153 やはりそこの魔道士がよくないな死刑で
「よくぞ帰った……アイヴィー……なんであの後帰らなかったの?」
「ま、まあ……ちょっとした気まぐれと申しますか……」
カスバートソン伯爵がアイヴィーに語りかける。アイヴィーは父親とその家臣の前で苦笑いを浮かべて父親の問いに答える。俺たち
「気まぐれ……わしが聖王国まで出向いて、すぐ帰って欲しいと話したのに……やはりそこの魔道士がよくないな、死刑で」
「「「はっ!」」」
何故か俺が攻撃対象へ……伯爵家の衛兵が俺を拘束する。それを見てアイヴィーが何度目かになるセリフを口にする。
「お父様、クリフは
その言葉に伯爵は慌てて……衛兵に俺を離すように伝える。
「だめだ! 死刑は撤回!」
「「「はっ!」」」
衛兵は俺を解放して……再び所定の位置に戻る。ため息をついて、アイヴィーを心配そうに見つめる伯爵。俺も同じようにため息をついて……再び所定の位置へと戻る。
このセリフを違う名目で一二〜一三回は繰り返している。
俺はもうこのやりとりに飽きており……抵抗する気すらない。アドリアは聖王国で似たようなことを聞いていたので全く微動だにせず、ロラン、ロスティラフ、ヒルダは三回目までは真面目に反応していたものの、すでに二桁を超える回数を繰り返した今では何も反応せずに下を向いて、笑いを堪えているだけになっている。
「お父様……そろそろやめませんか? 皆長旅で疲れておりまして……私の仲間にも休息を与えたいと思うのですが」
アイヴィーが、無表情で……もう疲れてるのだろうけど父親にすら結構冷たい口調で宣言する。そんな娘の宣言に少し……寂しそうな顔をしつつ頷くと、俺たちへと漸く声を掛ける。
「客人、よくぞ娘を連れてきてくれた。夕食などをぜひ一緒にしたいが、まずは客人をお部屋に連れていく方が先だな……では使用人に案内させよう、準備ができるまで寛いでくれたまえ」
伯爵が手を叩くと、どこからともなく複数の使用人が現れ……男性陣と女性陣で別れて部屋へと案内される。アイヴィー……は親御さんと一緒だろうな、まずはゆっくりと休むとしよう。
「そうかそうか……大荒野でなあ……娘は活躍できているかね?」
アイヴィー実家はとても広く……客を迎えるための部屋も複数あり、俺たちは個別に個室をあてがわれた。さらに今まで着用したこともないような仕立てのよい上質な服を与えられ、パーティ会場にでも使うようなホールにテーブルを設置してもらって、伯爵と夫人と夕食を楽しんでいる。
「お嬢様は一流の剣士ですね、私は何度も命を救われましたし、友人として本当に信頼しております」
これまたとても仕立ての良いローブを支給されたアドリアが伯爵の問いに営業用スマイルで答える……貴族相手の交渉や会話は基本的にアドリアとアイヴィーが対応していた……ということで、質問に答えるのは大体アドリアで……伯爵や夫人から指名があるときにはきちんと答える、という実に役割分担のはっきりした会話がなされていた。
アイヴィーはおそらく本来の格好なのだろうが、金色の髪を結い上げてとても質の良さそうな生地で作られたドレスを着用している……普段では見ない彼女の格好に俺たちは少し驚いたが……アイヴィー本人が少し恥ずかしそうな顔だったので、このネタは後に取っておこうと思った次第だ。
「あのアイヴィーがねえ……あなた、フィネル子爵に師事してもらって本当に良かったわね」
夫人はとてもアイヴィーに似ていて……多分アイヴィーが歳をとるとこうなるんだろうな、という外見をしている。唯一違うのは、髪の毛が薄い青で眼は榛色ということだろうか。
「そうだなあ……フィネル子爵も来たがっていたが、残念ながら公務でね……まあ、帝国に逗留していればそのうち顔を合わせる機会もあるだろう」
その後、会話もはずみ……笑い声とともに閉会となったのだった。
部屋に戻って、少し酒が入ったこともあって酔いを感じ寝台に倒れ込んだ。ふかふかで……とてもではないけどこんなに豪華な寝台で寝たことがない……ゆっくり目を閉じて、俺は暗闇の中に落ちていく。
その後何時間くらい寝ていたのだろうか、突然窓を叩く音が聞こえ他ことで俺は目を開ける。
「!?」
俺は慌てて飛び起きて、窓へと近づく……油断してたか?
ゆっくりと窓を開けて、外をみる……するとそこへ影のようなものが入り込んできて、俺にしがみつく。
「うわっ……!」
「きゃぁっ!……ご、ごめん」
窓から飛び込んできたのは……アイヴィーで、俺はアイヴィーに押し倒された格好になって床へと倒れる。
「いてて……アイヴィー何してるんだ?」
俺は地面に倒れたまま、俺の腹の上に座っているアイヴィーを見つめている。月光に照らされて、彼女の金髪がとても美しく輝き、そして赤い眼が周りの暗さで余計に赤く光っているように見える。
服装は、少し体のラインが透けて見える薄手の物だが、使っている生地が良いのだろう。光沢が滑らかに見える。
「あの後お父様に捕まってね、冒険者をやめて帝国騎士になれ、クリフとは縁を切れって言われたのよ……だからもう寝るって振り切ってきたんだけど、一人で寝るのが寂しくて、ね。一緒に寝ようかなって」
彼女はクスッと笑うと俺の手を引いて立ち上がらせると、俺の目を見つめて……唇にそっと口づける。実家で大胆すぎませんかね……と思いつつ俺はアイヴィーを抱き寄せて、しばらく彼女と抱き合う。
彼女が唇を離した後、俺を見上げて笑う。
「最近移動が多かったでしょ、だから二人っきりにもなれなかったし、こういう機会でもないとなって」
俺は彼女の頭を撫でると、再び彼女の唇を奪い……そっと舌を絡ませる。興奮したのか、彼女の口から甘い吐息がもれ……彼女が俺にしがみつくように荒々しく、お互いの口内を貪り……口の端から唾液が漏れ出して、筋を作っていく。
お互いの荒い息だけがこの部屋の中に聞こえている。俺は少し荒っぽく壁へと彼女を押し付ける……彼女は俺を濡れた目で見つめて……笑顔を浮かべる。
「んっ……はぁ……」
俺は黙って彼女の服をゆっくりと脱がしていく……彼女の手が無理矢理に俺の服のボタンを外していき……そのまま寝台へと倒れ込んでいく。
しかし……物音とか大丈夫かな……俺が少し心配になって、外の物音を確認しようと首を向けようとしたが、彼女の両手が俺の頬を掴んで自分の方向へと向けて少し潤んだ目で笑う。
「この屋敷……プライバシーを守るために防音はしっかりしてるのよ。だから……」
翌日の朝……俺が目を覚ますととても豪華な装飾の施した天井が見え……そうかここは帝国だったか、とそこで状況を再び理解した。
ふと体温を感じて、腕の中を見るとアイヴィーが乱れた髪のまま寝息を立てていた。子供のようなあどけない顔で寝ている彼女を見つめていると……とても愛おしいという感情が心に沸き起こる。そっと髪を撫でると、彼女が軽く身じろぎをして、目を開ける。
「おはようアイヴィー……」
彼女は何度か瞬きをして……俺の顔を再び見直して、笑顔を作ると俺の頬にそっと手を添えて……とても優しい手つきで俺の頬を撫でる。
「おはよう……もう朝、ね。部屋に戻らないと大騒ぎになっちゃう、戻るわ」
布団の上から起き上がると、床に散乱した服を集めていくアイヴィー……、ああ、こりゃひどいな。俺も寝台から起き上がると、自分の服を拾い上げて着直していく。お互いが服を着直した後、彼女は窓を開けて……再び部屋に戻るのだろう、昨晩から外に垂れ下がったままのカーテンを縛りつけたものを何度か引いて強度を確かめている。これ誰かに見られてないのが不思議なくらいの光景だ。
そして……真上にアイヴィーの部屋があったのか。大丈夫そうなのを確認すると彼女は最後にもう一度俺に軽く口づけをして、悪戯っぽい笑顔を浮かべる。
「ありがとうクリフ、私を愛してくれて……私お父様に何を言われてもずっと貴方を愛しているわ」
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