87 みんなでお魚パーティ in 大荒野

 大荒野は未踏の土地が多い。


 魔物と混沌の生物、そして野盗や盗賊、戦争に負けて逃げてきた傭兵などなど……なんでもござれの土地だからだ。地図を作るにも街道から少しでも外れると、戻ってこれないくらい危険な場所なのだ。ほら、そこにもあっちにも白骨が転がってる。武器も錆びて途中から折れてしまっているので、かなり昔に殺された冒険者の成れの果てだろうか。


 デルファイの冒険者組合ギルドも人員名簿はかなり等閑である。登録した翌日に失踪する、などは日常茶飯事で同じ名前の別の人間なども大量に存在しているため、正直管理しきれないのだと話していた。俺たちのように固まって行動し、なおかつきちんと帰ってくるようなパーティだけではない。冒険者として登録しつつ、結局やっていることは野盗となんら変わらない、というパーティも何度か見た。


 その中では『夢見る竜ドリームドラゴン』のメンバーはかなり素行が良い、というか良すぎる。俺、アイヴィー、アドリアは混沌ケイオスとの戦いを通して敵がなんであるか理解していると思っている。アイヴィーは貴族として、俺は経験から、そしてアドリアは俺たちと行動していて強くそういう気持ちを持ったのだとか。


 ロランは傭兵部隊として名高い『聖堂戦士団チャーチ』の出身だと聞いている。この傭兵団は金で雇われる傭兵としては高潔な……ほとんど騎士のような規律の軍隊である……に所属していたと話している。彼が被っているヘルメットはその傭兵団のもので、彼自身の……素行はまあ酒や娼館に入り浸るのが好きなだけで、行動や言動はかなりまともだ。


 ロスティラフは見た目以上に、武士のような性格の竜人族ドラゴニュートだ。斥候スカウトというよりは熟練の弓兵といった風情で、探索や斥候スカウトの技能は戦争経験で身につけたのだと話していた。アドリアを護衛する、と言い出したのは彼で、理由を聞いたら昔冒険者になるきっかけをくれた少女に似ているから、という話だった。ちなみにアドリアと俺のことを知っているらしく、二人きりになるとすごく真面目な顔で、あの子を悲しませるな。と何度も言われている……。お父さんみたいですな、ロスティラフは。


 とまあ、善人の多いパーティであることは間違いない。今そのメンバーと、ファビオラが大荒野の街道を歩いている。すでに三日目……街道とは言っても最も安全に歩ける大街道ではなく、中くらいのあまり使われていない街道を進んでいる。

「閑散としてますねえ……」

 アドリアが少し不安そうにロスティラフの隣を歩いている。ロスティラフは優しい目でアドリアの頭を撫でる。少し嬉しそうな顔をしているアドリア。こうしてみると本当に親子みたいだな。


「片道一週間……途中で狩りもしないと食料が足りないのではないかな」

 その様子を見ていた俺の顔を見て、ロスティラフが今後の相談をし始める。確かに携帯食料は確かに持ち運びには便利なのだが、二週間近くそれだけ、というのは流石に困難だ。どこかで動物や魚を捕まえて食料にする必要があるだろう。

「そうだな……見かけたらすぐにとった方がいいかもしれないね」

「でも昨日から全然動物見ないわよね?」

 アイヴィーが周りを見ながら肩をすくめる。確かに……異様なほど動物の姿を見ない。地図上ではこの街道から少し外れた場所に川があるので、そこであれば魚は取れるかもしれない。


「川の方に寄ってみるか? そこなら魚が取れるのでは?」

 ロランが俺の見ている地図を覗く。納得したように頷いて、ファビオラに話しかける。

「おい、あんた。食料事情を解消するために少し街道を外れて、魚を取ろう」

「え? そんな時間をとるのですか? 急げば明日には到着できると思うのですが……」

 ファビオラは不満そうだ。もう一刻も早く遺跡へ行きたい、という空気を出している。気持ちはわかるが疲労で疲れ切ったところに敵でも出てきたら意味がない。


「焦るのはわかるが、こちらの指示に従ってくれ。疲れ切ったところに混沌ケイオスの化け物と戦う、ってのはあまり想像したくないんだ」

 俺の言葉に、少し悔しそうな顔をして、わかったと悔しそうな顔をして呟く。あまり納得はしてないだろうが……疲れをとる時間も必要だろう。




 川は思ったよりも大きく、そして魚が大量に取れた。王国や聖王国の川は農民や漁民が罠を仕掛けており、魚はほとんど釣れない……場所によっては勝手に漁をすると、漁民から攻撃を受けたりすることもあって危ないのだ。

 その点大荒野には、こんな場所に罠を仕掛けようなどという物好きは存在していない。そのおかげなのか入れ食い状態で魚を釣り上げることができたのは良いことだった。


「久々に魚を食べるな……」

「聖王国ではなかなか食べれませんでしたからねえ……」

 ご馳走に期待しながら焚き火で魚を焼き上げていく俺たちの横で、ファビオラが何かの文献を熱心に見ている。

「何を見てるんだ?」

 ロランがファビオラに近寄る。ファビオラは少し考えた風だったが、すぐにロランにその文献を見せる。

「神話時代にここで行われた大戦の記録です」

 彼女の説明によると、大荒野が大荒野となった神話時代、この場所では神々とその下僕達の戦争が行われていたのだとか。もともと肥沃な土地だったはずの大荒野は、多くの武器、魔法、そして奇跡により今では不気味なくらいに荒れ果てた土地となった、ということだ。

 神の武器……か。ロールプレイングゲームなどでは神の武器というのは大体ロクなものがなくて、暴走したり文明を滅ぼしたりというのが多かった気がする。やはり人間の知恵や努力ではそういった大きすぎる力を制御できないのだとも思うし。


「あ、クリフさん魚焼けましたよ」

 アドリアがニコニコ笑いながら俺に串に刺さった魚を渡してくる。そのまま、ロランやロスティラフ、アイヴィーへと魚を渡していく。ファビオラも笑顔のアドリアに驚きながらも魚を食べ始める。


「あら……これ美味しいわね」

 思ったよりも美味な焼き魚に、ファビオラが普段のポーカーフェイスではなく、驚いたように頬を赤らめて感心している。

「生の魚でも食べれるが……こういうのも味わいがあって良いな」

 ロスティラフも嬉しそうに目を細めて焼き魚を齧っている。彼はなんというか……とても人間臭い反応をする時が多く、知識として知っている竜人族ドラゴニュートのイメージとは少しかけ離れている気がする。

 アイヴィーも相当に美味しかったのか、彼女には珍しく魚を齧って食べている……俺の視線に気がついたのか、少しむくれたようにそっぽを向いてしまった。あら、かわいい。

「さあ、まだまだありますよ!今日は魚で楽しみましょう〜」


 アドリアの明るい声が大荒野に響いていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る