92 墜ちる執行者(エクスキューショナー)
「顕現せよ神界の乙女、その槍を我が前に!<<
ダメ元で
接近するものはあの小型エイが射出されて、対応すると。小型エイはそれほどの強さではないが、数体倒されると口から何度も吐き出しているので、基本的には数が尽きるのを待つ、というのは無理そうだ。
ロランもアイヴィーも今の所かすり傷程度の負傷で済んでいるが、人間には体力の限界というものがあるのでそれがいつまでも続くとは考えにくい。試しに
「クリフさん……なんでそんな魔法を……」
アドリアが隣で
「ん? 紫電の防御能力を調べてたんだ。一〇〇パーセント防御というわけではなさそうだけど……別の方法を考えるしかないかもな」
俺の呑気な返答にアドリアが、少し焦ったように反論を始める。
「いやいや、今の状況わかってます? アイヴィーやロランさんが危ないんですよ?」
「わかってるよ、彼らを……君のことも信じているからこういう時間がある」
キョトンとした顔で少し俺を見たアドリアが、少し頬を染めて障壁へ注ぎ込む魔力を増幅していく。
「わかりましたよ! 私だってあなたを信じてますから、あの化け物をどうにかしてください!」
さて、こっちとしては撮れるては二つしかない。俺は両手に魔力を集中していく。
「時紡ぐ蜘蛛……蜘蛛により紡がれた時間、引き裂く力……我が前にその時の魔力を顕現せよ……時は歪み歪みは亀裂へ……<<
やはり……神話時代の魔法であれば紫電を食い破れると思ったが、その読みが正しかったようだ。神話時代の魔法は、現代に伝わる魔法と違って属性に左右されることがない。この魔法もどこから魔力を調達しているのかいまいちわからないが、少なくとも精霊などからは供給できていない、というのは理解している。
「闇よ、深淵の力よ」
そして俺は間髪入れずに次の魔法の準備へと移る。
「我が影から生まれ、敵を貫く槍となれ」
同じようにこの
「敵を貫け! <<
黒い槍が
『血の契約だ、
俺は大規模な魔法を連発したことで急激に体のだるさを感じて片膝をつく……体の中からごっそりと何かが抜けていくような、そんな感覚が倦怠感として感じられる。
「クリフ……っ!」
慌ててアドリアがフラつく俺を支えて抱きしめる。ありがとうアドリア……彼女の心地よい暖かさと、安心する匂いを感じて少し意識が飛びかける。でも見なきゃ……俺はなんとか飛びそうな意識を繋ぎ止め、アドリアにしがみついて
何度か暴れた後、
ロランやアイヴィー、ロスティラフは無事だ、怪我はしているが大きな負傷には見えない。彼らも
「よかった……倒せたな」
仲間が俺のもとに走ってくる。神話時代の化け物を倒したんだ、そりゃあ喜ぶよな。
「アドリア、みんなの治療を」
頷くとすぐに俺を座らせ……アドリアは仲間の怪我の様子を確認しつつ治療を開始する。大きな怪我をしている仲間はいないのだが、細かい傷や疲労もあり少し休憩は必要な状況だった。
全員の状況を見て、ほっとしたのも束の間……俺の背後から手を叩く音が聞こえた。その音で全員が武器を構えて俺の背後を見る。
「素晴らしい、さすが使徒……」
そこにはいなくなったはずの
「私は戦いに来たのではないのだ。そう焦るな」
「
全員が緊張している。この目の前の男は……異常とも言える
「前にも話したが、
「我々もこの時代に目覚めさせることは考えておらなんだ。帝国は少し欲をかき過ぎておるな」
アイヴィーを見据える目が冷たい。その目に彼女は本能的な恐怖を感じて全身が震えている……。俺はアイヴィーを後ろに庇うように立つ。
「ほう? 心意気やよし、だが貴殿は我と戦うには力不足……」
「では、また。時がくれば戦いの舞台にて合間見えようぞ」
俺たちはその後かなりの間……本能的な恐怖を感じ、一歩も動くことが出来ないままだった。
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