131 限界の果てに……
轟々と炎をたちのぼらせるゲル状の液体が燃え尽きると、少し考えるような仕草をした怪鳥は俺たちに向かって次々とゲルを吐き出す。
「くっ……これじゃ近づけないじゃない……」
アイヴィーが歯噛みしながら飛んでくるゲルを避けていく。地面に落ちると炎をあげるため、彼女は大きく距離をとって避けており、接近戦に持ち込めていない。
ロランも似たようなものだ。アイヴィーよりも重武装の彼は
「援護します!」
「<<
ロスティラフとアドリアが遠距離から弓と魔法で援護射撃を行う。両方の攻撃が体に当たるも、怪鳥の攻撃が届かない位置なのか、現時点では比較的近距離で立ち回っているアイヴィーとロランへゲルを飛ばし、接近されると体を回転させて、尾羽による攻撃を繰り出しており、現時点では決定打に欠けてしまっている。
「シトォ! シトォ! コロスゥ! ねゔぁんニイワレタァ!」
いきなり怪鳥が発した言葉に、俺とアドリア、アイヴィーの表情が凍りつく。ネヴァン、
あの薄桃色の長い髪と、邪悪すぎる歪んだ笑顔、金色の目を昨日見てきたかのような
「あ……あ……い、いや……」
アドリアが真っ青な顔で震え出す。遺跡の時もそうだったが、アドリアにとってあの時のネヴァンによる精神攻撃は
俺はロスティラフと目が合うと、頷き怪鳥に向かって魔法を放つ。
「時紡ぐ蜘蛛……蜘蛛により紡がれた時間、引き裂く力……我が前にその時の魔力を顕現せよ……時は歪み歪みは亀裂へ……<<
空間の歪みをみて、攻撃されたことに気が付いたのか怪鳥が一歩だけ後退する……しかし空間の亀裂はすでに始まっており、怪鳥の左足を無理やりにもぎ取っていく。悲鳴をあげてちぎれた傷口から派手に血を吹き出し、悶え苦しむ怪鳥。
そこへアイヴィー、ロランの攻撃が加えられ、体の各部に
もがきながらも残った足をばたつかせて抵抗を続ける怪鳥。
怪鳥が苦しみながら俺をぎろりと睨みつけ……残った右足だけで無理やりに尾羽を振り回してアイヴィーとロランを引き剥がす。
「くそっ、まだ動けるのか」
ロランが少し距離を取って、
「シト……シ……使徒よ。苦しみを……終わらせて……私を神の元へ」
急に口から出た流暢な言葉に、俺は驚くが先ほどまでの狂った眼光ではなく、少しだけ理性の光がある気がした……。しかしその後急に咆哮を上げると怪鳥は少し離れた場所にいた俺に向かってゆっくりと歩き始める。そして次第に駆け出すように俺に突進してきた。
「わかった……。影より生まれよ
俺は他の仲間を手で制すると、魔法を詠唱し始める。
「漆黒の腕よ、わが意思に従い敵を討ち滅ぼせ。<<
<<
ギリギリまで迫った怪鳥を俺の体から立ち上った黒い霧が瞬時に黒い拳の姿へと変化すると……思い切り叩きつけるような格好で、怪鳥の頭ごと地面へとめり込ませる。轟音と土埃、そして赤い血が目の前で舞う。
土埃が晴れると、目の前に地面へとめり込んだ怪鳥のあちこちが嫌な形に変形した死体があった。まだ痙攣をしているが、確実に仕留めたと思う……。
魔法を解除すると、拳の形をしていた黒い霧が空気に溶け込むように消えていく。
「やったか?! しかし……なんて魔法だ……」
ロランが俺の元に駆け寄り、怪鳥が確実に死んでいるのか
アドリアが俺に駆け寄り抱きつくと涙をいっぱいに浮かべた目で俺を見つめて、口を開く。
「ク、クリフ……その化け物の声……私聞き覚えがある……私を誘拐した人の声……」
その言葉にロランやロスティラフ、アイヴィーが固まる……やはりこいつは……元々人だったってことか。
「ということはやはり叫んでいた通り、ネヴァンが絡んでいるってことか……」
「ネヴァンって聖王国で倒したっていう
ロランの質問に俺は頷いて答える。アドリアがまだ震えていて、俺にしがみついたまま離れようとしていないのだ。彼女の頭を撫でながら、俺は呟く。
「倒したはずなんだ……でも復活したってことなんだろうか?」
「……倒されたな」
「倒されたのう……クハハ」
クラウディオとネヴァンは同時に黒鴉の死を感じ取った。ネヴァンからすれば倒せると思って嗾しかけたわけではないので、別に痛くも痒くもない。クラウディオはこれからも密偵として動かそうと思っていた手駒を失ったわけだ。
「直接使徒との決着をつけた方が良さそうだが……そういえば、
クラディオがため息をついて、座っていた椅子から立ち上がる。
その後ろ姿を見ながらネヴァンは笑う。
「強くなる……使徒がどんどん強くなる……これは面白い、限界の果てに何が見えるのか……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます