98 家畜の正体と罪悪感
「こ、これは……」
洞窟の奥には……人間の子供が集められていた。人数は一〇人程度か、
「え、あ、あぶ……」
アイヴィーが
「蛇のおじさん! 大丈夫だった?」
「ああ、子供たちよ。この人たちと話をするのであちらに行っていなさい、遠くへ行ってはいけないよ」
「さて、この子達を見てどう思う?」
「えっと……誘拐でもしたんですか?」
俺は素直なところを口にしてみた。他の仲間は『あちゃー』という顔をして、頭を抱えている。
「フフ……お前は失礼な上に正直だな小さな魔道士。この子達は……お前らの依頼にある『家畜』だ」
「!?」
アイヴィーやアドリア、ロランが驚いた顔で息を呑む。その顔を見て
「そうか、知らなかったのか。あの屋敷の主人のことを」
子供たちが、洞窟の中を走って遊んでいる。全員笑顔だ……とても
「家畜とはどういう……」
アドリアが
「言葉通りだ。あの屋敷の人間はこの子供達を家畜として
その言葉に俺たちに緊張感が走る……。人間を食料とする魔物は複数存在する、というより多すぎるが、人の姿をしているものはそれほど多くない。
「
「そういうことだ、あの屋敷の主人と娘は
ロスティラフが
「
アドリアが尋ねる……彼女が持ってきた依頼だ、かなり責任感を感じているに違いない。少し……肩が震えている。
俺は、アイヴィーの目の前だがアドリアの肩に手を置く。そうしてあげないと、彼女が倒れてしまうかもしれない、と思ったからだ。アドリアはそれに気がつくと……俺の手にそっと自分の手を添えて、うなずく。
「うむ……まあ偶然なのだが。この近くを移動していて、奇妙な匂いに気がついた。姿を隠して子供に話しかけたら……屋敷のものに食べられてしまう、と騒ぐのでな……ここに連れてきたというわけだ」
「
アドリアはかなり悲しそうな顔で下を向く……いや君のせいではない……俺は重ねられたアドリアの手をそっと握る。気持ちが伝わるように。手が震えている。
「まあ、仕方なかろう。古い時代より
「俺たちはどうする?」
ロランが俺に話しかける……そうだな……どちらにせよ
「屋敷の
その言葉に全員がうなずく……
「はあ……私ダメですね……」
アドリアは洞窟の外で、月を見ながら座っていた。最近アドリアの受けてくる依頼はあまり良いものがない……それまで
「アドリア」
俺は後ろから彼女に声を掛ける。その声に反応してアドリアが俺の方を向き……少し無理したような笑顔を向ける。
「どうしました? 明日は戦いになりそうですよね、休まないと」
俺はそれには答えずに、アドリアの隣に座る。キョトンとしてアドリアが俺の顔を見ている。
「なあ、そんなに抱え込むなよ……」
「え?」
アドリアはかなり驚いた顔をしている。俺はじっとアドリアの目を見て……続ける。
「俺たちはアドリアが依頼を取ってきてくれるから、冒険者として活動できているんだ。ありがたいと思ってるよ」
「で、でも最近みんなを危険にしてしまっていることばかりで……私……」
「いや、みんな納得してると思うよ。アドリアが仕事を受けてくれているから、俺たちはパーティとして機能してる。だから、そんなに背負いこむなよ……」
その言葉を聞いて、少し肩を震わせるとアドリアがボソッと話し始める。
「わかった……それと、クリフは……どう思ってるの?」
「ん? どうって?」
「クリフは、私のことどう思ってるの?」
「どうって……好きだよ」
アドリアは俺の顔を見て……続ける。
「私……クリフの重荷になってない? アイヴィーとの結婚が決まったら、私……」
「……なってない。俺は君と……そうなった時からずっと、君のことも幸せにしたいって思ってる。アイヴィーのことも好きだけど、俺は……」
アドリアは寂しそうな……泣きそうな顔で俺の肩に頭を乗せる……。その頬に俺は手を添えて、優しく撫でる。
「罪悪感は仕事で誤魔化そうと思ってた。でも、最近うまくいかないの……」
堪えきれずにアドリアは涙をボロボロとこぼして泣き始める。相当我慢してたんだろうな……。
「私……うう……うああ……」
俺はアドリアをそっと抱きしめる。アドリアも泣きながら俺にしがみついている。
俺は優しくアドリアの涙を拭うと、彼女の唇にそっと口づける。潤んだ目で俺を見つめるアドリア。
「依頼を片付けて街に帰ったら、もう少し一緒にいよう。俺は君と、当分一緒にいるよ」
今度は少し、強めに彼女を抱きしめて、軽く舌を絡ませてお互いの唇の感触を確かめる。
「ありがとう……クリフ」
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