80 俺たちへの新しい依頼
「さあさあ! 次の依頼をこなしちゃいますか!」
明るいアドリアの声が響く。ロスティラフは昨晩あそこまで飲んでたのに、全く影響を見せないこの
「ちょっと待ってくれ、朝からアドリアの声は頭に響く」
「ロランさん、年も考えずに飲み過ぎなんじゃないですか?」
アドリアが少し意地の悪い笑みを浮かべて上目遣いでロランを見るが、当のロランはそれどころではない、というふうに辛そうな顔をしている。
「……俺はまだ三〇歳超えてないぞ」
何でも娼館でもたらふく飲んでいたようで、気分が悪そうな顔で時折口元を押さえながら歩いている。その様子をやれやれ、という風に見ているアイヴィー。そしてその後ろで、束ねられた複数の紙を歩きながら眺めるクリフ。
いつもの光景だ。パーティを引っ張っているのはアドリアーネ・インテルレンギ、依頼の選別や交渉などを一手に引き受け、依頼の遂行日なども全て管理している。
アドリアに直接依頼をしてくる者もいるようで、最近は護衛も兼ねてロスティラフがそばにいることが多くなった。
「あいつ、俺たちのお母さんみたいだよな」
とロランが冗談混じりに話していたが、その言葉に同意したくなるくらい、アドリアは世話焼きだった。
俺=クリフはパーティの一番後ろをこの付近の歴史をまとめた簡単な写しを眺めながら歩いている。大荒野に来てから一年程度しか経過していないが、この地はあまりに異様なレベルで魔物が生息している。大荒野自体がまだ探索の手が済んでいない場所であるとしても、入植してから何百年も経過しているわけで、状況不明とか探索不可能となっている場所が多すぎるのだ。
まるで見られたくないものを隠しているかのような、そんな違和感を感じる。
「どこかに、何かがあるのかも……」
「どうしたの?クリフ」
アイヴィーが俺の顔を見て話しかけてくる。近くにきた時に俺は彼女の匂いを感じ取ってしまい、昨日のことを……彼女の潤んだ瞳とそして切なそうな顔を、鮮明に思い出して少しドキッとする。
「あ、ああ。付近の情報をまとめた報告書を見ているんだけど……どうも腑に落ちない点があるんだ」
「どういうところ?」
「なんていうか……不自然なくらい情報が偏っているというか……」
アイヴィーは俺の手から数枚の紙をとり読み始める。ざっと目を通すものの、訳がわからないなという表情をしている。
「んー……わからない」
「違和感、でしかないから……まだ調査は必要だと思う」
アイヴィーは頷くと、俺に紙を返してくる。
「ま、考えるのは任せるわ。それとアドリアの持ってきた今回の依頼は、入植した村の調査だって」
その言葉を聞いてアドリアがこちらを向いて話し始める。やっと話を聞く気になったか、とも言わんばかりの表情だ。
「そーですよ、みなさんまともに話を聞いてくれないから遅くなっちゃいましたけど、今回の依頼はこれです!」
アドリアが依頼の紙をひらひらとなびかせると、パーティの視線がその紙に集中する。話によると以下のような形だった。
数年前にデルファイから半日の距離にある場所へ入植した村があった。村は自衛なども可能なレベルでの人数で集団入植したことと、建設時には脅威も少なく、距離もそれほど離れていなかったので問題はないと思われていたが、一週間ほど前から定期連絡が来なくなった。
異変が起きていることを認識した
「人使い荒いよね、
ロランがまだ気分が悪いのか口を押さえながら話している。その言葉に笑いながらアイヴィーが続ける。
「まあ、それだけ他に任せられる人が少ないってことかもね」
彼女は胸元からシルバーのタグがついたネックレスを取り出して眺めている。『
ミスリル級も認定されている人数が少なく、デルファイにいる最上位のクラスはダイアモンドの冒険者が1名のみ、金級パーティが二つしかないそうだ。そしてその連中は今別の依頼を受けて動いている。
そう考えると俺たちが
「まあ、確実に何かいるでしょうね」
アドリアがそれまでのおちゃらけた表情から、真面目な表情へと切り替えた。アドリアはぱっと見は一五〜一六歳くらいの少女にしか見えないが、その知識、頭脳の明晰さは外見通りではない。
「警戒は怠らず、調査を進めましょう。大丈夫いつもの私たちなら問題ないですよ」
全員がその言葉に頷く。冒険者としての実力、自信は俺たちを大きく変えている。
俺たちは、今現在大荒野に存在している唯一の都市国家デルファイで最も依頼成功率の高いパーティ、『
「さあ、行きますか!」
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