97 洞窟の知恵者(ウィズダム)

「ほんと……男って嫌ですよねえ」

「そうねえ……しかも鼻の下伸ばして……」


 今俺とロランはアイヴィーとアドリアの総攻撃を受けていた。返す言葉もない……実に的確な言葉である。いやなんかあの西瓜スイカ二つは破壊力が強すぎた。それは二人にはないものだ。アイヴィーも初めて会った時と違って、かなり大きなアレをお持ちではあるが、アドリアにはそういうのはない。成長に従って女性らしい体型になってはきているけどね。

 いやでもアイヴィーの良さとか、アドリアのよさは西瓜スイカの大きさではないと思うのだ、うん。それを伝えよう。


「俺は二人のことを……ぶげらぁっ!」

 アドリアに本気で蹴り倒された。彼女はかなりお怒りの模様で……ちょっと顔を赤くして少しだけ震えている。ロスティラフが頭を抱えているのは気のせいか。

「あ? 馬鹿ですかテメーは、突然何言い出してるんです」

「ア、アドリア?」

 アイヴィーが流石にオロオロとアドリアに困った顔を向ける。そうだった、二人のこと、なんて話したらアドリアと俺で決めた『アイヴィーには言わない』約束を破るところだった。俺とアドリアの関係は……バレてるだろうが、言わない。


 で、今の状況だが俺たちは屋敷を退去して西へと向かっている。西へと向かうと洞窟があるそうで、そこに蛇竜ワームがいるのだとか。スイカ……じゃなくてマリアが話していた。

「しかし……何か引っかかりますな」

 ロスティラフが難しい顔をしながら歩いている。彼は屋敷に行く前からこんな感じだが、蛇竜ワームとの関係性を考えれば確かに気になるところが多いのかもしれない。

「なあ、ロスティラフ、蛇竜ワームのことを教えてくれ」

「そうですな……蛇竜ワームは我々のような竜人族ドラゴニュートの進化の先に……あ、この辺りの話は内密にお願いをしたいのですが……」

 ロスティラフは俺たちに念を押してきた。どうも竜人族ドラゴニュートの掟に反することを教える気のようだ……まずは情報がないとアレなので頷く。


「あまり知られていないと思いますが……竜人族ドラゴニュートは成長をしていくにあたって斥候スカウト戦士ウォリアー貴族ノーブル、という順番に進化します。貴族の先は竜に近づいていくのですが……蛇竜ワームは魔術を極めていく先で変化していくと言われております」

 ほうほう……そんな流れなのか……すると蛇竜ワーム竜人族ドラゴニュート以上の存在、ということになるのね。

「ロスティラフさんは斥候スカウトになるんですかね?」

「私は……いや、これは余計ですな。まあそういうことにしてください。ともかく蛇竜ワームは単なる魔物ではないのです。ドラゴンでもありませんが」

 ロスティラフは何かを言いかけたが、すぐに口をつぐんだ。何かあるが今は聞くような話でもないのだろう。

蛇竜ワームが魔物ではない、というのは理解してる。言葉も話せる奴も多いしな。大学にいたよ」


「でも、それだと家畜を襲っているという話と辻褄が合わないわね。そんな危険を冒すとは思えないもの」

 アイヴィーがロスティラフの顔を見ながら、違和感を伝える。確かにな、知性的な蛇竜ワームが家畜を襲撃するなんて短絡的な事件を起こすとは思えない。ロスティラフも頷く……つまり何かある。

「まずは会話……だな」

 俺の言葉に全員が頷く、特にロスティラフは嬉しそうな顔で……俺を見つめた。




 洞窟は思ったよりも屋敷から遠くなかった。何か巨大な生物が、遠い過去に岩盤を削ったような……そんな印象の外見だ。入り口近くには何かが這ったあと……巨大な長細い何か、だと思うが跡がついていたので、おそらくここで間違っていないのだろう。

「ずいぶん馬鹿でかい洞窟だな……」

「遠い過去に、何かが住んでいたのでしょうね……」

 アドリアが入り口の壁などを調べている……ロスティラフも地面に落ちている石などを拾って確かめている。ロランは油断なく武器を構え、洞窟内を注視している。その時……洞窟の奥から声が響いた。


「冒険者か……あの家に雇われたのだな」

 大陸共通語だ。一斉に警戒モードになる俺たち。

「待っておれ……今そちらに行ってやる」

 何か巨大なものを引きずる音が響き……地面が小刻みに振動している。ロスティラフが慌てて後退し叫ぶ。

「これは……まずい! 神話ミソロジー級かもしれませぬ」


 洞窟の奥から、凄まじく巨大な影が覗く。竜の頭部から伸びる凄まじく長い蛇の胴体、そして背中には一対の大きな羽が生えている。巨体は以前戦った単眼巨人サイクロプスクラスだろうか、一〇メートル近い高さがある。体の各部には大きな傷が走っており、相当な長い時間を過ごしてきたのであろう、風格が漂っている。口元の牙は鋭く、俺たちを見ると口元を歪めて……笑う。

「ふむ…‥男が二名、女が二名……一人は半森人族ハーフエルフか。竜人族ドラゴニュートもおるな」

 蛇竜ワームは俺たちを値踏みするように見つめると、ロスティラフに向かって話しかける。

「お前はどこの竜人族ドラゴニュートだ」

 ロスティラフは敵意がないことを示すために武器を収め、俺たちにも同じようにするように手振りで伝えると話し始めた。


「大陸共通語で失礼する。私は竜の眼ドラゴンズアイにいたロスティラフ。あなたは?」

「ロスティラフ? それは人に付けられた名か。まあ良い……我はそうさの……近しい人間からは知恵者ウィズダムと呼ばれておる」

 知恵者ウィズダムは再び俺たちを見て、口元を歪めて笑う。蛇竜ワームの笑顔ってめちゃくちゃ迫力あるよね。


「さて竜の眼ドラゴンズアイの者よ、お主らはあの屋敷に雇われたものか?」

「いかにも。ただ状況が読めず……理由をお聞かせ願いたい」

 ロスティラフが知恵者ウィズダムに語りかける。俺たちはとりあえず武器はしまったものの、状況的に油断ができず……警戒だけしている状態だ。


「ふむ……話すより見せた方が早いな。ついてくるがいい」

 知恵者ウィズダムは頭を振ってこちらにこい、という素振りを見せると洞窟の奥へと入っていく。そして自分の近くに光の球体を出現させる。無詠唱で魔法を放てる……これは相当な能力の持ち主かもしれない。


 俺たちはゆっくりと洞窟の奥へと歩いていった。

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