130 怪鳥(ザ・ストレンジ)

 天空に不気味な黒雲が広がる……それと同時に不快感を誘う音が響く。


「きたぞ……さあ、ちゃんとこっちを見つけてくれよ……」

 パーティ全員の顔に緊張感が漂う。黒雲の合間に漆黒の闇のような黒い翼が見え隠れしている……轟音とも言える翼の羽ばたき、そして不気味な人間の顔……中年の男性に見えるが、巨大な黒い鴉の体と人の顔が組み合わさった見ていて不快感すら覚える魔物が飛行している。


 ふと怪鳥の目がこちらを見たような気がすると、甲高い咆哮をあげてゆっくりとこちらへと降下してくるのが見えた。

「くるぞ! 弩砲バリスタの射撃準備を!」

 俺の合図でロスティラフとアイヴィー、そしてなぜかついてきた親方が懸命に弩砲バリスタの向きと角度を変えていく。すでにセットされている石弾は大人の男性の胴体くらいある大きなもので、これだけの質量が衝突すればひとたまりもないだろう。


「一発撃った後の再装填はかなり時間がかかる、大事に使うんじゃぞ」

 親方の檄が飛ぶ。弩砲バリスタは威力は高いが、再装填の際は人力では弦を引くことが困難で、専用の滑車型の機械を使って引く。

 怪鳥が人面の口を大きく開けて、こちらへと迫ってくる思ったよりも速度は出ていない……巨体故に鈍重なのかもしれない。よし、これならば……。


「くらえ! <<雷撃ライトニングの槍ジャベリン>>!」

 俺は怪鳥へと魔法を放つ、この場合は牽制というよりも怒らせて弩砲バリスタの射線状に誘導するためだけの攻撃だ。

 電撃を伴う魔法の槍が怪鳥へと衝突するが、一瞬衝突した後には速度が緩むものの、体制をすぐに立て直して降下を続けている。

「そうだ、こっちへ来い! この化け物!」


 俺が魔法を何度か連発して弩砲バリスタの射線に怪鳥を誘導していくとロスティラフが射撃準備を完了させる。

「いつでも行けます!」

「ギリギリまで引きつけるんだ」

 じっと耐える。怪鳥は俺たちに向かって一直線に降下している……額に汗が滲む……前世の戦記物小説などで、射撃の有効射程へと敵兵を引きつけるまでじっと耐えるという描写を読んだことがあるが、確かにこれは怖い。どんどん迫ってくる敵に対してじっと耐えなければいけない俺たち……新兵が暴発して射撃を開始してしまうというのもわからなくはない。


 怪鳥が不気味な咆哮をあげる。怒りのままに俺たちを食い殺そうと迫ってくる。アドリアがどんどん迫ってくる怪鳥を見て軽く震えながらも必死に悲鳴をあげることを我慢している。それくらい怪鳥が翼を広げて迫ってくるこの瞬間は恐ろしい。


「いまだ! 撃てーっ!」

 俺の号令と共に弩砲バリスタから石弾が発射される……石弾はギリギリまで迫っていた怪鳥に凄まじい勢いで衝突し、爆音をたてて崩壊する。その衝撃で怪鳥の片翼がへし折れ、血飛沫をあげつつ回転して地面へと落下していく。


 悲鳴とともに地面へと落下した怪鳥は必死にもがく。

「アアアアア! イ……イタイッ!」

 この怪物は言葉を喋っている! そのことに気がついた俺たちの動きが一瞬遅れる。怪鳥はその隙を見逃さずに、体制を立て直すと両翼を大きく広げ俺たちに威嚇を始める。片翼は根本からへし折れて再び飛び立つことは難しいだろうが……。

「ユルサナイ! コロスコロスゥ!」

「いけない、親方逃げろ!」

 怪鳥が大きく叫ぶと、俺たちに向かって一気に突進を開始してくる。地響きとともに巨体が迫まり、俺たちは武器を手にして慌ててその突進を避けるが……怪鳥はそのまま弩砲バリスタを破壊して、地面へともんどりうってひっくり返っていく。親方は……周りを見渡すと、顔中に土をつけた状態だったが、横に大きく飛んだことで無事だった。


「今だ!」

 ロランとアイヴィーが武器を片手に倒れた怪鳥へと攻撃を繰り出す。俺も雷撃ライトニングの槍ジャベリンを詠唱して追撃を開始する……あまり効果がないようだが。ロスティラフが複合弓コンポジットボウを使って、無事な翼へと矢を射掛け矢が怪鳥の表皮を貫き……血飛沫が上がる。悲鳴と共に怪鳥が苦しがり……足をジタバタ動かして無理やり立ち上がろうとする。


 怪鳥は立ち上がると、体を回転させるように少し長めの尾羽を振り回す。鴉のような体に似合わず尾羽には複雑な形の棘が何本も生えており当たったらタダではすまないだろう。

 アイヴィーは大きくバックステップをしてその攻撃を躱し、ロランは大盾タワーシールドを使って防御するが、勢いが凄まじく大きく後ろへと弾き飛ばされてしまった。


「アアアアア! オマエラ、コロスゥ!」

 怪鳥が大きく羽ばたき、再び突進を開始する。突進の進路にある全ての柵や岩などを破壊し尽くしながら怪鳥がどんどん迫る……。これは無理に受け止めるのは難しいな。

「直撃を食らったら危ない、避けるんだ!」

 俺の号令でパーティがパッと突進から逃げる。そんなことはお構いなしのように、進路上にあった岩に衝突し、その岩を完全に破壊すると怪鳥はようやく突進をやめて、俺たちを探すように辺りを見渡し……俺を見つけると凄まじく歪んだ笑顔を浮かべる。


「オマエ、オマエ、コロス、コロセバ、ヨロコブ、ゲェエッ!」

 怪鳥は再び大きく咆哮を上げると、口から赤いゲル状の液体を俺に向かって吐き出した。これは当たるとまずいのでは……何となく勘が働き、俺は慌ててその赤いゲルを回避する。赤いゲルは地面へと衝突するといきなり爆発したように火柱をあげて燃え盛る。


「こ、こいつは……燃料か。危ない! 当たったら助からないぞこれは!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る