100 鬼火熊(ジャカベア)の能力
「ここまできたか……」
館の主人であるジャン・ルー・ダントリクはその邪悪な本性を隠さない歪んだ笑顔で俺たちを睨みつけていた。その傍らにはまだ生きている……若い女性が鎖で繋がれている。女性の顔は恐怖で歪み、俺たちに救いを求める目を向けている。
娘である
俺はまず聞かなければならないことを確認するために、飛び出しそうになっている仲間を手で制して……二人へと尋ねた。
「戦う前に一つ聞かせてほしい、あの食卓やキッチンにあった死体、あれはどこから手に入れた」
「旅人がよく訪れるのでね……保存しているのだよ」
ジャンはニタニタと不快な笑みを浮かべて……問いに答える。マリアも口元を押さえて笑うが……こちらも不快だ。
「人を襲って食べるなど……鬼畜の所業ですね」
アドリアが怒りの表情で手に持った
「鬼畜……? 何を勘違いしているんだ貴様は」
ジャンは理解できない、という顔でアドリアを見つめる。
「私は
やれやれと言ったふうに呆れたような表情を浮かべて、馬鹿にしたような態度をとるジャン。それを見てアドリアが言葉に詰まる。
「第一、人間型の生物を食べてはいけない、と決めたのは誰だ?
「ぐっ……人を襲って食べることが罪ではないですか……」
アドリアが言葉に詰まりながらも反論する。その反論もジャンからすると予想できていたのだろう、笑いながら答えていく。
「なら『私は
傍の女性を繋ぐ鎖をぐいと引くと、女性の腕にジャンが鋭い牙を突き立てる。女性が悲鳴を上げて泣き叫ぶが、お構いなしにジャンはその腕の肉を抉り取って、血とともに咀嚼していく。女性の泣き叫ぶ声があたりに響く。
「貴様……ッ。無辜の人間を……!」
ロランが堪えきれない、というふうに
まさに地獄絵図のような、現実感のない光景が目の前に広がる。
「ク、クリフ! 何をしているの?」
アイヴィーが何もしようとしない俺を見て叫ぶが、あまりに現実感のない光景に俺の思考が完全にフリーズしている……というよりも、頭にモヤがかかったように、動けなくなっている。
「あ、う……な、何かが……俺を……」
「クリフ! しっかりして!」
慌てるアイヴィーを横目に、俺は体を震わせながら膝をつく。なんだ……なんだこれは……。その時、暗闇からのそり……と不気味な影が立ち上がった。
「君たちの数が多いからな、特にそこの魔道士は危険だ、と
その巨大な影が前に進むと、不気味すぎる姿があらわになる。頭部は醜く変化したカボチャのような形をしており、全身は剛毛で覆われた巨大なグリズリーのような体だ。空洞のような目の奥には、不気味な赤い光を携えている。
「おやおや……魔道士殿は
「あ……ぐ……な、なんだ」
俺は急激に重くなる体に耐えきれず、地面へと崩れ落ちる。意識はあるので、これは魔法か何かか……。
「
ジャンが邪悪すぎる笑みを浮かべて……
「食ってしまえ」
「クリフ!」
ギリギリのところで、ロランの
アドリアが俺を支えて後退させ、アイヴィーはその間にマリアに向かって
「あ、う……あ、アイヴィーの……え、んごを……」
「喋らないで! アイヴィーは私が護ります!」
口が回らない、体が鉛のように重く、俺は口から涎を垂らしながら、なんとか立ち上がろうと必死に力を入れる。なんとかしないと。アドリアが俺の前に出て
ロスティラフがその間にもジャンを狙って射撃を繰り返すが、当たらない。ロランは
アイヴィーとマリアの技量はほぼ互角か。アイヴィーは素早い動きでマリアの
「ハハハハ! いいぞ人間! 強いな!」
先日会った時とは全く印象が違い、笑いながら
ジャンはロスティラフがなんとか押さえているが……決定打が欲しい。俺がなんとかして動けるようにならないと……。
「あ、ぐう……な、なんとかしないと……」
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