137 子供のお母さんになりたい
現在この大陸には、三名の皇帝が存在している。
帝国を支配する至高なる統治者、
聖王国に鎮座する永遠の支配者、
龍の末裔にして東の海を統べる、
この三名が支配する帝国……がこの大陸における三大文化圏であり、俺たちが今いるサーティナ王国は『聖王国文化圏』に属している中規模国家、というのが一般的な認識だ。サーティナ王国は戦士文化の国とか喧伝しているものの、はっきり言って帝国から見ると、ちょっと野蛮な田舎の国という扱いだった。とアイヴィーが話していた。
で、なぜこの文化の話をしているかというと……実家に戻った俺は、実家に戻って気が抜けたのか、熱を出してしまい出立が数日遅れることが確定していて、差し迫った問題を解決しなければいけないからだ。
差し迫った問題は路銀、つまりお金の問題。
文化圏の違いというのはその国で流通している貨幣などにも影響を与えていて、各国の発行する貨幣には為替レートが存在している。この世界は貨幣として流通しているのは
で、
デルファイで流通していた貨幣はこの大陸で最も価値の高い
だがしかし現在いる国家は……サーティナ王国であり、この国は独自の
「うーん……クリフの実家に泊めてもらったほうがいいのではないか? と思うようになってきましたね」
アドリアが
「クリフはこれまで頑張ってたから……仕方ないわよ。体調が戻るまでは我慢しましょう」
優しい目で俺を見つめるアイヴィー。優しく撫でる手が少し心地良い。
仲間が寝台で頭に濡らした布を額に乗せている俺を囲んで……悩んでいる。とはいえすぐに熱が下がるとも思えないし、恥ずかしいけど親に頼むしかないのだろうか? そこへリリア……母さんがやってきて口を開く
「逗留費については私どもの方で何とかしますわ、お気になさらず……それとアイヴィーさんとアドリアさん……少しいいですか?」
「息子はお二人に無理なことをさせていないかしら?」
リリアはアイヴィーとアドリアにお茶を出しながら尋ねる。仕方ないのだ、もう7年近く顔を見ていない息子が二人も恋人だ、と話した女性を連れて帰ってきて……一人は帝国貴族令嬢、もう一人は
「い、いえ……むしろクリフ……いや息子さんには私たちは本当に助けられていまして……」
アドリアが少し照れたようにリリアに話している。アイヴィーもそれに応じて頷く。
「そうなのね……私は息子が一〇歳の時に大学へ進学させてしまって……ほとんど会っていなくて……どういう生活をしていたのか。息子が時折送ってくる手紙でしか知らなくて、どういった印象か聞きたいと思うのです」
リリアは二人に頭をさげる……恥ずかしいが、今は息子の生活や性格をこの二人の恋人から聞くしかないのだ。
「ああ……そうですね。クリフは……あ、いや息子さんはちょっと変わった学生でした。なんていうか……身分などに囚われていない感じで……怒らないで欲しいのですが正直王国の魔道士とは思えない雰囲気でしたね……」
アドリアは少し頬を染めて……昔の印象を口に出す。その顔を見てリリアは、この子も本当に息子のことを大事に思っているのだな、と実感する。
「そうですね……最初はちょっと失礼な印象ではあったのですが……友人として付き合っていく中で、とても魅力的な男性だな、と」
アイヴィーが頬を染めて、両手で頬を隠すように恥じらう。リリアはこれを見て……息子は父親の血を引いているのだな、と思った。とても女性から好かれるという点と、複数交際でもまるで恨みを買っていない点について。
その後も自分の息子の話を聞いたリリアは、何年も会っていない息子の姿を二人から聞くことができた……驚くくらい危険な経験や、優しさ、愛情など……離れて暮らす息子のことを心に刻んでいく。嬉しそうに自分たちの話を聞くクリフの母親の表情を見ているうちに、アイヴィーもアドリアも本当に懐かしい気分で、そしてとても眩しい記憶としてクリフとの冒険を話していく。いつしか三人は古くからの友人のように、笑顔を浮かべて会話をしていた。
「アイヴィーは最初からチョロかったですからねえ……」
馴れ初めや、付き合うに至った経緯などを話しているとアドリアがアイヴィーをからかう。
「え? そんなことなかったと思うんだけど……アドリアだってそうなるまでは早かったでしょ!」
「いえいえ、私はそこまでチョロくないです! アイヴィーは最初からデレデレだったじゃないですかー!」
二人の恋人による息子ラヴの惚気話が続く……リリアは多少『タラシ』な息子の話を聞いて目眩を感じるも……これだけは聞いておかなければ、と思い口を開く。
「今後お二人はどうしたいですか? 息子は……もう私の手を離れてしまっていています……今回お二人に会えたのは奇跡かと思っていますし……この先何度も会えるとは思っていないのです……だから」
リリアの真剣な眼差しに、アイヴィーとアドリアが少し考えるような仕草をした後に口を開く。
「私はずっと一緒にいたいと思っています……私はアイヴィーが正妻なら、妾でいいんです……」
アドリアが、とても恥ずかしそうに答える。アドリアの願いはクリフと一緒に、ずっと一緒にいて愛され続けること。
「え? 私とアドリアに差なんてあるわけないじゃない……一緒よ、一緒……」
「じゃあアイヴィーはお母さんの質問にはどう答えるの?」
アドリアが差がないという言葉に少し照れたような顔をして、アイヴィーを急かすように笑う。
リリア、そしてアドリアがじっと見つめる間、少し悩むように考えていたアイヴィーが口を開く。自分のお腹に両手を添えて……とても優しく、愛おしそうな笑顔を浮かべたアイヴィーの言葉は……。
「私も……彼とずっと一緒にいて、そしていつか彼の子供のお母さんになりたい……と思います」
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読者の皆様
自転車和尚と申します。
第三章終了です、今後も読んでいただけますと幸いです。
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