86 ファビオラ・エスクリヴァ
「さ、今回の依頼はこれですね」
アドリアが人懐っこい笑顔を浮かべ、昼食をとっていた俺たちの前に依頼のメモをおく。ロランは相変わらず二日酔いがひどいようで、食事は軽めにしており、水ばかり飲んでいる。ロスティラフは肉にかぶりつき、アイヴィーは肉をフォークとナイフで切り分けて、相変わらず上品な食べ方だ。俺は馬鹿みたいに硬いパンを食いちぎろうと必死になっている。
「クリフ、その食べ方は少し汚いわ」
アイヴィーが俺の食べ方に苦言を呈する。
「い、いやこのパン硬すぎるんですが……なんなのこれ」
馬鹿みたいに硬いパンに四苦八苦しながら、ようやく一部を食いちぎった俺を見てアイヴィーが、ため息をついて頭を横に振る。再びパンと格闘する俺を見て、アイヴィーは諦めたように自分の食事に戻る。
「全く……私がマナー教えなきゃいけないなんて……」
そんな俺たちを見て、やれやれというふうにアドリアが苦笑すると、すぐに真面目な顔になって説明を始める。
「今回は人の護衛です。1週間ほど西側に進んだ場所にある遺跡を調査したい、と言うことです」
人の護衛で遺跡を調査すると言うのは今までも数多くこなした依頼だ。学者や神官が古代の遺跡を調査し、知識や宝物を探し持ち帰る。平たく言えば遺跡荒らしなのだが、神話の時代から現代に継承されていない
「その遺跡はどんな場所なんだ?」
「それは私からお話しします」
アドリアの後ろから女性が進み出る。長い黒髪を腰まで伸ばし、眼鏡の奥にはサファイア色の眼が光る。そして白い肌をもち少し儚げな印象のある青いローブを纏った女性だ。黒髪には複雑な装飾を施した髪留めをつけていて、非常に清楚な印象を与えるような出立ちである。年は……20代後半から30代前半というところか。
「いいんですか?私たちまだ依頼を受けるとは……」
アドリアが尋ねるが、頷くとその女性は名乗り始めた。
「私の名前はファビオラ・エスクリヴァと申します。知識の神に仕える神官です」
ファビオラは長い髪をかき上げながら……あれ? この人神官って言うわりにやたら色っぽくないですかね。ローブも体のラインが出るように少し細めに作られているようで、スタイルの良さが際立っている。突然、脛を蹴られて悶絶する……方向からしてアイヴィーか……。当のアイヴィーは涼しい顔で肉を食べている。
「皆さんに護衛をお願いしたいのは、私が目指している遺跡が古代に
その言葉で悶絶している俺以外のメンバーが驚く。
「何をする気なんですか?」
アドリアが冷静な目でファビオラに詰問する。俺たちの空気が変わったことを感じたのか、ファビオラがたじろぐがすぐに表情を引き締めて話し始める。
「神話の時代、知識の神とその信徒は
俄然興味が湧いてきた。遺跡にその武器がある、ということか。
「完成した
「つまりあんたはその武器を遺跡から持ち出したい、と」
ロランがファビオラの言いたいことを先回りして話すと、ファビオラが頷いた。
「神話の時代に
まあ確かにそんなものが残っていたら危険すぎるな。うーん……これは断らない方が良いか。もし
「わかった、では俺たちが護衛に付こう」
「クリフさん! 勝手に受けては……」
アドリアが驚いている。アイヴィーは無表情だが、ロラン、ロスティラフも少し驚いているようだ。俺は手でアドリアを押さえると、ファビオラに聞いた。
「その代わり聞かせてくれ、あんたその武器を手に入れてどうするつもりだ? その答えによっては俺はあんたを殺すぞ」
俺の目を見たファビオラが俺が本気でそう思っている、と認識したらしく少し怯むが……すぐに俺の目を見て答える。
「私は……
ファビオラが去った後、アドリアが心配そうな顔で俺に話しかけてきた。
「クリフさん……本当に良いのですか?」
「ん? そりゃあちょっと怪しいと思うけどさ……もしかしたら
心配そうな顔をしているアドリアの頭に、俺は手をおいて笑いかける。突然のことでアドリアが少し顔を赤らめる。
「俺たちなら、
「そ、それならいいですけど……みんなはどう思ってるんですか?」
その言葉にメンバーの顔を見ると……案外やる気に満ち溢れていた。アイヴィーも笑って頷いている。ロランとロスティラフも恐れるどころか、強敵と戦えるかもという感じで目が輝いている。
「決まりだな、準備を始めよう」
ファビオラ・エスクリヴァは『
「神話時代の武器が存在しているのであれば……それを使わないのは勿体無いわよね……」
含みのある笑顔を見せながら、彼女は定宿としている宿屋へと歩いていく。彼女の目的は‥…神話時代の武器を手に入れること。そしてそれの威力を実験し、力とすること。知識の神殿は破壊、封印をせよと話していたが……それこそ知識の神への冒涜なのではないだろうか?
「力を手に入れるのに……手段は選ぶ必要はないわ」
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