70 英雄(チャンピオン) 02
「行くぞ!」
ガエタンがニヤリと笑い、再び襲いかかってくる。あまりの早い突進に驚く暇もない。連続で繰り出される剛拳が肌を掠め、一瞬遅れて風圧を感じる。攻撃を避け切ると、間髪を入れずに逆手に持った
「クリフさんの攻撃が当たった!?」
アドリアが驚くも、当事者の俺はあまりの硬い感触に驚いていた。
ガエタンの手甲は可動部分以外を全て装甲で覆った特別なものだ。手のひらすら装甲で覆われており
「固っ……」
ギリギリと音を立てて押し戻される
そこへアイヴィーが飛び込んできて突きを繰り出す、がその攻撃をなんなく避けて距離を取る。その合間にトニーが支援魔法を俺にかける……
「ありがとう!」
「頑張ってくだされ」
トニーは戦闘支援特化の魔道士だ。正直言えばあの筋肉だから戦闘もこなせるのだろうが……彼自身はそう言った経験が無いようで、ずーっと完全に支援に徹している。とはいえ力比べをすると全然勝てないので、格闘戦術を覚えると相当なレベルにいきそうな気もする。
「クリフさん! <<
アドリアが最近覚えたという攻撃魔法
ガエタンは
「グフフ……使徒殿は強者であるな、そして仲間からの信頼も厚いようだ」
ガエタンは興奮しているのか、口から少し涎をたらし、それに気がつくと軽く唾を吐いて口元を拭う。再び腕を構えると手を解すかのように動かす。バキバキと音を立てる拳。全身の筋肉が盛り上がる。
「そいつはどうも、アンタも強いな、というか強すぎるな」
話しかけてくれているなら、次の行動を考える間でも会話でなんとか時間を作りたい。受け身に回っていると正直考える時間がなくて俺も辛いのだ。
「我は
笑いながらジリジリと距離を調整するガエタン。そうはさせじと俺とアイヴィーは別々にガエタンとの距離を取っていく。地味だが戦士として必要なこのせめぎ合い。
「俺もあんたほど強い
汗が軽く頬を伝う。凄まじい殺気を感じる……アイヴィーも表情が硬っている。軽く目が合うとアイヴィーが頷く。
「
少し
恐怖か。そうか……少し頭が硬くなっていた気がする。
吠え声をあげ、ガエタンが一気に距離を詰める、俺狙いだ。アイヴィーが妨害しようと突きを繰り出す、肩口に軽く
小石が破裂し、甲高い音と閃光を発する、規模自体は小さいが、まともにそれをみていたアイヴィーが目を押さえて踏鞴を踏む。
「あっ……目がっ!」
猫騙し、だな。こういう小技を使ってくる戦士はこの世界で初めてだ。感心してしまい、俺も笑みが浮かんでしまう。こいつは本当に強いし、頭がいい。こんな強い相手と戦えるなんて……ある意味貴重なのだ。軽く肩から血を流しながらも獰猛な笑いを浮かべてガエタンが剛拳を振りかぶる。
ガエタンが必殺技としているのはその剛拳、しかも四本の腕があるので四連打になる。一発一発が必殺の威力を持っており、みた通り地面を抉るくらいの破壊力を持っている。まともに食らうと頭なんか簡単にちぎれてしまうだろう。
そしてその破壊力と速度に絶対の自信があるガエタンは、その攻撃しか繰り出してこない。鎧でガードされている部分ではなく継ぎ目を狙う。
一発目、二発目、ギリギリで避けていく。拳が通過するたびに凄まじい勢いと迫力がある。正直言えばめちゃくちゃ怖い。でもセプティムが発した殺気ほどではない、なんとか耐えられる。
三発目……避けた、と思った瞬間に背中がぞくり、と寒くなった。全てがスローモーションのように見える、ガエタンが俺をみて笑っている? 次の瞬間にこめかみに強い衝撃を受けて、痛みで俺の頭が混乱する。え? 当たった?
ガエタンの三発目の攻撃は途中で止まっており、俺のこめかみに横から腕を使って打撃を入れる軌道になっていた。手甲が金属製ならではの技だ。前世は格闘素人だったため、バルトの格闘戦術を学んだ。その中でバルトがよく言っていたことがある。
「剣もそうだが、途中で攻撃の軌道を変える、という技がある。剣なら突きと見せかけて、そこから横凪にする技、拳なら肘打ちに切り替える、とかだ。お前が魔道士を目指すなら、戦士とはできるだけ接近戦をするな、危ないぞ」
父親の笑う顔が浮かぶ。そうか、そうだ誘われたんだ、これは。
「クリフっ!」「クリフさん!」「クリフ殿!」
アイヴィーの悲鳴、アドリアの悲鳴、トニーの悲鳴が俺を回想から連れ戻す。目の前に迫る四発目の剛拳。恐怖がぶり返し、目を見開いて迫る拳を見てしまう。だめだ見るな生き残れ! やれること全部やるんだ!
剛拳がクリフを捕らえ、体ごと地面へと叩きつける。轟音と共に地面が震え、濛々と砂埃が舞う。ガエタンは必殺の一撃を予定通りに叩き込めたことにほくそ笑む。
「うそ……嘘よ……」
アイヴィーが震えながら膝をつく。目を大きく見開き、震えて固まる。
「ク……クリフさん? 嘘……ですよね?」
「まさか……」
アドリアもトニーも唖然とした表情でその光景を見つめている。アドリアの目に涙が浮かぶ。
「ア、グ、アアアッ」
急にガエタンが苦しみ出す。ガエタンが苦しそうに踏鞴を踏んで後退する。四発目の攻撃を放った拳から血が流れ出す。
人影がゆっくりと立ち上がり、砂埃が徐々に晴れていく。そこには盛大に頭から血を垂らしながら、立ち上がったクリフがいた。
「ゲホッ……あ、危なかった……」
……再びクリフの頭からどろりと血が垂れ、大きくふらつき膝をつく。
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