81 村を目指したら廃墟が待っていました
「ここのはずなんだが……なぜだろう」
地図では村が一望できる丘に俺たちは到着した……はずだったが、俺たちの目に写っているのは……。
「どー見ても廃墟ですね」
アドリアが手を目の上にかざし、村があったであろう廃墟を見つめている。目線の先には、もともと家であったであろう残骸と、石垣が破壊されていた後が見えている。一週間前まで人が住んでいたとは思えないくらいの破壊ぶりであった。
村というよりは……遺跡? に見えるのだが……。本当に人が住んでいたのだろうか。
「なんかおかしいな……近寄るのは少し控えた方が良い気もするが……」
ロランが不安そうに呟く、表情は変わらないがロスティラフも同じ感想のようだ。尻尾が不規則に動いている。アイヴィーも流石に状況がおかしいことに不安になっているらしく、押し黙っている。
「違和感はあるけど、調査をしなければ依頼失敗になるしな……やるしかないだろうな」
その言葉に全員が頷く。
「もうそろそろ夜ですけど……どうします?」
アドリアが俺に尋ねる。一応……このパーティのまとめ役はアドリアだが、リーダーとして決定をするのは俺ということになっている。別にアドリアでいいじゃん!と思ってるんだが、そこは男性がやるものですよ、と説得されてそういう役どころに収まっている。ぶっちゃけていえばアドリアのいうことに対してOK!というだけで今までは大体良かったのだけど。
「うーん……どちらにせよ、今から街に戻るのも辛いよな。廃墟だけど……あそこで1泊はしないとダメだろうな」
「え? あんな場所でですか?」
アドリアが少し嫌そうな顔をする、いや俺だって嫌だよ。
「廃墟内ではなくて、少し離れた場所でいいんじゃないか?、廃墟内は流石に俺でも無理だな」
ロランが俺に肩をすくめて話す。まあそうだな、俺も頷いて……廃墟から少し離れた場所に野営を作ることになった。
手分けをして廃墟の調査を進めつつ、俺たちは野営の準備を始めていた。
廃墟の中はどう見ても一年以上は人が住んでいないのではないか? と思うくらい荒れ果てていた。それくらい生活の跡がない。これではまるで
「クリフ殿、ここは何かおかしい」
「やはりそうだよな……生活感がなさすぎる」
「うむ……ここで野営をするのは危ないかもしれませぬ」
悩みどころだ。どうするべきか。アドリアがいれば意見を言ってくれたかもしれないが……今は俺が決めるしかない。とはいえ、ロスティラフの意見を聞いてみることにした。
「どうするべきだと思う?」
「ここを見渡せるあの丘へ、急いで野営を移すべきかと思います」
お互い頷いて、キャンプへと戻ることにした。
すぐに野営の準備を進めている仲間のもとに戻って来た俺たちは、仲間の姿を確認する。アドリアが焚き火を起こそうと、発火用具を抱えていたところに遭遇する。アドリアは少し緊張感のある俺の顔を見てキョトンとした顔で訪ねてきた。
「どうしました? クリフさん?」
「アドリア、野営を移そう、何かここはおかしい」
「え? もうほとんど準備終わっちゃいましたよ……でも、本気みたいですね」
アドリアは俺とロスティラフの顔を交互に見て、状況を理解したのかすぐにロランへ声をかけて動き始める。アイヴィーは? いないぞ? どこだ?
「アドリア、アイヴィーは?」
「え? その辺にいないですか?」
ああ、もうこんな時に……。探しにいかなければ。ロランが状況を理解したのか、すぐに野営を撤収する準備に移る。
「俺が探してくる、ロランとロスティラフはアドリアを手伝ってくれ!」
廃墟の中でアイヴィーを探す。夜になっているので、だんだんこの場の空気……違和感が大きくなっていく。
「アイヴィー! どこだ!」
こうしてみると、この廃墟はあまりに生活感がない、いやなさすぎる。一週間程度人がいないのであれば、食料などが腐る匂いや、人が死んでいるのであれば
原型をまだ残している住宅跡などを調べて回るが、アイヴィーの姿はない。
「アイヴィー!」
その時、ふと視界の隅に金色の髪の毛が見えた気がした。その方向へと進んでいく。すると、一つの廃墟の中にアイヴィーが立っているのが見えた。
「アイヴィー、何してるんだ。早く戻らないと」
アイヴィーは俺の顔を見ると、なんでここにいるんだ? というような顔をしている……少しぼんやりしているのか?
深く問いかける時間もなさそうだな……俺は彼女の手を引いて歩き始める。彼女は俺に連れられるまま、歩き出す。
「野営を片付けるから、丘の上に移動しよう」
彼女の顔を見るが、何かを考えているように下を向いており……それ以上の表情は見れない。少し違和感を感じるが、旅の疲れもあるかもしれないし、もしかしたら何か異変にあった可能性だってある。みんなと合流してそこから色々考えよう。
「クリフさん、ようやく戻ってきましたか」
キャンプにアイヴィーを連れて戻ると、野営は大方片付いていたところだった。アドリアがアイヴィーを見て……少しあれ? という顔をしているが、すぐに俺に向き直ると話し始める。
「ロランさんとロスティラフさんが既に大部分の荷物を丘の上に移していますよ」
じゃあ残りは俺たちだけか。アイヴィーに自分の荷物を持つように促し、俺は自分の荷物と残りの荷物を持って丘の上に向かう。アイヴィーは……のろのろと荷物を持って、こちらに向かってきていた。
「アイヴィー、大丈夫ですか?」
「わからない、何かあったのかもしれないな……俺が荷物持つからアドリアはアイヴィーを頼むよ」
アドリアの荷物を受け取ると、俺は丘の上に移動していく。アドリアもアイヴィーと手を繋いで、彼女を先導して歩いていく。大丈夫かな。
俺たちは……アイヴィー……らしきものが不気味な笑いを浮かべていることにその時は気がつかなかった。
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