104 古書店街でアドリアさんとでぇと
「約束、忘れてましたよね?」
俺の隣にいるアドリアが頬を膨らませて俺に囁く。今俺とアドリアはデルファイの古書店街で、古文書などの調査と購入をするために一緒に行動している。
「……あ……」
「あ、じゃないんですよ……私、期待してたんですよ? クリフと二人きりになれる時間……」
アドリアが俺を上目遣いで非難するように見つめる。そ、そうだよね。あの洞窟での夜で俺は当分一緒にいると約束したのに、お酒飲んでる途中でさっさとアイヴィーと一緒に部屋戻っちゃったんだっけ。お酒が入ってたのもあるけど、記憶からは完全にすっ飛んでた気がする。
「あ、でも今一緒にいるからノーカンってことには……」
「ならないですねえ……でもこれからデートみたいにしましょう」
アドリアは小悪魔的な笑みを浮かべて俺の腕に自分の腕を絡ませた。うっ……お胸が当たってますよ、アドリアさん。彼女を見ると、改めてぎゅっと体を密着させると笑って俺を引いていく。え、この体勢ワザとですかね?
「ニヒヒ……相変わらず目がエロいですねえ……さ、探しに行きましょう〜」
ちょっと、ふにふにがふにぽよになって、ぽにょぽにょですよ、アドリアさん! その感触で半分脳死状態になりつつ俺は古書店街に引っ張られていく。
デルファイの古書店街……図書館にあるものと違い、保管されなかったような書物……その中には封印が解けない魔導書なども含まれるが、解読不可能だったものや、現代の学者が理解できないものなどもここへ流されることが多い、そうだ。
「……つまり、ここに古い
「そうです、私も半信半疑ですけどね……」
古書店街は小さな裏路地の一角にあり、少し怪しい雰囲気が漂っている。古書を扱う店の店主もある意味怪しげな人間が多く……どうみてもまともではない店主もたまにいたりもする……顔中に傷が入ってる人とか、どうみても盗賊か何かにしか見えない人……一見人当たりが良さそうだが、体の運びが素人ではない店主……元暗殺者か何かかこいつ。
「なんかありましたかね?」
「うーん……古いだけのものが多いかなあ……」
ふと手に取ってみた本もあまり良さそうなものはなかった……これは……『四十八手紹介』……? なんだこれ、軽く開いてみたら、イラスト入りで
「何読んでるんですか?」
「あ、いや。なんでもない」
アドリアが不思議そうな顔で、俺の開いている本をみようとするが……すぐに閉じて本棚に戻す。危ない危ない……こんなのをみてるとかバレたら、あとで面倒だからな。
本を探しているアドリアを横目でチラッと見てみるけど……最初にあった頃からほとんど成長していないようにも見えるけど、かなり女性的な体つきにはなっている気がするんだよな。ローブが比較的体のラインをくっきり出すようなスタイルで、サイドの切れ込みなどもあって結構大人びた印象に見える。
俺の視線に気がついたアドリアが屈託のない笑顔を向けてくれる。やっぱり可愛いよなぁ、改めてみると見惚れてしまうくらい美しい女性だ。
この治安の悪そうな場所では、周りの目が多少気になるよな……とはいえ彼女は
実は
『特に女性陣は一人にさせないでください、デルファイの裏社会は厄介なので……』
というのが
知っている冒険者にも裏社会とのつながりがある人間はいない……と思う。俺やアイヴィー、アドリアは全くそういう接点がなかったしロスティラフも接点がないと話をしていた。
「クリフ、そろそろお茶にしませんか?」
アドリアが難しい顔をしている俺を見て、気を遣ってくれたのだろう……このかび臭い路地から抜けることを提案してきた。そうだな……今考えても仕方ないだろう。
「そうだな……少し休憩しようか」
アドリアと俺はこの古書店街から抜けて、表通りへと向かうことにした。
「しかし……本当に情報集めるのが難しいな……」
今日は完全にハズレだった、ろくなものが集まらない。三冊ほど関連しそうな書物を買い取ってきたが、読んでみないとわからないがおそらく大したことは書いてないだろう。
「
アドリアが俺の顔を見上げて、苦笑いで話しかける。
ふと……凄まじいまでの敵意に満ちた視線を感じた。
真横? 俺の左隣にアドリアが立っているが、その先……細い路地から視線を向けられて……。
漆黒の暗闇が広がっておりそこから、腕がアドリアへと伸びてきていることに、その瞬間気がついた。全身が一気に緊張して……俺はアドリアの手を掴もうとするが、指先が触れるだけでアドリアの位置が大きくズレる。
「え? な、何?」
アドリアがキョトンとした顔で……俺の顔を見ながらその暗闇から伸びる腕に捕まれ……俺が手を伸ばすが届かず、暗闇に飲まれていく。
「ク、クリフ……」
恐怖に包まれた表情でアドリアも必死に手を伸ばすが……ずるり……とそのまま暗闇の中へと飲み込まれた。全てがスローモーションのように流れていく。
俺の心臓が早鐘のように鳴り響く。う、嘘だろ……? 白昼堂々こんな場所で……? 油断していたわけじゃないが……あまりにも現実離れした光景に驚きが隠せない。
呆然としたまま俺はその場に膝をつく。
「あ、アドリア……? 嘘だ……ろ?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます