125 戦いの後は……
「お、
酒場の一角に五人の男女がテーブルを囲んでいるのを見て、他の酔客が珍しそうに彼らを見ている。
しかし、当の本人たちは祝いの気分でもなく……酒場の一角で非常に気まずい思いをしながら食事をしていた。
「だから……あんなに威力が出るなんて思わなかったんだよ……」
俺は何度目かの先日の事件に関する言い訳を全員の前で繰り返していた。そしてぐいっとエールを飲んで……再びみんなの顔を見ると、呆れたような顔のアドリアとアイヴィー……そして我関せずと食事と酒を飲んでいるロランとロスティラフの姿がそこにあった。
「まあ、クリフもそう言っているし、アドリアもアイヴィーも許してあげたらどうだ?」
ロランが気を利かせて二人へと話しかける。
ありがとうロラン……あの後村長たちが壊滅した村へと戻ってきた際に、呆気に取られていたアドリアやアイヴィーよりも早く、村人へ
「もう怒っても仕方ないですね……」
アドリアはため息をついてエールを飲み干すと、笑顔で給仕にお替りを頼んでいる。アイヴィーも納得はしたようで、こちらはお茶を飲みながら、肉をナイフとフォークで切り分けて食べている。戦闘で毒を受けたあと無理して動いていたこともあって、体調が良くないのだと話していて、しばらく酒は控えるのだとか。
「まあ、私たちは本来もっと死人が出たかもしれない状況を好転させた、と言えるかもしれないわね」
「そうだろうそうだろう、だから俺の魔法は……っていてえ!」
そこで白い何かが俺の顔にぶち当たって痛みで顔を抑える。アイヴィーが俺に骨を投げつけて黙らせてきたのだ。
「黙りなさいよ、あんたは……」
「は、はい……すいません」
俺は痛む額を抑えながら、涙目でエールを飲んでいる……その様子を見ながら、次第に全員の暗い表情が消えていき……明るい笑い声なども見られるようになってきたのだ。そんな中で夜は次第に更けていき……酒場にも人は少なくなっていく。
「さて私は治療院にしばらく入院するわ」
アイヴィーは笑いながら俺たちに挨拶する。先日の依頼で受けた傷は塞がったが、毒が完全に抜けきっていないと話していたので仕方がないのだろう。立ち上がると軽くアドリアに向かってウインクをして……酒場を出て行った。
あれ? なんだ? と思うとロランが立ち上がり、そのまま酒場を出ていく。これはいつもの行動で多分娼館に行くのだろう。あくびをしながら出ていくロランを見ているとロスティラフが口を開いた。
「私は最近いくところがありましてな……孤児院の手伝いをして参ります。また明日にでも」
ロスティラフも獰猛な笑顔をを見せると、立ち上がって酒場を出ていく。そんな仲間の姿を見ていると、俺の服の袖をぐいっと引く手があった。
「ん? あ、アドリア?」
俺の隣に移動したアドリアは俺の方を見ずにエールの入ったジョッキを飲んでいる。どうしたのだろう? と考えていると、アドリアが再び袖を引く。ああ、そうか。
今ここには俺とアドリアしかいなかったのだ。
それに気がついた俺はなんとなく気恥ずかしい気持ちを抱えて、会計を済ませる。その間もアドリアはじっと下を向いて俺の袖を握ったままだ。酒場を出て……少し人気のない通りを歩き始めると、アドリアは袖ではなく俺の手を握る。彼女を見ると、俺の方は見ないものの顔が赤い。俺は握られた手を少し強めに握り返す。
その行動でアドリアが俺の方をハッとして見上げて……目があった俺たちは黙ったまま、再び目をそらして手を繋いだまま、赤い顔で宿屋へと歩いていく。
「……二人きりになれるってわかって我慢できなかった……」
俺の腕の中にアドリアが包まれながら少し上気した頬と、汗で額に軽くまとわりつく髪をはらうと、じっとその大きな目で俺を見つめている。俺たちは少し荒い息を整えるようにお互いの顔を見て、少し笑う。乱れた寝台の上で毛布を再びかけてお互いの裸体を隠すと、俺はそっと彼女の体に手を這わせる。滑らかな肌と、ひんやりとしたお互いの汗で少し濡れている。
「……久々だったしな……」
俺はアドリアの頬に指を這わせると、軽く彼女の唇を啄む。それを抵抗なく受けたアドリアは、唇を離すと嬉しそうな笑顔で俺の胸に顔を埋める。彼女の体温を感じて胸に幸せな気分が込み上げてきて、俺は彼女のとても細い体を少し強く抱きしめる。そっか、彼女はこんなに細かったんだっけ……。
「愛してるよ、アドリア……」
俺の言葉に幸せそうな顔を浮かべて笑うアドリア。
「ごめんね、きついことばっかり言って……でも
アドリアが申し訳なさそうな顔で俺に謝る。それはもうわかりすぎるくらいわかっているつもりだ。アドリアが抑え役にまわっているからこそ、メンバーが空中分解せずにある一定の方向で進めているのは理解している。
「わかってるよ、それより体の調子は大丈夫? 俺すっかり忘れてて……その……」
「大丈夫……あれからちゃんと休んでいるし」
アドリアはニコリと笑って、俺の頬に手を添えて、自分から唇を重ねてきた。唇を割って彼女の小さな舌が口内に侵入してくる。お互いが舌を絡ませながら、少し息を荒くお互いを貪っている。ああ、我慢できなくなってきた。せっかくかけた毛布を軽く剥ぎ取り、彼女の白い体を眺める。
そんな様子の俺を見て、アドリアは頬を赤く染めて俺を受け入れるように手を広げると……寝台が大きく軋み音を立てる。
「今日はクリフも私も満足するまで……朝まで一緒にいて……」
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