119 ゲルト村防衛戦 10
「で、説明をして欲しいの。あなたのことを」
今俺は使っていない小屋に押し込められ、アイヴィーとアドリアに詰問されている。ことの発端は
「こういうのはみんなの前で言った方がいいのでしょうけど……私はあなたが何をしても信じると決めているけど、アドリアにはそういう話をしていないのでしょ? だからまずは説明してほしいわ」
アイヴィーはため息をついて、俺の目を見つめている。彼女は俺が異質であっても、何があっても信じる、と言い続けている。だから今回アドリアが見たことを説明されても、信じてくれるのだろう。でもアドリアはちょっと違う。
「く、クリフ……あなたは一体何者なのですか?」
アドリアは少し逡巡した後に口を開く。先ほどまでの怯えも落ち着いているのだろうが、俺の目をじっと見つめている。不安そうな目だ。
「俺は……王国出身の魔道士で……」
「そんなことを聞いてるのではないです! 何ですか? あの能力は!」
胸ぐらを掴まんばかりの勢いで俺に掴みかかるアドリア。その様子を見て全く……という表情を浮かべているアイヴィー。うーん、とはいえ話せる内容も多くないんだよなあ。
「あんな力……普通じゃないです! それこそ
そこまで話すと自分が何を言おうとしたのか理解して、ハッとした顔をした後俯くとアドリアは黙ってしまう。言ってしまったらそこで自分自身も俺を完全に拒絶してしまうと思ったのだろう。
「話せるものが少ないんだけど……俺は昔から敵の使っていた魔法を学習したり、模倣することができた……
その答えに、はぁ? と言いたげなアドリアが口をパクパクして言葉を失っている。ああ、アイヴィーも似たような感じだったな。そんなアドリアの様子を見てアイヴィーが助け舟が必要、と判断したのか口を開いた。
「あ、あの……怒らないで欲しいのだけど、私魔法大学の時に同じ反応したの……アドリアと……」
その言葉にアドリアが、アイヴィーを信じられないものを見るかのような顔で見る。アイヴィーは少し恥ずかしそうな顔をして……ああ、そういえばあの時初めて彼女とキスしたんだよな、と全く今の状況を好転させない懐かしい思い出を考える俺。
「アイヴィー……? 何で……何でそれを教えてくれなかったんですか?」
「いや……あの時にそれを言っても誰も彼のことを信じてくれないって思ったから……クリフと話して当分は説明を控えようって決めてたのよね……」
アイヴィーは申し訳なさそうな顔をしてアドリアの問いに答える。その答えに、唖然としているアドリア。そしてすぐに俯いてしまった。黙ってしまったのでどうしたものかと考えてアイヴィーと目を合わせて、どうするか悩んでいるとアドリアが消え入りそうな声で呟く。
「アイヴィー……すごいですね……私……貴女ほどの覚悟がなかったかもしれない……」
「アドリア……ちゃんと言わなかった俺にも責任があるし……早めに言うべきだったとは思う。ごめん」
アドリアは顔をあげると目に涙をいっぱいに溜めて、俺を見る。
少しの間じっと俺を見つめると、ふるふると首を横に振って、話し始めた。
「ごめん、クリフ。私、貴方のこと信じ切れてなかったんだと思う……ごめんなさい……でも私もあなたのこと信じたい……その……愛しているから……」
恥ずかしそうな顔をしながら俺をじっと見つめるアドリア。そんな彼女のことがとても愛おしい、と感じて少しの間俺たちは見つめあっていた。
そんな俺たちを見てアイヴィーは少し笑いながらアドリアを優しく抱きしめて、背中を優しく叩く。
「私もすっかりクリフのことを話すのを忘れてたわ……ごめんね、アドリア」
アドリアは少し照れ臭そうにアイヴィーの抱擁を受けて、笑顔を浮かべる。そして再び俺を見て少し目を潤ませたかと思うと、すぐにいつもの表情に戻り、指を立てて悪戯っぽく笑う。
「クリフはアイヴィーと私が信じてあげなきゃ……すぐに縛り首になっちゃいますからね。守ってあげますよ」
俺たち3人が小屋から出てくるとロランとロスティラフが近くの木の下で待っていた。こちらを見つけると手を上げて挨拶してくる。
「……皆さんのお話は終わりましたか?」
ロスティラフが笑顔で俺たちを迎える。アドリアが嬉しそうな顔でロスティラフに抱きつく……まあ彼にとっても娘のように可愛がっているからな……ロスティラフは照れ臭そうに頬を掻いてその抱擁に応えている。
「いやー、三人で小屋に行っちゃうからさ、もう我慢できないのかと思ったよ」
ロランが少し意地の悪い笑顔でこちらを見ている……いつもの軽口だとは分かっているがアイヴィーが少し膨れっ面で、赤面してそっぽを向いている。
「そんなわけ無いじゃない……下品ねロランは……」
「はは、悪い悪い。……ところでクリフ、第2派がくる前に村人の大半は一旦避難するって話してたぜ」
「そうか……ならまずは安心だな……」
ロランは俺の肩に手を乗せると、俺にしか聞こえないように囁く。
「自警団も退去するらしい……村に残るのはほぼ俺たちだけと考えてもいいだろう」
そっか……ならここが正念場だな……俺は頷くと、顔をあげて皆に宣言する。
「村は……俺たちの手で必ず守り通そう! 俺たちならできるはずだ」
その言葉に俺たち
「そうか、ガルタンは滅びたか……」
クラウディオは手下からの報告を聞き、少し考え事をし始める。ガルタンが倒された模様は
「使徒がアルピナの使う魔法を模倣していた、という話も聞いたな……。使徒を甘く見過ぎたか」
クラウディオの持てる戦力の中でも強力な手駒をぶつける方が良いだろう。
「クラウディオ、手助けが必要か?」
声の方向を見ると、暗闇から染み出すように桃色の髪を持った黒いローブ姿の少女が湧き出てくる……ネヴァン。3年前に使徒に滅ぼされた
「お前の助けなど……」
「まあ、そう言うな。カマラから良いものを借りてきてある……」
ネヴァンはその幼い外見には相応しくないほどの邪悪な笑みを見せて笑う。不満そうなクラウディオは勝手にしろ、と言わんばかりの表情で手を振る。
「使徒にぶつけるには良い手駒だ……
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