148 女王連隊(クイーンズ)の凱旋
「城は完全に落ちたな……」
俺たちは抜け道となっていた場所から、下水道を抜け……城から離れた場所にある、場所からマーロ城が炎上しているのを見ている……。帝国軍が城を完全に破壊するために火をつけたのだろう……時折爆発が起きているのは城の中にあった何かに引火して……炎上しているためだろう。
「嫌……みんな私を捨てないで……」
ヒルダは抜け道を俺たちに惹かれて走っている間もずっと泣いていた。今も地面にへたり込んで、ずっと顔を覆って号泣している。そんな彼女を見かねてアイヴィーとアドリアが一生懸命に介抱している。
「しかし……俺たちが依頼を受けているってのに、なんで帝国軍が……」
ロランが独り言のように疑問を口にする。その疑問は俺も感じている。
「駐屯軍ではない別の帝国軍が来ていたのかもしれないわね……」
アイヴィーがヒルダを宥めながら……俺に話しかける。彼女は少し悩んだ顔を見せてから、さらに語り始めた。
「別の隊旗が見えたわ……あれは、昔
そうか……セプティムの出身地が西方騎士領というのを昔聞いたことがある。そこに所属している部隊が何らかの形で、キールへと派兵され、その途中で城を発見して攻撃してきた、ということか。
「しかし……これからキールに戻らないといけないよな……
俺はアイヴィーとアドリアを見るが……アドリアが俺の視線に気がついて、困ったような顔を向ける。ヒルダは泣くのを止めていたが……眼光に力はなく、焦点があっていない状態でへたり込んでいる。
「クリフ……この状態のヒルデガルドはとても危険です、自傷とか……一旦キールに戻って宿で休ませましょう。その間に
そうだな……アドリアの提言に従って、俺たちは力なく下を向いているヒルダを支えながら……キールの街へと歩き始めた。
キールの街へ戻ったのはそれから……二日後だった。
野営中にヒルダが暴れたりすることはなかったが、彼女は生きるための行動を全て放棄しており、都度ケアが必要な状況だった。疲れ切った俺たちはキールの街について、宿を取り……俺はアドリアたちにヒルダを任せて、ロスティラフとともに
「だから……依頼遂行中に帝国軍が攻め寄せてきて、慌てて逃げたんですよ!」
俺は……スイカップさんに食ってかかる……彼女は困惑した顔で、俺を見ている。
「ええ……?
この反応を見ていると、
「この場合、報酬はどうなるんだ? 俺たちは遊びで行ったわけじゃないんだけど……」
スイカップさんは非常に困った顔をして……上司に相談します、と答えた。俺はため息をついて……スイカップさんにお願いします、とだけ伝え……
宿に戻ると、部屋に入った俺をヒルダは独り言を喋りながら笑って宙を見ている。俺が入ってきたことに気がつくと……ヒルダは焦点の合っていない目で俺を見ると、寂しそうに笑いながら……近づいてきて必死に俺にしがみつく。
「お願いですから、私を捨てないでください……。私……あなたにどう奉仕すれば捨てられませんか? 愛してもらえますか……」
俺にしがみついて壊れたように懇願するヒルダを……俺は、どうしたらいいかわからずに見つめる。どうしたらいいんだ……周りを見ると、ヒルダの介護で疲れ切ったアイヴィーは寝台に寝転がっており……アドリアも疲労で床にへたり込んでいる。その時、歓声が宿の外で上がる。
「な、なんだ……? ごめんヒルダ、ちょっと待ってくれ……」
ヒルダをロスティラフに預けると、俺は窓を開けて外の喧騒を確認する。そこには……キールの街の住人が、凱旋してくる帝国軍を熱狂的に迎え入れる風景が広がっていた。
アイヴィーが見たという黒色の旗に、剣を交差させた……
「あ、あれは……」
俺が息を呑んで……絶句しているのを見て起きてきたアイヴィーやロランが窓から顔を出して……同じように絶句する。少し前まで会話をしていた人たちが……そこに命のない姿で括り付けられている姿を見て体が震えている。
そこへヒルダが、くすくすと笑いながら、窓へふらふらと歩いてくる……ロスティラフが慌ててヒルダを窓から引き剥がそうとして……彼女は見てしまった。柱にくくりつけられているパウルの姿を、死んだ仲間たちを。
そしてその彼らに向かって……侮蔑の言葉を吐きながら、笑顔で石を投げつけるキールの住民たちを。
そうだろうな……平和な暮らしを脅かした山賊……それを退治した
「……アアアア……」
少しの間を置いて、ヒルダは大きく目を見開いて口を開いた。慟哭が次第に叫びとなって……再び涙をぼろぼろとこぼしながら、彼女は叫び始めた。
「どうして……私の私の臣下を……嘘だあッ! 許さない……この街の住民も許せない! パウル達を……っ!」
ヒルダは俺を突き飛ばして……近くで心配そうに見つめていたロランにしがみつくと大声をあげて泣き始める。俺は突き飛ばされた時にロスティラフに抱き止められて……何とか倒れるのを回避できた。ヒルダを抱き止めて……困惑したように俺たちの顔を見るロラン。
俺たちはどうしたらいいかわからずに……悲鳴のような叫び声を上げ続けるヒルダを見ているしかできなかった。
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