85 図書館での逢瀬
「お、ゲテモノ食いのクリフさんじゃないですか」
アドリアがめちゃくちゃ悪そうな顔をして俺に話しかけてくる。
「そ、そのあだ名止めない?」
「いやいや、真実じゃあないですかー」
嫌がる俺の顔を見て、アドリアがにひひと笑う。今俺とアドリアはデルファイにある公営の図書館の中にいる。ここは
先日の魔物。王国や聖王国では聞いたことのない魔物だ。アイヴィーの話によると記憶を使って相手に幻覚を見せてくる、目玉と触手で構成され、恐怖や悲しみといった感情を食べる魔物。そして自由に姿を変えて、相手の何かを食べる魔物。それを記録から調べておく必要があったのだ。
「クリフさんがシてしまった魔物のこともそうなんですけど、アイヴィーが遭遇した悪夢を食べる魔物、というのは気になりますね」
「いや、シてないんで」
「隠さなくてもいいんですよ、クリフさん。誰しも隠したい過去、というのは存在しますから、私は理解しますよ」
「いや本当にシて無いんですよ」
「はっはっは、信じられませんねえ。あなたほどのエロ大王がヤらないなんて」
アドリアが笑う。俺の扱い酷く無いですかね、このパーティは。なんかリーダーという扱いの割には、軽いんだよね、俺の扱い。
とりあえず書類などを調べてこの話題を変えるしかない。俺は図書館にある過去の記録などを調べていく。俺の前世の知識でもそういう魔物、というのは聞いたことがない。書類を漁って、ざっと数年分の資料を見ているが似たような記録はない。
「クリフさん、ちょっといいですか?」
アドリアが何かを見つけたようで俺を呼ぶ。彼女の横へ行き、一緒にその資料を見る。そこには俺たちが遭遇した魔物のことが書かれていた。記録はかなり古く……100年以上前の記録で、『大陸動物録』と題された冒険者が書いた分厚い書籍だった。その本にはかなり多くの動物、魔物の詳細が手書きの絵とともに紹介されていた。
『
対象の望む姿をとり、その肉や精を食う魔物。混沌の使徒でもあり、大荒野においてのこの魔物の被害者は多い。
本来の姿は顔がなく、ほぼ無形の何かでしかない。取り憑かれたものは最終的に、この魔物に衰弱させられ、弱った対象者を食う。対象者を決めるとその対象を喰らうまでは他の人間を襲うことはしない。
判別方法は魔法での感知や、混沌感知などで見分ける、対象の声などで喋ることが難しいため会話をする。血液の色が人間などと異なるため、傷をつけるなどがある。
「対象の望む姿……つまりエロいこと考えてたクリフさんの前にアイヴィーに化けたこの魔物が現れた、ってことですかね」
そういうこと考えていなかったが、かなり焦って探していたので違和感に全く気が付かなかったのは俺の落ち度かな……。
「でもさあ、俺特にそういうこと考えてたわけでは……ぐっ」
反論を兼ねた感想を伝えようとしたが……アドリアは俺の唇に人差し指を当てて、笑う。
「次はこれですね」
『
巨大な目玉と触手で構成された混沌の魔物。対象の頭に取り憑き、幻影を見せる。記録では過去の記憶などを悪夢として再現し、その時に生じる恐怖や悲しみを喰らう。食べ続けることで被害者は衰弱して死に至る。
直接的な攻撃能力は低いが、一度幻覚に囚われてから、自らの力で抜け出せるものは少ない。
暗闇などに潜むが、複数の対象を同時に攻撃することができないため、固まって行動すれば攻撃を仕掛けてこない。
「これか、アイヴィーが話していたのは」
「そのようですねえ……、詳しくは聞いていないですけど、こんな魔物がいるんですね」
うーん……一般的なRPGに出てきそうな魔物は覚えているつもりだったけど……そうではないものもいるんだな、と改めて思う。そして王国や聖王国では見なかった混沌の魔物が大荒野には存在している、ということか。
色々考えることが多く、資料を見ながら思考を巡らせる。
どちらにせよ『
「クリフ……」
いきなり耳元で囁かれて、声の方向を見るとアドリアの顔が目の前にあった。唇と唇が触れる。おっと……そういえば最近アドリアとはそういうことしていなかったっけ。
「最近アイヴィーばっかり……ずるいですよ」
アドリアが俺の唇を舌でなぞる。そして俺の頬に両手を添えて、積極的に舌を差し入れてくる。アドリアの舌が俺の下に絡み、軽く吸われる。アドリアの上気した頬と、潤んだ瞳が間近にある。ちょこんと俺の膝の上に……俺と向かい合うように小さな体を乗せて、俺を見つめる。
「いや……そういう時間がなかったじゃないか」
「そうですよ、でも今私とあなたしかいないです。図書館なんて人はほとんど来ませんから……」
何度か啄むように唇を合わせると、俺にしがみつくようにアドリアが細い両手を背中に回して抱きつく。
「こういうの好きですよね、クリフは……」
俺の首筋に舌を這わせ、吐息を漏らすアドリア。少女のような外見だが、アドリアは本当に積極的に俺を求めてくる。そのギャップにやられた、というのが正直なところなのだが、アイヴィーには言えないな……。軽くアドリアの体に手を添えて……彼女のローブの切れ込みから手を入れ、白い太ももに手を這わせていく。
びくりと体を震わせた後、アドリアは俺の耳たぶを軽く噛み、舌を這わせていく。
「そういえば……初めてもこんな場所だったっけ……」
彼女に悪戯したくなり、耳元に口を寄せてそっと囁く。その言葉で一番最初のことを思い出したのか、顔を赤くして下を向くアドリア。案外……そういう攻め方に弱いのだ。
「だ、だってあの時……クリフがもう我慢できないって……無理矢理」
「無理矢理? アドリアがそう言うふうにして欲しいって……」
彼女の首筋に唇を当てて、ゆっくりと舌を這わせる。再び体を震わせて、アドリアが俺にしがみつく。
「んっ……だからエロ魔人なんですよ、クリフは」
「俺のことは……嫌い?」
「……愛していますよ。今は……私だけのクリフです……」
アドリアが俺を見つめて、少し恥ずかしそうな、でも勝ち誇ったような笑いを浮かべる。何度も言うがこの子のギャップは……愛おしい。アイヴィーとは違う意味で、俺はアドリアの魅力の虜だった。どちらかを選べ、と言われても選べないかもしれない。
彼女との逢瀬はアイヴィーには話してない……もしかしたら薄々感づいているかもだけど、あえて話さないようにしよう、と俺とアドリアは決めていた。……背徳感もスパイスになっているかもしれない。
「……ここだと見つかっちゃうかもですから……ちゃんと2人っきりになれる場所へ行きましょう」
「そうだな……久しぶりだし、長い時間一緒にいたい」
もう一度アドリアが俺に覆い被さり、深く口づけをする。どこか2人でいられる宿を探さないとな……。
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