96 村の中心にある屋敷で依頼を聞く、そして西瓜をみる
「村……というには小さいですね……」
依頼を出してきた村……アニス村は大きな屋敷を中心とした、こじんまりとした……村というよりは集落? だった。村ってまあ小さくても一〇〇人程度が住んでいる規模のものが多いのだが、このアニス村は屋敷を中心に、一〇棟程度の小屋がある程度の集落といった趣だった。
「屋敷のサイズから考えると……周りの家が少なすぎるよな……」
ロランが驚いたように村を見ている。アドリアもかなり困惑気味で、集落と依頼の用紙を交互に見ている。
アイヴィーも訝しげな表情で、俺の腕に手を添えている……彼女が不安を感じている時は絶対に俺の横でこうして手を添えるのが癖になっているな、と思う。わかりやすいんだけど。
村人もいることはいるが……うーん。なんだろうこの違和感。ただ、家畜の柵などは応急で修理した後などもあり、
「とりあえず屋敷の主人が依頼を出しているようなので、話を聞きにいきましょう」
「ごめんください〜、
アドリアが屋敷の扉を叩く。その音と声に反応したのか、扉がゆっくりと開く……非常に顔色の悪い、少し暗い雰囲気の初老の男性が顔を見せた。
「
扉が開き、俺たちは屋敷の中に迎え入れられた。外側もかなり立派な屋敷だったが、玄関口も非常に……豪華な屋敷だった。大荒野にあるとは思えないくらい、品の良い美術品などが飾られており……正直言えば貴族の邸宅かな? とも思える。
「驚いた……帝国様式なんて……」
アイヴィーは美術品や壁、柱のデザインを見て驚いている。帝国様式……ということはアイヴィーの実家もこんな感じなんだろうか。
「見覚えがあるの?」
「ええ、この屋敷は帝国のデザインをもとに作られているわ……懐かしい」
アイヴィーが各部に触れて、懐かしそうな顔をしている。結局大学を休学してこっちへ来てしまっているので、俺とアイヴィーは帝国へと戻れていないんだよな……。
「なあ、今度一緒に帝国……君の家に行こうか」
「え?」
アイヴィーが驚いたように俺の顔を見る。彼女も戻りたがっているだろう、と思ったんだけど意外にもちょっと違う反応が返ってきた。
「い、いいの? 私と一緒に家へ……お父様の元へ行くって……それは。わ、私はいいのだけど……」
「え?」
急にアイヴィーがもじもじし始め、少し頬に朱がさす。ん? どういうことだ?
「……鈍感ですね、クリフさんは……帝国に一緒に帰るってことはアイヴィーと結婚するって話になりますよね」
少し膨れっ面のアドリアが助け舟を出す……え? 結婚? どうして?
「恋人を家に連れて帰る、ってそういうことですよ? このバカエロクリフ」
アドリアがすごく不機嫌な顔でそっぽをむく。あーあ、自分で決めたさん付けルール忘れちゃってるし……。アイヴィーはずっともじもじしながら俺の腕に引っ付いている。ちょっとしたギスギス感が俺たちの間に生まれ、ロランとロスティラフは少しやれやれ、という風に困った顔で肩をすくめる。
「あー、うん。とりあえずは目の前の依頼を片付けてからにしよう」
応接室に通された俺たちは、ソファーに腰掛けてこの屋敷の主人を待っている。俺の両隣にアイヴィーとアドリアがちょこんと座っており、ロランとロスティラフが脇を固めている。少し待った後にこの屋敷の主人が姿を表した。
「冒険者の方々ですな、ようこそ我が屋敷へ」
屋敷の主人は非常に背が高い……美丈夫だった。この世界では珍しくもない青色の髪をしており、目は灰色。身長はかなり高く、一九〇センチメートル近いだろうか。体もかなり引き締まっており戦士として紹介されてもおかしくない肉体をしている。外見はかなりの美形で、年齢は三〇代だろうか。俺の横に座るアドリアとアイヴィーを見て少し、ほう、という表情をしている。
「私の名前はジャン・ルー・ダントリクと申します。この屋敷の主人です」
笑顔をアイヴィーとアドリアに向けるジャン、歯がきらりと光る。なんというか……好色そうというか女性に目がなさそうなタイプだな……これは。
当のアイヴィーは全く興味がなさそうな顔をしているし、アドリアに限っては露骨に嫌そうな表情を浮かべていたが、すぐに仕事モードの笑顔に戻り、ジャンへと話しかける。
「えっと、
アドリアの問いに待ってましたとばかりにジャンが身振り手振りを加えて話し始める。
「はい、この村は私が国元より連れてきた使用人と私たち家族によって開拓している場所なのですが……よりにもよってあの
ヨヨヨ、と悲しそうに崩れ落ちるジャン。なんというか……芝居がかっていると言うか。
「は、はあ。ところでその
アドリアがめんどくせーなと言う表情を浮かべつつ、ジャンへと話しかけた、その時俺たちの後ろから急に声がした。
「西の方向です、冒険者の皆様」
振り向くとそこには……青い髪を結い上げ、灰色の目をした……とんでもなく美しい女性が立っていた。神々しいというかちょっと作り物……は言い過ぎか。背が高く一八〇センチメートル近い長身だ。そしてすごいグラマラスというか……ドレスが胸元を大きく開けているため、どデカい
「申し遅れました、私マリア・ルー・ダントリク……お父様の娘です」
マリアは俺とロランにニッコリと笑いかける。美しさも相まって破壊力が高すぎる。俺の目が、二つのたわわな
「ゲホッ……私
その程度では挫けない俺は、マリアの手を取り挨拶をする……後ろで殺気を放つアイヴィーと、呆れ顔のアドリアがいる気がするが、これはあくまでも挨拶だからな。ロランも続けて挨拶をする……むしろ俺よりもロランがかなりやられているようだ。ってか男の子だから仕方ないんだもん!
「おや娘のことが気に入りましたかな……ハハ。かわいい娘でしてね、自慢なのですよ」
ジャンが笑顔で娘を紹介し始める。
「帝国の貴族にも劣らぬ……器量好しでしてな、いつかは優れた男性と婚約をさせるつもりなのですよ」
「嫌だわ、お父様ったら……」
マリアも満更でもないというふうに俺とロランを妖艶に見つめる……なんだろうとてもドキドキする。美しい女性だからだろうか? 後ろでアイヴィーが出されたカップの持ち手を破壊し、アドリアが頬を膨らませて明らかに怒ってる。ロスティラフはあわあわとアドリアを宥めているのであった。
この時俺は全く気が付かなかったが……ジャンとマリアの笑顔は……どこか空虚で、どこかで見たような笑顔だった。
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