなとは思った。
「三代前の領主……アイヴィーのひいお爺さんの頃に無理な商売に手を出してしまって、一度大変な事態になったそうです、その時に多額の資金援助をしたのがカンピオーニ侯爵家なんだそうで」
先ほどの
アイヴィーは伯爵家三女で、上二人はすでに別の家へと嫁いでいてこの街にはいないこと。
男性は二人いて長男は帝国軍の士官として独立していること。
次男はこの街に残っているが商会の運営を行なっていて……この商会が進める事業がとても好調で、俺たちがアイヴィーと知り合った頃に伯爵家が抱えていた借金が解消したということ。
潤沢な資金をもとに街の改革にも着手しており、ここ数年で大きく街の状況が改善していること。
などなど。
つまり、遅かれ早かれカンピオーニ侯爵家からの借金はほぼ無くなり、伯爵家はかつての名家としての威厳を取り戻しつつあった、ということか。
ロレンツォはかなりアイヴィーを馬鹿にした様子だったが……まだ生きていればこの状況をどう思ったであろうか。
「逆にカンピオーニ侯爵家はかなり苦しい状況になってるようですね、クリフがあの受付嬢に鼻の下伸ばしていた時に別の職員さんに聞きましたが、ロレンツォの
俺はアドリアの言葉にはあえて反応せずに、真面目な顔で思考を回していく。
「エロ大王は私の話聞いてます? ……あ、聞いてるなこれは。で、二〇年くらい前に帝国貴族だったブラックモア伯爵家の長男が
セプティム・フィネル帝国子爵、そして剣聖であり俺の子供時代の恩人だ。そういえば友人が
「セプティムは友人だった帝国騎士が堕ちたって言ってたよ、
ふとアドリアを見ると歩き疲れた表情をしていたので、俺は近くにあったカフェを指さすと、彼女はとても嬉しそうな顔をして頷く。
「じゃあそのブラックモア伯爵家の長男がその人だったんですかねえ……しかし伯爵家長男なんか将来の生活含めて順風満帆だったでしょうに……」
俺とアドリアは帝国銘菓だというカフェのおすすめしてきたケーキ……これも前世のケーキのような煌びやかなものではなく、小さなホットケーキのような菓子をつまみながらお茶を飲んでいる。
「何が不満になるかわからないからなあ……俺からするとロレンツォの恨みの矛先がああなるなんて思わなかったし……」
「そうですね……私は人があのような形に変化する……というのが恐ろしいです。あの私を誘拐した男性も、会話はちゃんとできていたんですよ」
アドリアは大荒野で攫われて……拷問を受けた時のことを思い出したのか、少し恐怖を感じたかのような、とても悲しそうな顔をして呟く。
結局あの後、怪鳥の正体はわからないままだった。裏社会との接点は俺たちにはなく、それ以上は追うことができなかったからだ。流石にそのまま、というのは忍びなく村の許可を得て燃やして、骨は砕いて埋葬させてもらうことになった。ロレンツォも大学が死体を燃やして……骨だけをカンピオーニ侯爵家へと返却した、と聞いている。
「アドリア、大丈夫か?」
俺はアドリアが少し下を向いたままなので……気になって声を掛けると、彼女は少し辛そうな顔で笑顔を浮かべて頷く。あの後彼女と同衾した際に俺だけが教えてもらったが、傷口を
「大丈夫です、私も冒険者ですから……でも本当に辛い時はちゃんと一緒にいてくださいね」
俺はその言葉に頷く、嬉しそうな顔でケーキを頬張るアドリア。彼女はここ数年で本当に強くなったと思う。魔道士としての腕だけではなくて、心もとても強くなった。外見は年若い少女だが、目を見ればその印象が間違っていることが理解できるだろう。
「しかし……この後の行動はどうすればいいのだろうかねえ……」
伯爵家の屋敷へと戻った俺とアドリアに屋敷の使用人が慌てて走ってくるのが見えた。ええと、この人はなんて名前だったかな……。彼は息を切らせながら俺たちの前に到着すると、呼吸を落ち着ける間もなく口を開く。
「よかった……旦那様あてに来客が来ているのですが……
お、パーティあての来客か……
「わかりました、すぐに伯爵に同席させていただければと思います」
俺たちは使用人の男性に導かれて……屋敷の中へと案内されていった。
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