71 英雄(チャンピオン) 03
さて説明しよう。
避けきれないと判断した俺はその前のタイミングで展開していた
とはいえ威力は完全に殺せなかったため
経験したことないけどな!
視界が赤い。出血の感覚もある。というかこれ普通の人なら死ぬんじゃないか?とさえ思う。痛みで思考がまとまらない。
ガエタンの方を向くと、ガエタンは手を押さえて震えている。
「……闇よ、深淵の力よ」
力を振り絞って詠唱を行う俺の前に闇の黒点が出現する。前回とは違って、かなりスムーズだ。
「我が影から生まれ、敵を貫く槍となれ」
黒点の姿が変わり、徐々に槍のような姿へと変化していく。
「……な、なんですか? あれは……」
「わかりませぬ……!」
アドリアとトニーが驚いた表情を浮かべている。
<<
<<
<<「9991_clif_nevil_a1_@#$)(*"snjdt」における本バージョンのバグを検出……修正を検討>>
それを見たガエタンが驚きの表情を浮かべる。
「そ、それは……あの方々の……」
「敵を貫け! <<
黒い槍が凄まじい速度で射出され、恐怖で硬直したガエタンの胴体を貫く。
叫び声をあげて苦しむガエタン、槍が小爆発を起こし、右半身の一部が吹き飛び血が吹き出す。
「アイヴィー!」
その声に反応したアイヴィーが突進し、
ガエタンの体がビクンと硬直し驚愕の表情を浮かべた首が落ちていく……地面に首が落ちるのと同時に、ゆっくりと胴体が地面へと倒れ、動かなくなった。
俺は膝をついて地面に倒れないように両手で支える。どろり、と血が流れる感覚があり、ぽたぽたと地面へと血が落ちていく。支えられなくなり地面へと倒れる。ああ、だめだ地面だけ見ているわけにはいかない。何とか仰向けに倒れようとする俺をアイヴィーが支える。
「アドリア!」
アイヴィーの声に、反応して慌ててアドリアが俺に駆け寄る。治療魔法で俺の頭の血を止めようとしているのだ。意識が混濁している。
<<仕様上のバグを検証終了……数式修正……検証……完了。反映にはバージョンアップデートが必要です>>
「傷が深いです……! 傷を手で押さえて!」
アイヴィーが慌てて俺の頭の傷を抑える……綺麗な手がどんどん血で染まっていく。だめだよ、君の手が汚れちゃう。……耳の奥で何か音がする。
<<新しいバージョンのビルドを開始……ビルド構築中……>>
アドリアが目に涙を浮かべて懸命に魔法で止血をしている。トニーも大急ぎで荷物セットから応急処置道具を持ってくる。
みんな必死だ、俺もう眠いよ……そのまま意識が暗転する。
<<新しいバージョンのビルド完了。引き続きアップデートに移ります。>>
なん……だ……うるさいな……もう仕事はしたくないよ……。
<<アップデート……一〇〇パーセント……本バージョンの修正点についてはリリースノートをご覧ください。>>
頬に当たる水滴。冷たいなあ。雨でも降ってるのか?
「……フ……クリ……フ」
はっ、と気がついた時に俺を覗き込んでいる目があった。
アイヴィーだ。目に涙を浮かべている。
「……あれ? 俺死んだの?」
「よかった……気がついてくれた……」
涙を軽く手で拭ってから、アイヴィーが俺の頬に手を添える。あ、俺死んでないのか。俺はアイヴィーの膝の上で寝ていた。頭には包帯が巻かれ、傷口は塞がっている。ズキズキと痛むが起き上がれるようだ。
「クリフさん……よかった……」
アドリアも泣きながら俺のことを見ている。トニーも涙目だ。
「お、俺そんなに死にそうだった?」
頷く一同、寝たまま話を聞くともう起き上がってこないと思っていたらしい。ガエタンの拳は致命傷にはならなかったものの、俺の頭に大きな傷を作っていた。後頭部に大きなたんこぶもできてるし。鼻血もすごかったんだとか。
「そっか……大丈夫。少し休んだら回復できるよ」
笑いながらみんなに答える俺。俺の頬を優しく撫でるアイヴィー。くすぐったいのと動くとまだ頭が痛い。
「もう少しこうしてていいかな?」
泣き笑いのまま頷くアイヴィー、ああ死ななくてよかったな……。
数時間ほど休み、軽く食事などもして治癒魔法やポーションを飲んでいると、ある程度動けそうな状態になった。森の中で一晩過ごす、というのは正直危なすぎるため、休憩してから村に向かった方がいいだろう、という話になった。大型昆虫でも出てくるとキャンプしてる間に捕食されかねないからだ。
そうそう、魔法のことは俺が昏倒している間にアイヴィーが俺は趣味で古代魔法を研究しているらしいと説明してくれていた、さすがマイハニー、仕事ができるね。
「だ、大丈夫なの?」
俺の顔についている血を水で濡らした布で拭き取りつつ、アイヴィーが心配そうに尋ねてくる。なんか朝出勤前に恋人に世話してもらっているような、そんな光景に見えるなあと思った。
「まだ頭痛はするけど、みんなのおかげで動けるよ。魔法で支援とかもできるし、ただ前線はアイヴィーにお願いすることになっちゃうけどね」
苦笑しつつ心配そうなアイヴィーの肩に手を置く。正直言えば一度戻るべきだろう、とは思うがこの世界の魔法とポーションの効力を甘く見てはいけない。超高級なポーションと塗り薬で欠損した四肢すら生えてくる効果があるのだ。時間はかかるのだけど。
「無理しないでね」
アイヴィーが心配そうな顔をしつつも俺の頬に軽く口付ける。目が潤んでいるのは本当に心配だからだろう。ごめんね心配ばかりかけて。俺も軽くアイヴィーの頬に口付けて応える。
その様子を見ていたアドリアの胸がズキンと痛んだ。ほのかに炊かれた淡い心が痛みを感じている。
最初は些細なじゃれあいで悪戯しようと考えた、でも彼の顔を見て行動しなかったことを後悔した。もしかしたら私にもチャンスがあったんじゃないか?とさえ思った。
傷の手当てをしてくれた時に感じた手の暖かさ、優しい手にもっと触れたい。そして何より笑顔を見ると心が高鳴る。でもアイヴィーと仲良くしているクリフを見ると辛い。死にそうな怪我を負ったクリフを見た時に強く心が揺さぶられた。死んじゃいやだ! まだ気持ちを伝えていない! と急に切なくなった。
「やめて……私の前でそういうの見せないで……」
小声で呟いて下を向いて震える。わかってはいるのだ、あの二人を焚きつけたのは自分だし、それでもいいと思っていた。でも……気がついてしまった。本当は自分がそこにいたい。私にも笑顔を向けてほしい、アイヴィーだけに向けないで。
それは嫉妬。
「……苦しいよ……私苦しいよ……」
アドリアは自分に芽生えた感情に戸惑いながら二人の仲睦まじい様子を見ている。見ているのが辛い。彼には私のこと見て欲しい、でもアイヴィーにこの心を知られたくない、親友に知られたら……彼女はどう思うだろうか?軽蔑されるかもしれない。それが怖い、こんなこと話せない。『私、あなたの恋人のことが好きです』なんて。
それは恐怖。
「……言えない……言えないよ……」
アドリアは心の中に恐怖と、親友への強い嫉妬心を感じて震えていた。怖い、こんな気持ちでいる自分が怖い……。
……その様子を水晶に映し出し、ネヴァンは大きく歪んだ笑みを浮かべ……軽く涎を垂らしながら長い舌で舌なめずりをして喜びの声を上げる。
「弱い心ぉみいぃぃつぅぅけぇぇぇたぁぁぁ!」
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