95 蛇竜(ワーム)退治を請けましょう

「はい、今回の依頼は……蛇竜ワーム退治です!」


 アドリアがメンバーを前に少し悩んだ末に説明を始める。

 依頼の内容だが、近くにある村に蛇竜ワームが出現し、家畜を襲って逃げた。という話だった。その話を聞いてロスティラフが露骨に嫌な顔……といっても俺たち以外わからないだろうが、をしていた。

蛇竜ワームがそのような短絡的なことをするとは……信じられませぬ」

 ロスティラフは非常に珍しいが、アドリアに食ってかかる。そりゃそうだろう、彼からすれば遠い親戚のような種族が家畜を襲ってるという話になるわけで。俺に置き換えたら、父ちゃん……バルトが村の外で追い剥ぎをしている、と言われたようなものである。


 この世界の蛇竜ワームは知的種族である。というよりもあまり研究対象にはなっていないがドラゴンとの縁戚関係もある生物なのだ。基本的にとても理知的で、魔法の研究に熱心なものも多い。聖王国の魔法大学にも一匹住んでいて、魔法の研究をしていたのを思い出す。

 ちなみに大学の蛇竜ワームは名前を『酔いどれドリンカー』と名乗っているくらいお酒が大好きで、多少酒乱気味なところもあり酒で失敗したことがあるとかないとか、俺によく話してくれていた。

 酔いどれドリンカーは古代魔法の研究と発掘を行なっていて、酒を持参すると彼が秘蔵している古代の魔法書を閲覧させてくれた。『歪みの亀裂ディストーション』も彼の持っていた魔法書から発掘したものなので、実質酔いどれドリンカーの功績でもあるわけだ。

 ちなみにそこから発掘した魔法はまだあって、これは追々使っていくことになるだろう。……ということで俺もロスティラフの援護に入る。

「そうだな……俺も蛇竜ワームがそんなことをするとは思えないんだけど……」


 アドリアが俺たちの話を聞いて、少し真剣な面持ちで話し始める。

「まあ、私もそう思っていますけど、現に被害が出てしまっているので……冒険者組合ギルドとしては見過ごせないという状況なんですよね」

 依頼の用紙を見ると、確かに家畜に被害が出ている……と書かれている。村の様子を見てみないと分からないかもしれないが……。

 うーん、受けるだけ受けて状況を確認して……。と悩んでいるとアドリアが俺の様子を見て、再び口を開く。

「私もクリフさんがそう悩むだろうなって思いまして、冒険者組合ギルドに交渉しまして……村の様子を確認した上で、該当の蛇竜ワームの処遇については私たちで決めていいそうです」


 その言葉でロスティラフが少し安心したような表情を浮かべた。同族みたいなものだから、無理に討伐という選択肢しかないのであれば彼にとっても非常に苦痛だったろう。

「アドリア殿、もし該当の蛇竜ワームと出会った場合は、まず私に交渉をお任せいただけないだろうか?」

「はい、ロスティラフさんがそういうと思っていたので……むしろお願いします」

 アドリアがニッコリと笑う。うーん、リーダー俺なんだけど仕方なし、前回の遺跡の失態で微妙に俺の立場がなくなっている気もする。まあ、仕方ないんだけど。




 二日後……俺たちは街道を進んでいた。蛇竜ワームに襲われた、という村の方向へと歩いている。大荒野には定期馬車のような交通手段が存在しない。いや、正確にいうと商隊のように馬車を使う集団もいたりはするのだが、個々人で馬車を使っていると目立つので生きて帰ってこれないと言われているのだ。そのため冒険者達は徒歩で移動する。


「ところで、なぜ俺がアドリアとアイヴィーの荷物を持たされているのでしょうか?」

 そう、今俺はアドリアとアイヴィーの荷物を背負っている。一人分の荷物の重さは大したことがないのだが、三人分となるとかなりハードだ。筋トレかな? そうかなこれは。

「ロランさんと、ロスティラフさんが良いって言いました!」

「クリフが荷物を持ってくれるって聞いたの」

 アドリアが何言ってんだオメー的な笑顔で俺に笑いかける。アイヴィーも似たような笑顔だ。そしてロランとロスティラフはとても爽やかな笑顔だ。ロスティラフの笑顔はどう見ても怒ってるようにしか見えないが、これは彼なりの笑顔なのだ。

「男はな、女に負担をかけてはいけないんだぞ、クリフ。お兄さんが教えてあげているんじゃないか」

 ロランが素晴らしく爽やかな顔で、しかも俺と目があうとすぐにそっぽを向いて別の方向を向いて震えている。確かにロランはある意味百戦錬磨の強者なんだが……。どうやら我がパーティには味方はいないようだ。


「ワタシ、ニンゲンノオキテハワカラナイ……デモ、ビジョヲウヤマウダイジ。ガオー」

 ロスティラフは突然片言で喋り出した……これは明らかにアドリアの入れ知恵だろう。というか今まで普通に喋ってんのに無理があるだろこれ。最後のガオーってなんだよ、ガオーって。

 ロスティラフの片言をきいて、アイヴィーが流石に耐えきれないという顔をしてクスクス笑い出した。

「む、無理あるわ……」

「そうですか? アドリア殿がこう喋れと。これでも練習したのですぞ」

 おい、片言設定はどうした、仕上げが雑すぎるぞ。ロランもアドリアも吹き出す寸前という感じで腹を抱えている。

「お前ら……覚えとけよ。筋トレにもなるから我慢するよ……ってか何入ってんだよこれ」


「女性の荷物は重いものなんですよ、知りませんでした?」

 アドリアが笑いながら俺に笑いかける。明るくて眩しい笑顔……ああ、もう仕方ないな……。俺が納得したような顔をしたので、満足そうにアイヴィーと腕を組んでくっつくアドリア。

「クリフさんは優しいですね〜。ね、アイヴィー」

 アイヴィーも笑いながらアドリアと並んで歩く。この二人は……なんというか、独特の仲の良さを見せているな。多分俺とのこともどこかでわかってるんだろう、とは思うが。

 そんな二人を見ながらロランとロスティラフが笑顔で歩いていく。俺は……荷物の重さに息を切らせながら、なんとかついていくのだった。


 村に着くのは……もう少しかかりそうだった。

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